ラフィスフィア大陸の東側に、国土を隣接する三国が有る。
大陸東海岸沿いに面するシュロスタイン王国。同じく東海岸沿いに面し、シュロスタイン王国の南側にアーグニール王国。その二国の西側、両国に面する様に位置する、縦に長い国土を持つグラスキルス王国である。
この三国は、資源を巡って古くから対立を繰り返して来た。
シュロスタイン王国とアーグニール王国は、大陸東側海域の漁業水域を巡って争いを繰り返す。海の無いグラスキルス王国は、大陸東側海域の漁業水域を狙う。逆にグラスキルス王国の持つ大きな鉱山を、湾岸二国が狙う。
諍いの絶えなかった三国は、二十年前の悪夢をきっかけに不戦協定を結ぶ。それ以降二十年に渡り、この三国間で戦争は起きていなかった。
そしてこの三国には、一人ずつ高名な将軍が存在する。
シュロスタイン王国にはモーリス将軍が。
アーグニール王国には、ケーリア将軍が。
グラスキルス王国には、サムウェル将軍が。
その強さは一騎当千。彼等の魔法は天を割き、刃は地を割る。その将軍達の存在が大きな抑止力となり、平和を維持していたと言っても過言ではない。
そして虚飾の神グレイラスに操られ、隣接した三国が帝国に攻め入った時、真っ先に動いたのは、この三人の将軍達だった。
いずれ、混乱は東の地にも訪れる。戦争回避の為に動き始めた三人の将軍は、それぞれの国で反逆罪に問われ投獄された。
そして抑止力の無くなった三国は、三つ巴の戦争状態に陥る。そして、たった数日で数千人の死者を出す。それでも終わらない戦争の影響は、国中に広がっていく。
東の三国は、今にも潰えようとしていた。
☆ ☆ ☆
「ゲートで来たのは良いけど、ここ何処だよペスカ?」
「知らないよ。エルラフィア王国じゃ無い事は確かだね」
「そうなのか?」
ゲートから出たキャンピングカーは、海岸付近に降り立った。周囲には長い海岸線が見える。見た事も無い風景に、ペスカでさえも首を傾げる。故郷であるエルラフィア王国の、海岸であれば直ぐにわかるであろうが。
「ねぇ、お兄ちゃん。私さ、エルラフィアでこんな海岸を、見た事ないんだよ」
「お前、意外と地理に詳しくねぇのか?」
「まぁ私の本分は、研究だからね。実際に見たのは、エルラフィアの周辺と帝国周辺くらいかな」
「帝国には、海がねぇのか?」
「あるよ、南側にね。ただ、すっごく熱いんだよ。東南アジアみたいにね」
「そっか。じゃあ、こことは違うんだな」
呑気な会話を繰り広げていても、凡その検討はついていた。
先の話しに出た、ライン帝国の南方に面する海は、とても波が静かである。そして、数十キロにも渡り、長く続く砂浜は観光名所にもなっている。
対してこの海岸は、見渡す限りの岸壁が続き荒波が打ち付けている。ペスカの知識が確かなら、ここはアンドロケイン大陸のマールローネから、最短距離の場所だ。つまりラフィスフィア大陸の東海岸沿いの可能性が高い。
「セリュシオネ様は、大陸各地の混乱を収めて欲しいって言ってたよね」
「言ってたな」
「それって、エルラフィア王国に着くまでの道中、全ての戦争を止めろって意味だったりして」
「まさか、んなこたぁねぇだろ。無茶振りにも程が有るぜ」
「それにしても、ショートカットは海だけか~!」
「五月蠅いよ、ペスカちゃん」
「空ちゃ~ん。だって~」
「なぁに、ペスカちゃん」
「これって丸投げだよね? 何がどうなってるか、自分達で調べて、対処しろって事だよね?」
「仕方無いよ、ペスカちゃん。何か月もかかるはずの航路が、短縮出来たと思えば良いじゃない」
「まったく、女神様ってどうしてこう、中途半端に丸投げするかな。翔一君、とりま十キロ位でサーチかけて」
一先ずペスカは、周囲の探索を翔一に指示する。翔一が車内の魔石をコントロールし、探知の能力で周囲のマナをスクリーンに映し出す。するとスクリーンには、青く点滅する光が集まってる場所が数か所ほど見つかる。
「ペスカ、この光の集まりは何だ?」
