森を抜けたら、見渡す限り続く平原だった。二人は森から少し離れた場所で一先ず休憩し、冬也の治療に専念する事にした。
先ほどまで、生死をかけた戦闘を行っていたのだ。緊張していた身体から力が抜けて、冬也は地べたに座り込んだ。
「わぁ~お兄ちゃん! 今手当てするから、気をしっかり持って」
「ペスカ。お前、魔法で治せるよな? 俺の背中を治したのは、魔法だよな」
冬也の射抜く様な視線を受ける。先の戦いで既に治療を行っているのだ。もう、誤魔化しようもないだろう。、ペスカは少し溜息をつくと呪文を唱えた。
「癒しの光よ来たれ!」
ペスカが光から放たれ冬也を包む。みるみる内に、冬也の傷は塞がっていく。完全に痛みが無くなり、傷痕さえも残らなかった。それは現代医学でも不可能の事だ。
これをそのまま放って置く事は出来まい。なんとか取り繕うとするペスカに対し、冬也は珍しく眼光を更に鋭くした。
「それにしても、大変な事になったね」
「誤魔化すなペスカ。兄ちゃん怒ってるんだぞ」
ペスカは無言で冬也から視線を反らす。だが冬也はそれを許さず、ペスカのこめかみを両の拳で、グリグリと圧迫した。
「いだい、いだい。やめてお兄ちゃん」
「隠してる事、全部吐け!」
「いだい、やめれ。お兄ちゃんのばか。うんこ!」
「汚い言葉を使うんじゃない!」
「お兄ちゃんの◯◯!」
ゴンっと鈍い音と共に、冬也の拳がペスカの頭に炸裂した。涙目で頭を抱え踞るペスカは、訴える様に上目遣いで冬也を見つめた。
「死ぬかも知れない所だったんだぞ」
「いや、逃げる位は出来たよ」
「いい加減にしろペスカ!」
「ごめんなさい。あんな予定じゃなかったの」
「何がどうなっているのか、全部話せ!」
冬也に叱られ諦めたのか、ペスカはこれまでの経緯を、ぽつりぽつりと話始めた。
ペスカの話す事は、冬也にとって信じられない事だった。しかし、森で起こった出来事を思えば、否定もし辛い内容だった。
「はぁ? つまり、ここは俺達の宇宙とは違う次元の宇宙に有る星で、お前は元々この星で賢者だったと。それで死んだ時に、元の知識と能力を持って地球で生まれ変わった。そんで今回は里帰りがしたかったって言いたいのか?」
「そうだよ。賢者様だよ。偉いんだよ。えっへん」
「どや顔で何言ってんだよ。そんな厨二っぽい事を聞きたいんじゃねぇよ。それに母親に会いに行くってのはどうなったんだよ?」
「勿論、これから行くよ。顔も見たいしね」
確かにペスカは小さい頃から「魔法を使える」等と、変な事を言う子供だった。冬也が知らない謎の言葉を、ブツブツ言ってる所を見たこともある。
冬也はそれが、全てペスカの空想だと思っていた。魔法少女に憧れる可愛いやつだと、ペスカを見ていた。
「因みに、パパリンは知ってるよ」
「知らなかったのは俺だけか?」
「知らなかったってより、信じなかったってだけだね。お兄ちゃんは、頑固だし、脳筋だし」
冬也は思わずペスカの両頬を引っ張った。そして顔を顰めて、ペスカを睨め付ける。
「いひゃい。やめへ。おめんなひゃい」
「あぶねぇ事しやがって!」
冬也の怒りはもっともであろう。死を覚悟した瞬間も有ったのだ。笑って済ませられる事ではあるまい。
「ところでペスカ。どうやってこんな所に来たんだ?」
「ここに来たのは私の魔法だよ」
「じゃあ、帰れるんだよな」
「今すぐは無理だよ」
「何でだよ!」
「次元を越えるなんて大魔法が、ホイホイ使える訳ないじゃない」
「マナだか魔力だか謎パワーで、何とかならねぇのか?」
「謎パワー言うな! あのね、マナは生命力みたいなもの。生命力を魔力に変換して初めて魔法が使えるんだよ」
「んな理屈はどうだっていいんだよ。帰れるのかどうかって事だ」
「だから、私が生まれ変わってから、十六年間溜め続けたマナは全部使っちゃったんだよ。暫くは無理だね」
ペスカの言葉に、冬也は返す言葉が見つからず絶句した。
単なる国内旅行の気分でいたのだ。それが異世界とやらに来たどころか、直ぐには帰られないときた。そうなると、学校はどうなる? いや、学校なんてこの際どうでもいいか?
