周囲は得てして悪気なく比べてしまう。それが同じ歳で身近に存在したのなら無意識のうちに尚更……その比べる物差しは『できた』『できない』、『上手い』『下手』、『早い』『遅い』だけにとどまらず『男』とか『女』とかにまで及ぶ。
 背の高い・低いだとか、ご近所の噂話レベルの知識を知ってる・知らない、僅か1分ほどの差異でしかない弟であるかお兄ちゃんやお姉ちゃんであるかの有無……。

 空木はそのことに苦しんだ……。今は何も言わなくなった父には『見放された』と感じ、何でも器用にこなす姉には見下されているようにも思え、幼馴染の同級生たちである光・谺は学年でも上位のカーストに属しハキハキと明るい存在、そこの輪の中にいる自分だけが浮いていて、惨めであった。
 グループ学習や班分け、球技大会なんかでは光と谺が仲間に誘ってくれた。そしてそのことでバカにされることもあった。

「空木だけ下手くそじゃん」
「空木のせいで鈍臭く思っちゃうよな」
「よく一緒に居られるな」


「女に負けて、カッコ悪くね?」


「あなたたち、お姉ちゃんの凄い記録、知らないのね!」

 希の過去の記録に助けられるのは情けなかったし、千風がそう言うのも慰めにはならず、光や谺が庇ってくれるのも何か違うと感じていた。空木にとって学校生活とは大海で、自信やプライドなんてものはそれらに砕かれるものでしかなく、消極性と我慢を強いられた。

 それでも空木は腐らず、歯を食いしばりコツコツと努力を重ね、中学校を卒業する時には、先天性の能力(センス)より努力で補いやすい体力・持久力の象徴でもある『シャトルラン』で千風114回、光127回、谺127回、そして空木114回という成功体験を得る。



 小学校のときは同じ敷地の同じ校舎、同じ空の下に居る実感があったけれど、希が中学校に進学してからは、空木が中学校に上がると希は高校へ、高校へと追いかけると希は大学へと、その姿を捉えることができない。それは小学校までは前を走る希の姿を視覚に捉えることができていたけれど、いつからか遠く見えなくなってしまった物理的な距離とリンクしていた。

 美人で明るく優しい希、空木はずっと追いかけてきた。その自分より希に近い位置にいる姉・千風、そして光と谺。彼らを追い抜かない限り希の一番近くには辿り着かない。


 空木は何度だって立ち塞がる壁にぶつかっても歯を食いしばる……。