あ…、あった。

ずっと探していた本が。


恋焦がれているかのように心臓がバクバクと鳴り、緊張で震える手をそっと棚に伸ばす。


――そのとき。


「「…あっ」」


念願の文庫本を手に取ろうとしたとき、そこしか見えていなかった僕の視界に、もうひとつ手が入ってきたのだ。

それに気づいて、お互い慌てて手を引っ込める。


顔を向けると、セミロングの髪が肩からこぼれる女の人が。


「す、すみません…」

「ううん…!なんかこっちこそごめんねっ」


お互いにペコペコと頭を下げて謝る。


こんなに近くに人がいたというのに、那須川先生の文庫本しか見えていなかった僕はこの人の存在にまったく気づかなかった。


なんとなくだが、表情を見る限りこの人も僕と同じ気がする。

まるで僕が突然現れたかのように少し驚いた顔をしている。