再びペスカ達は、青い点滅の集合地点へ車を走らせる。そして数時間程で、集落に到着する、しかし集落の状態は、余り良いとは思えなかった。
ただ、呆然と立ち尽くす男。地べたに突っ伏してる男。口を開け、天を仰いでいる女。膝を抱え蹲り震える子供達。集落の人々は、とても活発とは思えない。寧ろ精気が抜け、だらりとする姿が多く見られる。
「あ~。何だか酷いね」
車から降りたペスカの呟きに、冬也達は頷いた。
「どうする? 俺が活を入れるか?」
「止めてお兄ちゃん! あの状況で神気を受けたら、みんな死んじゃう! 私に任せて!」
ペスカは笑顔を浮かべた後、近くに落ちていた木の棒を拾い、クルクルとバトンの様に振り回し、クルリと回ってポーズを決めた。
「元気でろでろ、でろりんちょ!」
光がペスカから飛び出し、村中を包み込む。人々からは、やや活気を取り戻した様に見えた。立ち尽くしていた男は、我に返って歩き出す。空を仰いでいた女は、キョロキョロと辺りを見回している。子供達はゆっくりと立ちあがった。
「ペスカの魔法、すげぇな!」
冬也は感想と共に、ペスカの頭を撫でる。しかし空と翔一の反応は、今ひとつだった。
「うゎ~、ペスカちゃん。それ魔法少女?」
「そうだね。ペスカちゃん流石に年齢、いでっ!」
ペスカは俊敏な動きで、翔一にデコピンを食らわせる。余計な一言で、お仕置きを受けた翔一は、額を抑えて蹲った。
「どうだ! お兄ちゃん直伝のデコピンの味は! 乙女に年齢の事を言っちゃ駄目なんだよ!」
「ペスカちゃん。なんで僕だけ!」
翔一は額を抑えて蹲る。そんな翔一の肩を冬也は優しく叩いた。
「仕方ねぇよ。ペスカだし」
「冬也。意味が解らないよ」
ただ、間違いなく村人達には、多少精気が戻った様に見える。
軽く話しを聞いた限りでは、ほとんどの村人達が数日の間、まともな食事を取っていない事がわかった。
確かに、多少は元気が戻ったと言っても表情は未だに暗く、ふらついて歩く者が多いのはそのせいだろう。
急いで冬也と空は麦粥を作り、村人達を集めて振舞った。麦粥を食べた村人達は、僅かに体力が戻って来た様で、少しずつ笑顔を見せ始める。その間ペスカは、一人の女性から話を聞いていた。
「こんな辺境の村では、教えられる事は少ないわ」
「何か噂でも良いんだけど、知ってる事は教えて」
「そうね。モーリス将軍が捕らえられたって噂を聞いたわね」
「うそっ!」
「噂よ、噂。でもモーリス将軍がいれば、戦争は起きて無かったんじゃ無いかしら」
女性の話しでは、村中の人々の気力が段々と失われていったのは、アーグニール王国、グラスキルス王国と三国間で戦争が起き始めてからとの事だ。
また、モーリス将軍の名前で、現在地が明らかになる。ここはシュロスタイン王国。女性の話しでは、王国の北東に位置する村だという。
悪い予感は外れて欲しかった。しかし、現状から推測するに、戦争は間違いないのだろう。
確かに、女性の言葉通りだ。モーリスが健在ならば、戦争は起きなかったはずだ。ただ、あのモーリスが何故投獄されているのだろう? グレイラスが仕掛けた置き土産か? そんな負の遺産はうんざりだ。
ペスカは少し眉間に皺を寄せ、考え込む様に口を噤む。そんなペスカに、麦粥を配り終えた冬也が近付く。
冬也にも女性の話が耳に届いていたのだろう。少し驚いた様な声で、ペスカに話しかける。
「ペスカ。まさか、モーリス将軍ってのが鬼強い人か?」
「そう。この国の将軍! まさか捕まってたなんて」
「どうする? 助け出すか?」
「そうだね、助け出そう。それで、戦争を止めてもらうの!」
勢い良く拳を掲げるペスカに、翔一が質問する。