そもそも何故に異世界なのだ。こんな危険極まりない世界へ、何でペスカは来ようとしたのか。何で俺も一緒である必要が有ったのか?
一体、ペスカは何者なのだ。賢者と言うのは、概ね間違いではないだろう。それは、傷が直ぐに癒えた事で証明が出来る。
前世の記憶を持つならば、幼い頃からのペスカの言動には、多少納得いくものがある。ペスカの事は、今まで天才だと思っていた。しかし、ただの天才ではなかった。
言うなれば、過去に違う世界で生涯を全うし、前世の記憶を持ち生まれ変わり、日本で新たな知識を得た天才という事だ。
ただ俺は違う。日本で生まれて育った、普通の日本人なんだ。ただ行きがかり上、ペスカと家族になっただけだ。
ただ少なくとも、こんな世界ではペスカを心配で放り出せはしない。
懸命に頭を働かせても、冬也に答えが出るはずがない。考えれば考える程、混乱してくる。その結果、口から出た質問も、ピントが少し外れたものになる。
「お前の魔法は打ち止めなのか? だって、傷を治してくれたろ?」
「まあ、あれ位ならね。なにせ元天才大賢者だしさ」
「何か色々増えてねぇか?」
「うっさい。お兄ちゃんの◯、いだっ!」
ペスカが言いきる前に、冬也のデコピンが炸裂した。気配を察したペスカが、両頬をガードした為、おでこに攻撃が入ったのだ。流石のペスカも、度重なる冬也のお仕置きに耐えきれずに爆発する。
「わ~ん、ばか~! 私だって予定外なんだよ~!」
「予定って何だ?」
「里帰りついでに、お兄ちゃんびっくりさせる。二人のドキワク異世界観光!」
「びっくりさせ過ぎだ馬鹿! 死ぬほどびっくりだよ!」
「あの森は、ちっこい小動物しか、出ないはずなんだよ。だからお兄ちゃんでも、楽勝のはずだったの。あんなのが出るはず無いんだよ」
「あの化け物は何だよ?」
「マンティコアじゃない? ギリシャの神話に出てくるやつ」
「ギリシャ神話が異世界にもあるってのか?」
「そういう事じゃなくてさぁ~」
ペスカの説明に、冬也は何と無く違和感を感じる。しかし冬也は、その違和感を上手く表せずにいた。眉を顰めて冬也は腕を組む。そんな冬也に対し、ペスカは明るく声をかけた。
「お兄ちゃん。ここに居ても仕方ないし、そろそろ行かない? ここから暫く歩けば街に着くよ」
「あのなぁ、ペスカ。学校とかどうすんだよ。まぁ、親父は。心配しねぇか」
「パパリンには、伝えてあるから大丈夫。あっちの事は、色々と上手くやってくれるよ」
ペスカの言葉は、冬也に止めを刺したのかもしれない。
ペスカの行動は思い付きではなく、計画的だったのだ。自分が気がつかないだけで。何もかも手配済みで、準備を万端に整えて、異世界とやらにやってきたのだ。
そう考えると、冬也は深い溜息をついた。そして冬也は重い腰を上げる。
「お兄ちゃん、何か疲れた顔してるね」
「お前のせいだよ!」
「そんな時には、これでも食べて元気だして」
ペスカは某栄養食品を冬也に差し出す。ペスカの魔法で傷は癒えたが、戦闘続きのせいか多少は小腹が空いている。冬也は黙って栄養食品を受け取り、ペスカと共にミネラルウォーターで腹に流し込んで小腹を満たす。そして、ペスカの指示する方角へ歩き出した。
先ほどまで、生死をかけた戦闘を行っていたのだ。緊張していた身体から力が抜けて、冬也は地べたに座り込んだ。
「わぁ~お兄ちゃん! 今手当てするから、気をしっかり持って」
「ペスカ。お前、魔法で治せるよな? 俺の背中を治したのは、魔法だよな」
冬也の射抜く様な視線を受ける。先の戦いで既に治療を行っているのだ。もう、誤魔化しようもないだろう。、ペスカは少し溜息をつくと呪文を唱えた。
