「内海くん、きてくれてありがとう。でも、清夏は相変わらずで――」

「いいんです。僕がきたかっただけですから」


僕は、清夏さんのベッドのそばの丸椅子に座ると、床頭台に置いてあった青の書を手にした。

そして、冒頭から朗読していく。


昨日、清夏さんのお母さんから、意識はなくても耳は聞こえているらしいと教えてもらった。

だから、清夏さんが読みたかった青の書を僕が読んで聞かせる。


それからも、僕は毎日お見舞いに通った。

行くたびに、全部で10章あるうちの1章分を朗読する。


そうしたら、「ちょっと待って。それより先は自分で読むから!」と清夏さんが起きてきそうな気がするから。


しかし、3章読んでも6章読んでも、最終章にたどり着いても清夏さんは目を覚まさなかった。


夏休みに入り、暑い真夏の時期を乗り越え、残暑が残る2学期が始まる。