「ううん、べつに〜。すごく真剣に読んでるな〜って思って」

「…ああ、集中して読むと周りが見えなくなるんです」

「そうみたいだね。わたしがこんな近くにきても気づかないんだから」


茶化すようにコタロウさんが笑うものだから、僕はまた顔が熱くなるのがわかった。


「それにしても、すごい集中力だね。何度呼びかけてもまったく反応してくれないんだもん」

「え…、そうだったんですか?」

「うん。おもしろくて、ついページをめくる手が止まらないのはわかるけど、水分補給くらいはちゃんとしたほうがいいよ」


そう言って、コタロウさんは僕の左隣に置いていた【天然水】と書かれたラベルのペットボトルに視線を送った。

そういえば、青の書を読み始める前にひと口飲んだきりだった。


「いくらここが涼しくても、油断しちゃダメだよ」