「癒しの光よ来たれ!」
ペスカが光から放たれ冬也を包む。みるみる内に、冬也の傷は塞がっていく。完全に痛みが無くなり、傷痕さえも残らなかった。それは現代医学でも不可能の事だ。
これをそのまま放って置く事は出来まい。なんとか取り繕うとするペスカに対し、冬也は珍しく眼光を更に鋭くした。
「それにしても、大変な事になったね」
「誤魔化すなペスカ。兄ちゃん怒ってるんだぞ」
ペスカは無言で冬也から視線を反らす。だが冬也はそれを許さず、ペスカのこめかみを両の拳で、グリグリと圧迫した。
「いだい、いだい。やめてお兄ちゃん」
「隠してる事、全部吐け!」
「いだい、やめれ。お兄ちゃんのばか。うんこ!」
「汚い言葉を使うんじゃない!」
「お兄ちゃんの◯◯!」
ゴンっと鈍い音と共に、冬也の拳がペスカの頭に炸裂した。涙目で頭を抱え踞るペスカは、訴える様に上目遣いで冬也を見つめた。
「死ぬかも知れない所だったんだぞ」
「いや、逃げる位は出来たよ」
「いい加減にしろペスカ!」
「ごめんなさい。あんな予定じゃなかったの」
「何がどうなっているのか、全部話せ!」
冬也に叱られ諦めたのか、ペスカはこれまでの経緯を、ぽつりぽつりと話始めた。
ペスカの話す事は、冬也にとって信じられない事だった。しかし、森で起こった出来事を思えば、否定もし辛い内容だった。
「はぁ? つまり、ここは俺達の宇宙とは違う次元の宇宙に有る星で、お前は元々この星で賢者だったと。それで死んだ時に、元の知識と能力を持って地球で生まれ変わった。そんで今回は里帰りがしたかったって言いたいのか?」
「そうだよ。賢者様だよ。偉いんだよ。えっへん」
「どや顔で何言ってんだよ。そんな厨二っぽい事を聞きたいんじゃねぇよ。それに母親に会いに行くってのはどうなったんだよ?」
「勿論、これから行くよ。顔も見たいしね」
確かにペスカは小さい頃から「魔法を使える」等と、変な事を言う子供だった。冬也が知らない謎の言葉を、ブツブツ言ってる所を見たこともある。
冬也はそれが、全てペスカの空想だと思っていた。魔法少女に憧れる可愛いやつだと、ペスカを見ていた。
「因みに、パパリンは知ってるよ」
「知らなかったのは俺だけか?」
「知らなかったってより、信じなかったってだけだね。お兄ちゃんは、頑固だし、脳筋だし」
冬也は思わずペスカの両頬を引っ張った。そして顔を顰めて、ペスカを睨め付ける。
「いひゃい。やめへ。おめんなひゃい」
「あぶねぇ事しやがって!」
冬也の怒りはもっともであろう。死を覚悟した瞬間も有ったのだ。笑って済ませられる事ではあるまい。
「ところでペスカ。どうやってこんな所に来たんだ?」
「ここに来たのは私の魔法だよ」
「じゃあ、帰れるんだよな」
「今すぐは無理だよ」
「何でだよ!」
「次元を越えるなんて大魔法が、ホイホイ使える訳ないじゃない」
「マナだか魔力だか謎パワーで、何とかならねぇのか?」
「謎パワー言うな! あのね、マナは生命力みたいなもの。生命力を魔力に変換して初めて魔法が使えるんだよ」
「んな理屈はどうだっていいんだよ。帰れるのかどうかって事だ」
「だから、私が生まれ変わってから、十六年間溜め続けたマナは全部使っちゃったんだよ。暫くは無理だね」
ペスカの言葉に、冬也は返す言葉が見つからず絶句した。
単なる国内旅行の気分でいたのだ。それが異世界とやらに来たどころか、直ぐには帰られないときた。そうなると、学校はどうなる? いや、学校なんてこの際どうでもいいか?
