心なしか、声が震えているような気がする。


「はい、そうですけど…」


と僕が告げた瞬間、女の人は膝から崩れ落ちた。

突然僕の視界から消えて、下を向いたら愕然として倒れているものだから驚いた。


「ど…どうかしましたか!?具合でも悪くなったんですか…!?」


僕は文庫本を胸に抱え、慌ててしゃがみ込んで声をかける。

ゆっくりと顔を上げたその人は、なぜだか目が潤んでいた。


「大丈夫…ですか?」

「…う、うん。大丈夫…」

「でも急に倒れてっ…」

「倒れたわけじゃないから、ほんと…大丈夫」


と言う女の人の視線は、僕にではなく胸に抱えた文庫本に向けられていた。


それで気づいた。

“まさか”とは思ったけど。


「…もしかして。あなたもこれを…?」


僕が尋ねると、その人は唇を噛み締めながらこくんとうなずいた。