アルキエルが大声を張り上げた瞬間、更に神気が膨れ上がる。慌ててペスカは飛び退き、壊された結界を修復する様に、アルキエルの周りに張りなおす。それでも、空が補助をしている結界はビリビリと震えている。
「ペスカ。お前は下がって、結界を維持しろ」
「わ゛がっだ」
ペスカは未だ涙で霞む目で、懸命に結界を張る。そして、ラアルフィーネも冷静を取り戻したのか、ペスカの結界に神気を注ぎ込んだ。
「ったく、面倒だよなぁ。そうは思わねぇか? 少し力を出しただけで、この有様だぁ」
忌々しげに呟くアルキエルは、更に神気を膨れ上がらせていく。やがて、失われたはずの両腕が再生していく。
「何を呆けてやがる。神格が無事なんだ、腕なんて幾らでも生えてくんだろ」
当たり前の様に言われても、当然ながら冬也は神の常識など知らない。それ故に、目を丸くしていた。しかし、直ぐに我に返る。
「卑怯だとは言うなよ」
「言うかよ。てめぇこそ、そんな事が出来るなら、何でわざわざ悲鳴を上げやがった」
「いてぇもんはいてぇだろ。それに、俺に傷を付けられる奴なんて、ミスラ以外にはいなかったしな。あぁ、シグルドもか。あいつは、本当に強かったな」
「何ごちゃごちゃ言ってんだよ。本気を出すんなら、かかってこいよ」
「いい度胸じゃねぇか。それでこそだよなぁ。これからが本気の殺し合いだぁ!」
両者の神気が拮抗していく。そして、アルキエルも冬也と同様に剣を作り出す。
「お前の本当は、これじゃねぇんだろ?」
「だから何だ?」
「本当のお前を見せてみろって事だぁ!」
咆哮する様に言い放つと、アルキエルは剣を振り上げながら冬也との間合いを詰める。そして振り下ろされた剣は、冬也によって受け流される。次の瞬間、冬也は体を捻りアルキエルの頭部に向けて、蹴りを繰り出す。
アルキエルは、剣を持たない方の腕で冬也の足を払い除けると、横凪に剣を振るう。冬也はそれを一歩退いて躱し、頭から両断する様に縦に神剣を振るった。
アルキエルは冬也の神剣を払い除けると、そのままの勢いで再び剣を横凪に振るう。しかし、それも冬也に往なされる。
冬也はアルキエルの腹を目掛けて蹴りを入れ、後方に吹き飛ばす。そして、上段から剣を振り下ろす。アルキエルは後方に飛んだまま態勢を立て直す様にし、神剣を躱した。
一進一退の攻防が続く。互いに神気をぶつけ合い、それを削り合う。大気は震え、所々の空間が割けている。
冬也はアルキエルの眼前から姿を消すと、死角に回り込んで足を払う様に蹴りを繰り出す。気配で察知したのだろう、アルキエルは上方に飛ぶとそれを躱し、上段から剣を振り下ろした。
冬也は、勢いよく迫って来る剣を避けようとはしなかった。それどころか、神剣で受けようともしない。
冬也は気が付いていた。アルキエルが時折、肩を庇うような仕草をしていた事を。それは、アルキエルすら無意識の行動なのだろう。
如何に両腕が元に戻ろうと、痛みの記憶は残る。幻肢痛の様なものだろう。それこそが、唯一の隙になっている事も知らずに。
冬也は、目の前に迫る剣を横から殴りつけると、そのまま叩き折る。そして、裏拳をアルキエルの顔面に見舞う。
顔面に強烈な一発を食らったアルキエルは、一瞬だけ意識を失った様に頭を後ろに逸らす。そこからは、冬也のターンだった。
膝に強烈な蹴りを食らわせ、顎に痛烈な一撃を見舞う。ふらつき始めるアルキエルの体から神気を奪う様に、滅多切りにする。
目にも止まらぬ攻撃に、アルキエルは抵抗すら出来なかった。正確には、冬也の神気に押さえつけられ、自由に動く事が出来なかった。
それは冬也の思惑なのか、アルキエルの神気は失われていく。
「考えたなぁ。俺から神気をとりゃあ、勝てるとでも考えたかよぉ!」
それでも、アルキエルの闘志は失われる事は無い。失われるはずもない。何しろ、戦いの神なのだから。ここから本領発揮なのだろう。
冬也の神気によって体は自由に動かない、大量の神気を奪われ力も出せない。それでも、アルキエルは笑っていた。心の底から楽しいと言わんばかりの笑みを浮かべていた。
どれだけ神気で縛られようが、神の力を封じられていようが関係ない。もう、武器も神気も腕力も全て要らない。目の前の相手をぶん殴れれば、それでいい。
アルキエルは高く飛び上がる。そして、体を思い切り捻り回転させる。それは、落下と回転の勢いを加えた攻撃であった。
隙が多い、しかし容易に近付けない。そんな攻撃を冬也は防ぎきれない。冬也はアルキエルの攻撃を受けて、勢いよく後方に吹き飛ばされる。