「その将軍って人が、戦争を起こしている張本人って可能性は無いのかい?」
「モーリスに限って、ぜ~ったい有り得ないね」
「万が一その将軍に問題が無かったとして、それだけ影響力の有る人なのかい?」
「この国の将軍だよ。鬼強いんだよ。翔一君なら覇気だけで、おしっこ漏らすよ」
「漏らさないよ!」
翔一はモーリスの姿を幻視し、少し震える。
「兎に角、出発! 目指せ、王都!」
ここで、これ以上の情報を聞き出すのは無理だと判断したのだろう。ペスカは車に乗り込むと、村人から聞き出した王都の方角と、車のスクリーンに映る光の点を照らし合わせる。
それから遅れる様にして、後片付けを済ませた空と翔一が冬也に合流し、三人は車に乗り込んだ。
「恐らく、この赤紫の塊が王都だね」
「ペスカ、地図は?」
「こんな寂れた村に、地図なんて大層な物無かったんだよ!」
ペスカが手を払う様な仕草で冬也に答えると、冬也は仕方なく赤紫の塊に向けて車を走らせる。
目指すは、シュロスタイン王国の王都。戦争終結に向けた、ペスカ達の冒険が始まろうとしていた。
☆ ☆ ☆
とある城の謁見室、そこには少年と美女の姿が有った。そして少年は玉座に座り、いやらしい笑みを湛えて美女を見下ろす。美女はうっとりと少年を見上げていた。
「そっか、グレイラスがくたばったんだ」
「役に立たない奴でしたわ。結局、あのガキ共を連れてこれなかったですし」
「まぁそう言わないでよ、メイロード。彼だって役に立ったさ」
「どんな風にですの?」
「原初の神から離反する者を増やしただろ?」
「それはそうですわね」
「何よりも、大陸の中央部を滅茶苦茶にしてくれた」
「あれは、怒りに任せてですわ」
「良いんだよ、それで。おかげでやりやすくなったよ」
「それで、我が君はこれからどの様に?」
「中央部では死体が転がってるだろ? そいつを利用してもっと面白くしようと思ってるよ。離反者の追跡で原初の連中も混乱してるだろうしね」
「良いですわね。その間に我が君が完全に力を取り戻せば」
「そうさ。ようやく、あの忌々しいガキ共を殺せる」
そして、男女は互いに笑いあう。それは大陸を終末へと導く笑いであった。
☆ ☆ ☆
暗い檻の中に向かって、影の様に姿を隠した何者かが話しかけていた。
「閣下、帝国に攻め入った三国は死者で溢れております」
「これは、人間が出来る事じゃねぇよな」
「それと、エルラフィアの近衛隊長であるフィロス卿が、行方不明になられていると」
「あの御仁は、俺よりよっぽど強いじゃねぇか。また、神の気まぐれってやつか?」
「私からすると互角としか」
「煽てんじゃねぇよ、ミーア。それより、各国の情報収集を頼む」
「畏まりました」
「アーグニールやシュロスタインだけじゃなくて、帝国やエルラフィアの方もな」
「承知致しました。それで、モーリス将軍とケーリア将軍は無事なのでしょうか?」
「殺そうとしたって、死にはしねぇ連中だよ。それよりミーア。帝国やエルラフィアの方が気になるな」
「十中八九、帝国は終わりかと。エルラフィアが無事なら、いつでも連携が出来る様に連絡を取っておきます」
「こんな事態だ。俺の名ばかりの肩書なら、どんどん使ってくれて構わねぇぞ」
「ところで、閣下はいつまでここにおられるのでしょうか?」
「まぁ、あと暫くはな。今は、ここにいた方が色んな声が聞こえてくるからな」
そして、影の様に姿を隠した何者かは、檻の前からいなくなる。その後、少し経ってから檻の中にいる閣下と呼ばれた男は、独り言ちた。
「賢帝の死と三国の侵攻。国王陛下のご乱心に、アーグニールとシュロスタインとの戦争かよ。加えて、あの禍々しい瘴気。こりゃあ、二十年前よりも酷い事になりそうだな」
