「でも…」


差し出された白の書を見つめながら、言葉に詰まる女の人。


僕に気を遣って遠慮している。

でも、チラチラと文庫本に目を向けながらの困ったような表情からは、ほしいという気持ちが漏れ出ている。


「たぶん…わたしのほうが年上だし、ここはわたしが譲るべきなんだろうけど――」


まるで自分に言い聞かせるように小さな声で語る女の人。

するとその直後、差し出していた白の書に手が伸びた。


「ごめん…!やっぱり、どうしてもほしいやっ」


照れたように笑う女の人の笑顔に、僕はなぜだか引き込まれていた。


「お言葉に甘えて、いただきます」

「ど、どうぞ」


女の人は白の書を手に取ると、大事そうに胸に抱きかかえた。

白の書に向ける視線は、まるで赤ん坊を見つめるようなやさしい目をしていた。