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 それからはナギサも毎週わたしのもとを訪れるようになった。もちろんコトラとケンちゃんも一緒だ。
 そして三人で昔の事を思い出し、あれやこれやと思い出話に花を咲かせ、ナギサは熱心な様子でそれをメモに取った。
「ボクが金の涙を流した時のことを話してあげよっか! そん時はケン兄ちゃんとレンジ兄ちゃんでなんとか涙を流させようとしてたんだけどさ……」
 話の中心はいつでもコトラだった。ナギサと話したい一心だったのもあるが、それ以上に主役の座を取ろうとしているようにも見えた。なにしろムニャムニャは作戦を考えるのが大好きだったからだ。
「それが、てんで駄目だったんだよなぁ、オレもレンジもぶてねぇしさ、コトラはタマネギでも涙を流さねぇし」
「そうそう、悲しい話をしたらケンちゃんのほうが先に泣いちゃって」
「おお、そうだったなぁ、いやぁ、なつかしいねぇ」
 わたしとケンちゃんはこの手の思い出話になると止まらなかった。
「それでさ、ボクが!」
 そのたびにコトラが話に割り込んできてなんとか主導権を取ろうとするのだった。
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 それから半年ほどして、ナギサの新連載が始まった。
 ちなみにタイトルは『ごーるど・らっしゅ¥』。
 ナギサはその一話目が載った雑誌を早速わたしのところに持ってきてくれた。
 そこに展開していた光景はわたしの予想をはるかに超えていた。
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 まず驚いたのは、やはりナギサがプロの漫画家だったということだ。
 とにかく絵がうまいのだ。それにテンポがよくて読みやすい。
 少女漫画とはこれまで縁がなかったのだが、わたしが見てもとても楽しく読めた。
 次に驚いたのは、登場人物が美形ぞろいだったということだ。
 なにしろわたしまでが美形の主人公になっていたのだ!
 しかも主役。名前はレン。もちろんわたしのことに決まっている!
 冷静沈着でクールな印象だが、時折、フッとやさしい笑みを浮かべるリーダー!
 ここまで格好よく描かれるとさすがに照れてしまう。
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 ちなみに漫画は毎週連載だったので、話はどんどん進んでいった。
 やがてケンちゃんが登場する。
 ケンちゃんは少し不良っぽい、野性味のある二枚目だ。
 喧嘩の腕っ節は抜群で、そのくせ情に厚い。
 名前もそのままケン。
 女の子だったらレンを選ぶかケンを選ぶか迷うことだろう。
 実際マンションの女の子たちの間ではその話で持ちきりだったそうだ。
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 さらに話が進んでくると、薄幸の美少女レイがあらわれる。
 彼女はレンとケンの二人の間で心がゆらゆらと揺れるようになる(この辺からオリジナルストーリーになってくる)。さらにキョウという勝気で情熱的な女の子が現れ、三角関係ならぬ四角関係に突入する(ここはもはやナギサの妄想世界に突入している)。
 しかしストーリーは面白く、わたしはもちろん、マンションの子供たちもすぐに熱狂的なファンになった。もちろん人気はマンションだけにとどまらない。それは全国的にも大反響を巻き起こしていくのだった。
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 しかし一人だけ納得してない男がいた。
 主役の座を狙っていた男、コトラである。
 漫画の中での役名はトラ。太っちょで陽気な、ギャグ担当の三枚目だった。しかも美形ぞろいの登場人物の中、彼だけはしっかり三枚目の顔立ちになっていた。
「こ、こ、これが……ボク?」
 コトラはショックを隠しきれないようだった。
「そうみたいねぇ……」とはその時、同席していたキョウコさん。
「……ナギサちゃんの目にはあんたがそう映っているみたいよぉ」
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 それはともかく、ナギサの漫画『ごーるど・らっしゅ¥』はストーリーが進むに連れて、さらに大反響を巻き起こしていった。書店では単行本が平積みにつまれ、街にはポスターまでが貼りだされたそうだ。
 さらにマンションの内部でも大きな変化が起こっていた。
 絵のうまい子供たちが集められ、一部屋がナギサスタジオとなったのだ。女の子たちは、絵を塗りつぶしたり、スクリーントーンというものを張ったり、背景の街を描いたりと、本格的に漫画のアシスタントを始めたのだ。
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 またも余談になるが、この女の子たちの中から、つぎつぎと新人作家が誕生してゆくことになる。
 最盛期では五人もの漫画家がマンションの中にそれぞれのスタジオをかまえて、作品を発表していたのだ。
 そしてマンションは少女漫画家志望の女の子たちにとっての聖地となった!
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 余談ついでに言うと、このスタジオでの一番の成功者はあのリュウイチである。
 レイの弟で、世界的なイラストレーターになるということはすでに書いた。
 そのきっかけになったのが、ナギサの漫画だった。ナギサの担当だった編集者がリュウイチの才能に目をつけたのだ。そしてナギサの単行本の表紙をすべて書かせることにしたのである。
 これが大成功だった。リュウイチの絵は繊細で、カラフルで、しかもナギサの漫画の世界観を見事にあらわしていた。
 ナギサとともにリュウイチもまた成功への階段を上っていったのである。
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 それにしてもここまで成功が続くのはありえないと思う人もいるだろう。
 しかしわたしはそのすべてを信じることができる。
 あのマンションではすべての子供たちが自分の力で生きていた。すべての子供たちが自分の能力を持てる限り発揮していた。そうでなければ生き残れなかったからだ。
 結果というものはその彼らの努力が導いたものなのだ。
 何事もまずは信じること。
 自分の能力というものを磨き続けること。
 その連続だけが何かしらの成功に導いてくれるのだと、わたしは思う。