そもそも何故に異世界なのだ。こんな危険極まりない世界へ、何でペスカは来ようとしたのか。何で俺も一緒である必要が有ったのか?
一体、ペスカは何者なのだ。賢者と言うのは、概ね間違いではないだろう。それは、傷が直ぐに癒えた事で証明が出来る。
前世の記憶を持つならば、幼い頃からのペスカの言動には、多少納得いくものがある。ペスカの事は、今まで天才だと思っていた。しかし、ただの天才ではなかった。
言うなれば、過去に違う世界で生涯を全うし、前世の記憶を持ち生まれ変わり、日本で新たな知識を得た天才という事だ。
ただ俺は違う。日本で生まれて育った、普通の日本人なんだ。ただ行きがかり上、ペスカと家族になっただけだ。
ただ少なくとも、こんな世界ではペスカを心配で放り出せはしない。
懸命に頭を働かせても、冬也に答えが出るはずがない。考えれば考える程、混乱してくる。その結果、口から出た質問も、ピントが少し外れたものになる。
「お前の魔法は打ち止めなのか? だって、傷を治してくれたろ?」
「まあ、あれ位ならね。なにせ元天才大賢者だしさ」
「何か色々増えてねぇか?」
「うっさい。お兄ちゃんの◯、いだっ!」
ペスカが言いきる前に、冬也のデコピンが炸裂した。気配を察したペスカが、両頬をガードした為、おでこに攻撃が入ったのだ。流石のペスカも、度重なる冬也のお仕置きに耐えきれずに爆発する。
「わ~ん、ばか~! 私だって予定外なんだよ~!」
「予定って何だ?」
「里帰りついでに、お兄ちゃんびっくりさせる。二人のドキワク異世界観光!」
「びっくりさせ過ぎだ馬鹿! 死ぬほどびっくりだよ!」
「あの森は、ちっこい小動物しか、出ないはずなんだよ。だからお兄ちゃんでも、楽勝のはずだったの。あんなのが出るはず無いんだよ」
「あの化け物は何だよ?」
「マンティコアじゃない? ギリシャの神話に出てくるやつ」
「ギリシャ神話が異世界にもあるってのか?」
「そういう事じゃなくてさぁ~」
ペスカの説明に、冬也は何と無く違和感を感じる。しかし冬也は、その違和感を上手く表せずにいた。眉を顰めて冬也は腕を組む。そんな冬也に対し、ペスカは明るく声をかけた。
「お兄ちゃん。ここに居ても仕方ないし、そろそろ行かない? ここから暫く歩けば街に着くよ」
「あのなぁ、ペスカ。学校とかどうすんだよ。まぁ、親父は。心配しねぇか」
「パパリンには、伝えてあるから大丈夫。あっちの事は、色々と上手くやってくれるよ」
ペスカの言葉は、冬也に止めを刺したのかもしれない。
ペスカの行動は思い付きではなく、計画的だったのだ。自分が気がつかないだけで。何もかも手配済みで、準備を万端に整えて、異世界とやらにやってきたのだ。
そう考えると、冬也は深い溜息をついた。そして冬也は重い腰を上げる。
「お兄ちゃん、何か疲れた顔してるね」
「お前のせいだよ!」
「そんな時には、これでも食べて元気だして」
ペスカは某栄養食品を冬也に差し出す。ペスカの魔法で傷は癒えたが、戦闘続きのせいか多少は小腹が空いている。冬也は黙って栄養食品を受け取り、ペスカと共にミネラルウォーターで腹に流し込んで小腹を満たす。そして、ペスカの指示する方角へ歩き出した。