「この青い点滅は、多分集落だね。この数だと村だと思うよ」
「ペスカちゃん、もう少し距離を広げてみるかい?」
翔一が尋ねると、ペスカは軽く頷く。翔一が探知の範囲を広げると、スクリーンには次々と、光の点が映し出される。現地点から南西方向に進むに連れ、光は青から赤に変わり、真っ赤な光の塊が映し出されている所が数か所ほど有った。
ペスカは、少し考え込む様に腕を組んで、スクリーンを見つめている。そして翔一は、険しい表情で問いかけた。
「ペスカちゃん、どう思う?」
「間違いなく、赤の数か所は、戦争中だね。しかもかなり大規模だと思うよ!」
「マジかよペスカ! もう少し優しく兄ちゃんに教えてくれ」
「もぅ! しょうがないなぁ~。翔一君のサーチを利用して、マナの使用状況だけじゃ無くて、攻撃の意思を色でスクリーンに投影させてるんだよ。青が平和、赤が危険」
「じゃあこの紫色の集まりは?」
「そこそこ戦う気満々な人達の集まり!」
「お~。じゃあ青いのは、戦う意思が無い奴らの集まりって事か?」
ペスカは冬也に向かって頷き、話しを続けた。
「翔一君には、広域でサーチして貰ったからね。今スクリーンに映ってるのは、ざっと百キロ位の広域マップかな」
「ペスカ。マップって地図っぽいの何もねぇぞ」
「良いんだよ。お兄ちゃんの癖に、細かい事気にしないの! ラフィスフィア大陸の地図を手に入れたら入力するもん!」
ペスカ達は南西方面で一番近い青い光の集まりを目当てに、車を走らせる事に決めた。数キロ走らせると、海風の影響が薄れ始める。辺りは平野となり、段々と畑が見え始めた。
しかし畑に近づくと、ペスカ達は明らかな違和感を感じる。作物は一様に枯れ果て、かなりの間手をかけられていない様子が見て取れる。
「お兄ちゃん。ちょっと止めて」
ペスカが車から降りて、農作物や土の状況を確かめる様に歩き回る。
「ペスカ、何かわかったか?」
「うん。暫く手入れされて無い。それよりも、土地が汚染されかけてる」
ペスカに続いて、冬也達も車から降りて周囲を見渡す。冬也は敏感に感じた。この辺りの空気が何か淀んだ感じがすると。疑問に思った空が、ペスカに問いかける。
「ねえ、ペスカちゃん。この辺りには、大地の神様はいないの?」
「いるよ。フィアーナって女神様が」
「それなのに、大地が汚染されてるってどういう事?」
「多分だけど、女神の加護が薄れているのと、グレイラスのせいだね」
ペスカは空達に、想定される事態を聞かせた。
東京で自分達を助ける為に、フィアーナは大きな力を使った。その為、フィアーナは神気を失い、ラフィスフィア大陸中から加護が薄れている可能性が有る。
その上、グレイラスの手によって大規模な戦争が起きている。戦争で発生した悪意や恐怖が伝播し、国中の人々が恐慌状態に陥る。
大きく二つの要因により、周囲のマナが淀み始め作物を枯らせ、大地を汚染させた。
「このまま汚染が進むと、自然的なモンスター発生が起きるね」
「ちょっと待て、不味いだろそれ!」
「かなり不味いね」
「何とかならねぇのか」
「私が物理的にどうこう出来る次元じゃ無いよ」
冬也が慌てて問いただすが、ペスカは首を横に振る。
「ペスカ、フィアーナさん呼び出すか?」
「お兄ちゃん。それじゃ根本的な解決にはならないんだよ」
「冬也。多分ペスカちゃんは、戦争を終わらせる事が一番の解決だって、言いたいじゃ無いかな?」
「ペスカちゃん。戦争を終わらせるって言っても、どうするの?」
空の質問に答える前に、ペスカは少し咳払いをする。
「ここが大陸の東なら、頼れる人がいる! ウルトラレアクラスの凄い人!」
「ペスカちゃん。ソーシャルゲームじゃ無いんだから」
「うっさい、空ちゃん。お兄ちゃんなら判るよ。ウルトラレアは、シグルドクラスって事ね」
「おぅ。そいつは頼もしいな! 直ぐに会いに行こう!」
「お兄ちゃん、馬鹿なの? 大陸の東ならって言ったでしょ? まぁ、大陸の東で間違いないとは思うけどさ。先ずは、情報収集ね」