そして、アルキエルは追撃を行おうと冬也に迫る。冬也は空中で態勢を立て直すと、強引に着地する。そして、アルキエルと冬也の拳は交差した。
それは、一瞬の攻防なのだろう。僅かに躱した冬也に対し、アルキエルは拳を顔面に食らう。それは、既に限界に近かったアルキエルの体を、完全に壊した瞬間だった。
アルキエルは足元から崩れる様にして、膝を突く。脱力した様に両腕をだらりと垂らしている。
もう戦う力は残っていない。ほとんど神気も感じられない。しかし、アルキエルはそれでも笑っていた。動かせないはずの体を動かそうとした。
「まだまだ終われねぇよなぁ。面白れぇのはこれからだもんなぁ!」
アルキエルは立ちあがった。体を支えるのも精一杯なのだろう、足は震えている。それでも、顔には笑みを湛えている。
「お前、名前は?」
「東郷冬也だ」
「そうか、冬也。冬也か。覚えておくぜ、冬也。生きてりゃ、またやろうぜ」
そう言うと、アルキエルは残りの神気を体に充満させて、冬也に飛びかかる。目にも止まらぬスピードで冬也に迫る。しかし、冬也は微動だにしない。アルキエルの拳が届くその瞬間、冬也は神剣を軽く振るった。
アルキエル再び冬也と交差する。しかし、その胴から上に首は無く大地に転げていた。
「まだ負けてねぇぞ」
「終わりにしよう。アルキエル。シグルド、お前の勝ちだ!」
首だけになっても、アルキエルの闘志は揺るがない。そして冬也は静かにいい放つと、アルキエルの頭に神剣を突き立てる。
アルキエルの頭は、消滅する。しかし、首を切り離された胴体は、冬也を探して蠢く。冬也は、胴体にも神剣を突き立てた。
胴体が消滅すると同時に、アルキエルの神気は完全に消えうせ、最後は小さな球体になった。
辺りに静寂が戻ると、ペスカが冬也に抱き着いて泣きじゃくる。冬也は、ペスカの頭を優しく撫でた。
「あいつの勝ちだ。グレイラスは弱り切っていた。アルキエルも怪我をして隙が出来た。シグルドの勝ちだ」
「うん、うん。勝ったね。シグルドが、勝ったね。凄いねシグルド」
どれだけ自分に言い聞かせても、悔いは残る。シグルドがどんな想いで戦ったのか、それが用意に想像つくだけに。戦いに勝っても、虚しさが残る。
冬也は、ペスカに優しく語り掛けるが、その表情は険しいままである。そして、ペスカが泣き止む事は無かった。
「ペスカ。お前は下がって、結界を維持しろ」
「わ゛がっだ」
ペスカは未だ涙で霞む目で、懸命に結界を張る。そして、ラアルフィーネも冷静を取り戻したのか、ペスカの結界に神気を注ぎ込んだ。
「ったく、面倒だよなぁ。そうは思わねぇか? 少し力を出しただけで、この有様だぁ」
忌々しげに呟くアルキエルは、更に神気を膨れ上がらせていく。やがて、失われたはずの両腕が再生していく。
「何を呆けてやがる。神格が無事なんだ、腕なんて幾らでも生えてくんだろ」
当たり前の様に言われても、当然ながら冬也は神の常識など知らない。それ故に、目を丸くしていた。しかし、直ぐに我に返る。
「卑怯だとは言うなよ」
「言うかよ。てめぇこそ、そんな事が出来るなら、何でわざわざ悲鳴を上げやがった」
「いてぇもんはいてぇだろ。それに、俺に傷を付けられる奴なんて、ミスラ以外にはいなかったしな。あぁ、シグルドもか。あいつは、本当に強かったな」
「何ごちゃごちゃ言ってんだよ。本気を出すんなら、かかってこいよ」
「いい度胸じゃねぇか。それでこそだよなぁ。これからが本気の殺し合いだぁ!」
両者の神気が拮抗していく。そして、アルキエルも冬也と同様に剣を作り出す。
「お前の本当は、これじゃねぇんだろ?」
「だから何だ?」
「本当のお前を見せてみろって事だぁ!」
咆哮する様に言い放つと、アルキエルは剣を振り上げながら冬也との間合いを詰める。そして振り下ろされた剣は、冬也によって受け流される。次の瞬間、冬也は体を捻りアルキエルの頭部に向けて、蹴りを繰り出す。
アルキエルは、剣を持たない方の腕で冬也の足を払い除けると、横凪に剣を振るう。冬也はそれを一歩退いて躱し、頭から両断する様に縦に神剣を振るった。
アルキエルは冬也の神剣を払い除けると、そのままの勢いで再び剣を横凪に振るう。しかし、それも冬也に往なされる。
冬也はアルキエルの腹を目掛けて蹴りを入れ、後方に吹き飛ばす。そして、上段から剣を振り下ろす。アルキエルは後方に飛んだまま態勢を立て直す様にし、神剣を躱した。
一進一退の攻防が続く。互いに神気をぶつけ合い、それを削り合う。大気は震え、所々の空間が割けている。
