「あ…ありがとうございます」


軽く会釈して、背を向けようとしたとき――。


「もしかして…、清夏(さやか)のお友達?」


女の人が僕の顔をのぞき込む。


「清夏…さん?」

「違っていたらごめんなさいね。でもさっき、受付での会話が聞こえちゃって」

「うるさくしてしまって…すみませんでした」

「ううん、いいのいいの。それでね、ウチで飼ってる柴犬の名前が“コタロウ”なんだけど…」

「えっ…」


僕はとっさに目を見開けた。


「でもコタロウなんて犬の名前、よくあるだろうし…。だけど、その本見てそうかなって思って」

「この本…ですか?」


受け取った青の書に目を向ける。


「娘の清夏もね、それと同じタイトルの本を持ってたと思うの。友達に貸すんだって言って。でも、あの子が持ってたのは白い表紙で…。もしかして、私の勘違いだったかしら」