大陸東海岸沿いに面するシュロスタイン王国。同じく東海岸沿いに面し、シュロスタイン王国の南側にアーグニール王国。その二国の西側、両国に面する様に位置する、縦に長い国土を持つグラスキルス王国である。
この三国は、資源を巡って古くから対立を繰り返して来た。
シュロスタイン王国とアーグニール王国は、大陸東側海域の漁業水域を巡って争いを繰り返す。海の無いグラスキルス王国は、大陸東側海域の漁業水域を狙う。逆にグラスキルス王国の持つ大きな鉱山を、湾岸二国が狙う。
諍いの絶えなかった三国は、二十年前の悪夢をきっかけに不戦協定を結ぶ。それ以降二十年に渡り、この三国間で戦争は起きていなかった。
そしてこの三国には、一人ずつ高名な将軍が存在する。
シュロスタイン王国にはモーリス将軍が。
アーグニール王国には、ケーリア将軍が。
グラスキルス王国には、サムウェル将軍が。
その強さは一騎当千。彼等の魔法は天を割き、刃は地を割る。その将軍達の存在が大きな抑止力となり、平和を維持していたと言っても過言ではない。
そして虚飾の神グレイラスに操られ、隣接した三国が帝国に攻め入った時、真っ先に動いたのは、この三人の将軍達だった。
いずれ、混乱は東の地にも訪れる。戦争回避の為に動き始めた三人の将軍は、それぞれの国で反逆罪に問われ投獄された。
そして抑止力の無くなった三国は、三つ巴の戦争状態に陥る。そして、たった数日で数千人の死者を出す。それでも終わらない戦争の影響は、国中に広がっていく。
東の三国は、今にも潰えようとしていた。
☆ ☆ ☆
「ゲートで来たのは良いけど、ここ何処だよペスカ?」
「知らないよ。エルラフィア王国じゃ無い事は確かだね」
「そうなのか?」
ゲートから出たキャンピングカーは、海岸付近に降り立った。周囲には長い海岸線が見える。見た事も無い風景に、ペスカでさえも首を傾げる。故郷であるエルラフィア王国の、海岸であれば直ぐにわかるであろうが。
「ねぇ、お兄ちゃん。私さ、エルラフィアでこんな海岸を、見た事ないんだよ」
「お前、意外と地理に詳しくねぇのか?」
「まぁ私の本分は、研究だからね。実際に見たのは、エルラフィアの周辺と帝国周辺くらいかな」
「帝国には、海がねぇのか?」
「あるよ、南側にね。ただ、すっごく熱いんだよ。東南アジアみたいにね」
「そっか。じゃあ、こことは違うんだな」
呑気な会話を繰り広げていても、凡その検討はついていた。
先の話しに出た、ライン帝国の南方に面する海は、とても波が静かである。そして、数十キロにも渡り、長く続く砂浜は観光名所にもなっている。
対してこの海岸は、見渡す限りの岸壁が続き荒波が打ち付けている。ペスカの知識が確かなら、ここはアンドロケイン大陸のマールローネから、最短距離の場所だ。つまりラフィスフィア大陸の東海岸沿いの可能性が高い。
「セリュシオネ様は、大陸各地の混乱を収めて欲しいって言ってたよね」
「言ってたな」
「それって、エルラフィア王国に着くまでの道中、全ての戦争を止めろって意味だったりして」
「まさか、んなこたぁねぇだろ。無茶振りにも程が有るぜ」
「それにしても、ショートカットは海だけか~!」
「五月蠅いよ、ペスカちゃん」
「空ちゃ~ん。だって~」
「なぁに、ペスカちゃん」
「これって丸投げだよね? 何がどうなってるか、自分達で調べて、対処しろって事だよね?」
「仕方無いよ、ペスカちゃん。何か月もかかるはずの航路が、短縮出来たと思えば良いじゃない」
「まったく、女神様ってどうしてこう、中途半端に丸投げするかな。翔一君、とりま十キロ位でサーチかけて」
一先ずペスカは、周囲の探索を翔一に指示する。翔一が車内の魔石をコントロールし、探知の能力で周囲のマナをスクリーンに映し出す。するとスクリーンには、青く点滅する光が集まってる場所が数か所ほど見つかる。
「ペスカ、この光の集まりは何だ?」
「この青い点滅は、多分集落だね。この数だと村だと思うよ」