ただ、呆然と立ち尽くす男。地べたに突っ伏してる男。口を開け、天を仰いでいる女。膝を抱え蹲り震える子供達。集落の人々は、とても活発とは思えない。寧ろ精気が抜け、だらりとする姿が多く見られる。
「あ~。何だか酷いね」
車から降りたペスカの呟きに、冬也達は頷いた。
「どうする? 俺が活を入れるか?」
「止めてお兄ちゃん! あの状況で神気を受けたら、みんな死んじゃう! 私に任せて!」
ペスカは笑顔を浮かべた後、近くに落ちていた木の棒を拾い、クルクルとバトンの様に振り回し、クルリと回ってポーズを決めた。
「元気でろでろ、でろりんちょ!」
光がペスカから飛び出し、村中を包み込む。人々からは、やや活気を取り戻した様に見えた。立ち尽くしていた男は、我に返って歩き出す。空を仰いでいた女は、キョロキョロと辺りを見回している。子供達はゆっくりと立ちあがった。
「ペスカの魔法、すげぇな!」
冬也は感想と共に、ペスカの頭を撫でる。しかし空と翔一の反応は、今ひとつだった。
「うゎ~、ペスカちゃん。それ魔法少女?」
「そうだね。ペスカちゃん流石に年齢、いでっ!」
ペスカは俊敏な動きで、翔一にデコピンを食らわせる。余計な一言で、お仕置きを受けた翔一は、額を抑えて蹲った。
「どうだ! お兄ちゃん直伝のデコピンの味は! 乙女に年齢の事を言っちゃ駄目なんだよ!」
「ペスカちゃん。なんで僕だけ!」
翔一は額を抑えて蹲る。そんな翔一の肩を冬也は優しく叩いた。
「仕方ねぇよ。ペスカだし」
「冬也。意味が解らないよ」
ただ、間違いなく村人達には、多少精気が戻った様に見える。
軽く話しを聞いた限りでは、ほとんどの村人達が数日の間、まともな食事を取っていない事がわかった。
確かに、多少は元気が戻ったと言っても表情は未だに暗く、ふらついて歩く者が多いのはそのせいだろう。
急いで冬也と空は麦粥を作り、村人達を集めて振舞った。麦粥を食べた村人達は、僅かに体力が戻って来た様で、少しずつ笑顔を見せ始める。その間ペスカは、一人の女性から話を聞いていた。
「こんな辺境の村では、教えられる事は少ないわ」
「何か噂でも良いんだけど、知ってる事は教えて」
「そうね。モーリス将軍が捕らえられたって噂を聞いたわね」
「うそっ!」
「噂よ、噂。でもモーリス将軍がいれば、戦争は起きて無かったんじゃ無いかしら」
女性の話しでは、村中の人々の気力が段々と失われていったのは、アーグニール王国、グラスキルス王国と三国間で戦争が起き始めてからとの事だ。
また、モーリス将軍の名前で、現在地が明らかになる。ここはシュロスタイン王国。女性の話しでは、王国の北東に位置する村だという。
悪い予感は外れて欲しかった。しかし、現状から推測するに、戦争は間違いないのだろう。
確かに、女性の言葉通りだ。モーリスが健在ならば、戦争は起きなかったはずだ。ただ、あのモーリスが何故投獄されているのだろう? グレイラスが仕掛けた置き土産か? そんな負の遺産はうんざりだ。
ペスカは少し眉間に皺を寄せ、考え込む様に口を噤む。そんなペスカに、麦粥を配り終えた冬也が近付く。
冬也にも女性の話が耳に届いていたのだろう。少し驚いた様な声で、ペスカに話しかける。
「ペスカ。まさか、モーリス将軍ってのが鬼強い人か?」
「そう。この国の将軍! まさか捕まってたなんて」
「どうする? 助け出すか?」
「そうだね、助け出そう。それで、戦争を止めてもらうの!」
勢い良く拳を掲げるペスカに、翔一が質問する。
「その将軍って人が、戦争を起こしている張本人って可能性は無いのかい?」