冬也はアルキエルの眼前から姿を消すと、死角に回り込んで足を払う様に蹴りを繰り出す。気配で察知したのだろう、アルキエルは上方に飛ぶとそれを躱し、上段から剣を振り下ろした。
冬也は、勢いよく迫って来る剣を避けようとはしなかった。それどころか、神剣で受けようともしない。
冬也は気が付いていた。アルキエルが時折、肩を庇うような仕草をしていた事を。それは、アルキエルすら無意識の行動なのだろう。
如何に両腕が元に戻ろうと、痛みの記憶は残る。幻肢痛の様なものだろう。それこそが、唯一の隙になっている事も知らずに。
冬也は、目の前に迫る剣を横から殴りつけると、そのまま叩き折る。そして、裏拳をアルキエルの顔面に見舞う。
顔面に強烈な一発を食らったアルキエルは、一瞬だけ意識を失った様に頭を後ろに逸らす。そこからは、冬也のターンだった。
膝に強烈な蹴りを食らわせ、顎に痛烈な一撃を見舞う。ふらつき始めるアルキエルの体から神気を奪う様に、滅多切りにする。
目にも止まらぬ攻撃に、アルキエルは抵抗すら出来なかった。正確には、冬也の神気に押さえつけられ、自由に動く事が出来なかった。
それは冬也の思惑なのか、アルキエルの神気は失われていく。
「考えたなぁ。俺から神気をとりゃあ、勝てるとでも考えたかよぉ!」
それでも、アルキエルの闘志は失われる事は無い。失われるはずもない。何しろ、戦いの神なのだから。ここから本領発揮なのだろう。
冬也の神気によって体は自由に動かない、大量の神気を奪われ力も出せない。それでも、アルキエルは笑っていた。心の底から楽しいと言わんばかりの笑みを浮かべていた。
どれだけ神気で縛られようが、神の力を封じられていようが関係ない。もう、武器も神気も腕力も全て要らない。目の前の相手をぶん殴れれば、それでいい。
アルキエルは高く飛び上がる。そして、体を思い切り捻り回転させる。それは、落下と回転の勢いを加えた攻撃であった。
隙が多い、しかし容易に近付けない。そんな攻撃を冬也は防ぎきれない。冬也はアルキエルの攻撃を受けて、勢いよく後方に吹き飛ばされる。
そして、アルキエルは追撃を行おうと冬也に迫る。冬也は空中で態勢を立て直すと、強引に着地する。そして、アルキエルと冬也の拳は交差した。
それは、一瞬の攻防なのだろう。僅かに躱した冬也に対し、アルキエルは拳を顔面に食らう。それは、既に限界に近かったアルキエルの体を、完全に壊した瞬間だった。
アルキエルは足元から崩れる様にして、膝を突く。脱力した様に両腕をだらりと垂らしている。
もう戦う力は残っていない。ほとんど神気も感じられない。しかし、アルキエルはそれでも笑っていた。動かせないはずの体を動かそうとした。
「まだまだ終われねぇよなぁ。面白れぇのはこれからだもんなぁ!」
アルキエルは立ちあがった。体を支えるのも精一杯なのだろう、足は震えている。それでも、顔には笑みを湛えている。
「お前、名前は?」
「東郷冬也だ」
「そうか、冬也。冬也か。覚えておくぜ、冬也。生きてりゃ、またやろうぜ」
そう言うと、アルキエルは残りの神気を体に充満させて、冬也に飛びかかる。目にも止まらぬスピードで冬也に迫る。しかし、冬也は微動だにしない。アルキエルの拳が届くその瞬間、冬也は神剣を軽く振るった。
アルキエル再び冬也と交差する。しかし、その胴から上に首は無く大地に転げていた。
「まだ負けてねぇぞ」
「終わりにしよう。アルキエル。シグルド、お前の勝ちだ!」
首だけになっても、アルキエルの闘志は揺るがない。そして冬也は静かにいい放つと、アルキエルの頭に神剣を突き立てる。
アルキエルの頭は、消滅する。しかし、首を切り離された胴体は、冬也を探して蠢く。冬也は、胴体にも神剣を突き立てた。
胴体が消滅すると同時に、アルキエルの神気は完全に消えうせ、最後は小さな球体になった。
辺りに静寂が戻ると、ペスカが冬也に抱き着いて泣きじゃくる。冬也は、ペスカの頭を優しく撫でた。
「あいつの勝ちだ。グレイラスは弱り切っていた。アルキエルも怪我をして隙が出来た。シグルドの勝ちだ」
「うん、うん。勝ったね。シグルドが、勝ったね。凄いねシグルド」
どれだけ自分に言い聞かせても、悔いは残る。シグルドがどんな想いで戦ったのか、それが用意に想像つくだけに。戦いに勝っても、虚しさが残る。
冬也は、ペスカに優しく語り掛けるが、その表情は険しいままである。そして、ペスカが泣き止む事は無かった。