「ペスカちゃん、もう少し距離を広げてみるかい?」
翔一が尋ねると、ペスカは軽く頷く。翔一が探知の範囲を広げると、スクリーンには次々と、光の点が映し出される。現地点から南西方向に進むに連れ、光は青から赤に変わり、真っ赤な光の塊が映し出されている所が数か所ほど有った。
ペスカは、少し考え込む様に腕を組んで、スクリーンを見つめている。そして翔一は、険しい表情で問いかけた。
「ペスカちゃん、どう思う?」
「間違いなく、赤の数か所は、戦争中だね。しかもかなり大規模だと思うよ!」
「マジかよペスカ! もう少し優しく兄ちゃんに教えてくれ」
「もぅ! しょうがないなぁ~。翔一君のサーチを利用して、マナの使用状況だけじゃ無くて、攻撃の意思を色でスクリーンに投影させてるんだよ。青が平和、赤が危険」
「じゃあこの紫色の集まりは?」
「そこそこ戦う気満々な人達の集まり!」
「お~。じゃあ青いのは、戦う意思が無い奴らの集まりって事か?」
ペスカは冬也に向かって頷き、話しを続けた。
「翔一君には、広域でサーチして貰ったからね。今スクリーンに映ってるのは、ざっと百キロ位の広域マップかな」
「ペスカ。マップって地図っぽいの何もねぇぞ」
「良いんだよ。お兄ちゃんの癖に、細かい事気にしないの! ラフィスフィア大陸の地図を手に入れたら入力するもん!」
ペスカ達は南西方面で一番近い青い光の集まりを目当てに、車を走らせる事に決めた。数キロ走らせると、海風の影響が薄れ始める。辺りは平野となり、段々と畑が見え始めた。
しかし畑に近づくと、ペスカ達は明らかな違和感を感じる。作物は一様に枯れ果て、かなりの間手をかけられていない様子が見て取れる。
「お兄ちゃん。ちょっと止めて」
ペスカが車から降りて、農作物や土の状況を確かめる様に歩き回る。
「ペスカ、何かわかったか?」
「うん。暫く手入れされて無い。それよりも、土地が汚染されかけてる」
ペスカに続いて、冬也達も車から降りて周囲を見渡す。冬也は敏感に感じた。この辺りの空気が何か淀んだ感じがすると。疑問に思った空が、ペスカに問いかける。
「ねえ、ペスカちゃん。この辺りには、大地の神様はいないの?」
「いるよ。フィアーナって女神様が」
「それなのに、大地が汚染されてるってどういう事?」
「多分だけど、女神の加護が薄れているのと、グレイラスのせいだね」
ペスカは空達に、想定される事態を聞かせた。
東京で自分達を助ける為に、フィアーナは大きな力を使った。その為、フィアーナは神気を失い、ラフィスフィア大陸中から加護が薄れている可能性が有る。
その上、グレイラスの手によって大規模な戦争が起きている。戦争で発生した悪意や恐怖が伝播し、国中の人々が恐慌状態に陥る。
大きく二つの要因により、周囲のマナが淀み始め作物を枯らせ、大地を汚染させた。
「このまま汚染が進むと、自然的なモンスター発生が起きるね」
「ちょっと待て、不味いだろそれ!」
「かなり不味いね」
「何とかならねぇのか」
「私が物理的にどうこう出来る次元じゃ無いよ」
冬也が慌てて問いただすが、ペスカは首を横に振る。
「ペスカ、フィアーナさん呼び出すか?」
「お兄ちゃん。それじゃ根本的な解決にはならないんだよ」
「冬也。多分ペスカちゃんは、戦争を終わらせる事が一番の解決だって、言いたいじゃ無いかな?」
「ペスカちゃん。戦争を終わらせるって言っても、どうするの?」
空の質問に答える前に、ペスカは少し咳払いをする。
「ここが大陸の東なら、頼れる人がいる! ウルトラレアクラスの凄い人!」
「ペスカちゃん。ソーシャルゲームじゃ無いんだから」
「うっさい、空ちゃん。お兄ちゃんなら判るよ。ウルトラレアは、シグルドクラスって事ね」
「おぅ。そいつは頼もしいな! 直ぐに会いに行こう!」
「お兄ちゃん、馬鹿なの? 大陸の東ならって言ったでしょ? まぁ、大陸の東で間違いないとは思うけどさ。先ずは、情報収集ね」