「モーリスに限って、ぜ~ったい有り得ないね」
「万が一その将軍に問題が無かったとして、それだけ影響力の有る人なのかい?」
「この国の将軍だよ。鬼強いんだよ。翔一君なら覇気だけで、おしっこ漏らすよ」
「漏らさないよ!」
翔一はモーリスの姿を幻視し、少し震える。
「兎に角、出発! 目指せ、王都!」
ここで、これ以上の情報を聞き出すのは無理だと判断したのだろう。ペスカは車に乗り込むと、村人から聞き出した王都の方角と、車のスクリーンに映る光の点を照らし合わせる。
それから遅れる様にして、後片付けを済ませた空と翔一が冬也に合流し、三人は車に乗り込んだ。
「恐らく、この赤紫の塊が王都だね」
「ペスカ、地図は?」
「こんな寂れた村に、地図なんて大層な物無かったんだよ!」
ペスカが手を払う様な仕草で冬也に答えると、冬也は仕方なく赤紫の塊に向けて車を走らせる。
目指すは、シュロスタイン王国の王都。戦争終結に向けた、ペスカ達の冒険が始まろうとしていた。
☆ ☆ ☆
とある城の謁見室、そこには少年と美女の姿が有った。そして少年は玉座に座り、いやらしい笑みを湛えて美女を見下ろす。美女はうっとりと少年を見上げていた。
「そっか、グレイラスがくたばったんだ」
「役に立たない奴でしたわ。結局、あのガキ共を連れてこれなかったですし」
「まぁそう言わないでよ、メイロード。彼だって役に立ったさ」
「どんな風にですの?」
「原初の神から離反する者を増やしただろ?」
「それはそうですわね」
「何よりも、大陸の中央部を滅茶苦茶にしてくれた」
「あれは、怒りに任せてですわ」
「良いんだよ、それで。おかげでやりやすくなったよ」
「それで、我が君はこれからどの様に?」
「中央部では死体が転がってるだろ? そいつを利用してもっと面白くしようと思ってるよ。離反者の追跡で原初の連中も混乱してるだろうしね」
「良いですわね。その間に我が君が完全に力を取り戻せば」
「そうさ。ようやく、あの忌々しいガキ共を殺せる」
そして、男女は互いに笑いあう。それは大陸を終末へと導く笑いであった。
☆ ☆ ☆
暗い檻の中に向かって、影の様に姿を隠した何者かが話しかけていた。
「閣下、帝国に攻め入った三国は死者で溢れております」
「これは、人間が出来る事じゃねぇよな」
「それと、エルラフィアの近衛隊長であるフィロス卿が、行方不明になられていると」
「あの御仁は、俺よりよっぽど強いじゃねぇか。また、神の気まぐれってやつか?」
「私からすると互角としか」
「煽てんじゃねぇよ、ミーア。それより、各国の情報収集を頼む」
「畏まりました」
「アーグニールやシュロスタインだけじゃなくて、帝国やエルラフィアの方もな」
「承知致しました。それで、モーリス将軍とケーリア将軍は無事なのでしょうか?」
「殺そうとしたって、死にはしねぇ連中だよ。それよりミーア。帝国やエルラフィアの方が気になるな」
「十中八九、帝国は終わりかと。エルラフィアが無事なら、いつでも連携が出来る様に連絡を取っておきます」
「こんな事態だ。俺の名ばかりの肩書なら、どんどん使ってくれて構わねぇぞ」
「ところで、閣下はいつまでここにおられるのでしょうか?」
「まぁ、あと暫くはな。今は、ここにいた方が色んな声が聞こえてくるからな」
そして、影の様に姿を隠した何者かは、檻の前からいなくなる。その後、少し経ってから檻の中にいる閣下と呼ばれた男は、独り言ちた。
「賢帝の死と三国の侵攻。国王陛下のご乱心に、アーグニールとシュロスタインとの戦争かよ。加えて、あの禍々しい瘴気。こりゃあ、二十年前よりも酷い事になりそうだな」