だけど、なにもわからないままこのまま帰るわけにはいかない。


僕はごくりとつばを飲む。


「その運ばれてきた人、もしかしたら僕の知り合いかもしれないんです…!知り合いだったら、病室を教えてもらうことは可能ですか?」

「そういうことでしたら。ただし、患者さまの了解を得てからになりますが。お調べしますので、その方のお名前をお聞きしてもよろしいですか?」


一瞬、頭の中が真っ白になった。
 

「…名前?」


そういえば、コタロウさんの名前……知らない。


「え…えっと、コタロウ…さん」

「コタロウさま…。名字は?」

「名字は…、知らないんです。…というか、コタロウというのもSNSのアカウント名で…本名じゃなくて」


歯切れの悪い僕の言葉に、受付の人はぎこちなく口角を上げ愛想笑いを浮かべる。