「さて、今後ママを笑おうとするなら……、テトラが笑うことになります」
「ヒィ!」
「どんな脅しだよ」
「完全にテトラはママのおもちゃですね」

 アルヴァンとフィロのすました発言も意に返さず、マリヴェラは自分の膝に小さいテトラを乗せ手をワキワキさせて場を見守ります。
 時々脇腹をつんつんしてその度テトラからふにゃっ! って声が上がりだす。
 小型端末を操作するテトラは両脇がガラ空きなのが恐怖に怯えているがまぁいいいだろう。
 テトラには悪いがマリヴェラの癒やしになってくれ。

『次は魔英雄ディマス様。お話を聞かせて頂けないでしょうか」
『ああ』

 ちなみに俺の設定は魔王様の側近でアルヴァン達を従えている壮年の戦闘巧者である。
 実年齢だとちょっと若すぎるので40後半ぐらいを想定した演技としている。
 声も加工されているので絶対俺だって分からない。

『ディマス様は実働として帝国中をまわられていますよね? どうしてディマス様が行かれているのです?」
『本来であれば魔王様が帝国のために動かれるのが筋かもしれないが……、身を大事して頂きたいということもあり私が魔王様の命を受けて活動をしている』

『なるほど。その全身鎧の姿から厳格と思いきや、子供達から大人気とされています。実際はどうなのでしょう』
『子供達は良い。その応援が私の力となり糧となる。子供達の未来のためを思えるからこそ私は動けるのだ』

 ”魔英雄ってどんな顔なんだろう”
 ”僕、魔英雄に助けてもらった! すごく良い人だった”
 ”全身鎧ってのが憧れるよなぁ。剣も魔法の腕もすごいらしいし”

 顔を隠しているせいか、魔将軍はあまり女性受けはしないらしい。
 その無骨な全身鎧と戦い方で男性からの評価が高い印象になる。

 だけど……。

「パパのお声……いいですぅ」
「うん、良き」
「早く私の子を産んでほしいわね」

「ねぇロード、やっぱり兜取った方がいいんじゃない?」

 孤児院の女性陣には高評価のようだ。

『今後の目標を教えてください」
『……世界を乱す【七英雄】を討つ。それだけだ』

「あああ……ありがとうございました!」

 インタビュアーには悪いことをしてしまったな。
 だけど俺にとってはそれが一番重要だ。恐らくはエリオスを除く6人もこの放送を見ている可能性が高い。
 絶対に食い下がってやる。

 帝国内、魔王国が動ける態勢が出来たら覇王イガルシュヴァラへの対抗が現実になる。
 あと少しの辛抱だ。

『次は国際医療機関所属のメリシュ・ハーヴァン様ですね。メリシュ様、話を聞かせて頂けないでしょうか」
『ええ、もちろん』

 次はメリシュがインタビューを受けるようだ。メリシュは医療従事者として世界中を周っているのでこのような取材は慣れっこだと言う。
 ある意味で世界でもトップクラスに著名であると言える。

『メリシュ様にとって魔王国とはどういった組織でしょうか。やはり国としての設立を目指しているんでしょうか』
『細かいことはアルヴァンが話した通りですよ。私はこの活動を通じて少しでも傷ついた人を減らしたいと思っています。魔王様が言っていた平和を願うってのが私の理念でもあります。人をむやみに傷つけたりしない優しい国、魔王様ならそれができると私は信じています』

『メリシュ様が開発されたという気分を落ち着かせるサスペションアロマ。帝国だけでなく、世界中にも売れていますね」
「そうですね。それだけ心に余裕がない人が多いのでしょう。私の作ったアロマで少しでも癒やされればと思います」
『利益のほぼ全てを寄付されているとか』
「当然です。私の目的のために広めているのですから。その寄付で人が救われるなら本望です」

 ”メリシュ様、すてきぃ”
 ”メリシュさんって美人で頭もよくて優しいんだよな”
 ”あの姉ちゃん、ネットも繋がらない村々まで足を運んでるらしいぞ”
 ”医者の鏡のような人ですね”
 "あの人に救えない命はないって言われてる。まさに【ゴッドハンド】だよ"

 メリシュは馬車も入れないような過疎の村にも向かって医療業務をしているという。
 新薬の研究も果敢に行っており、救われた命も多いとか……。
 昨日の夜ベッドの上でとんでもないことしてきたがあれもお茶目な一面であると言えるだろう。
 ここ半年の間で開発したと言われるサスペションアロマが馬鹿売れをしているという。
 すっげーいい匂いのするアロマで気持ちが落ち着くんだよなぁ。優しい子に育って嬉しい。

「メリシュ、アロマを使った計画の進捗は上々か?」
「ええ。そろそろ面白いものが見れると思うわ。あれを見れるなら売り上げの寄付なんて大したことではないわ」

 アルヴァンとメリシュが怪しげな相談をしている。嫌な予感がするが……うん、良い子なんだ。狂気をはらんでいるかもしれないけど……きっと良い子なんだよ!

『SS級冒険者のフィロメーナ様。宜しくお願いします』
「はい、お願いします」

 次はフィロだった。
 《剣神》という二つ名はもちろん、冒険者としても超一流。SS級は全世界に10人いないと言われていえる。まだ19歳のフィロがそれを成し遂げていることがその凄さの証明とも言える。
 武器を握っていないフィロはまるでお嬢様のように佇まいが律儀だ。口頭を上げて、常に微笑みを絶やさない。

『《剣神》であるフィロメーナ様から見て魔王様はどのような立場になるのですか? 魔王様、魔英雄様フィロメーナ様は誰が強いのでしょうか』

『勝負は時の場合によります。私が勝つときもあればディマス様や魔王様が勝ちになることもあるでしょう。ただ一つ言えることは私の剣は魔王様のためにあり、剣を預けることができるお方です』

 インタビューの場とはいえ、その確かな覚悟のある言葉に人々はフィロを称える。

 ”う、美しい”
 ”フィロメーナさんに慕われるなんて魔王ってほんとすごいんだなぁ”
 ”フィロメーナさんってマジでつえーんだぜ。この前邪神を一人で倒したとか。”
 ”フィロ様のような剣士になりたいです。剣を師事して頂きたいです”
 ”フィロ様さんに守られたい……”

 フィロもまた強さの象徴ということで帝国中で人気がある。
 男性人気も然る事ながら鮮やかな剣捌きということで女性人気も高いということだ。
 かつてあのローデリアが聖女だけでなく姫騎士と呼ばれていて持てはやされていたが……その称号は時代を経てフィロメーナと変わり始めている。
 まぁ姫ではないけどな。

『ふふ、魔王様の行方を阻むものを全て……取り除きたいですね」

 その結果があのエリオスの配下を血まみれにしたあの光景か……。
 フィロの狂気は表に出さないようにしないとな。

『アイリーン財団所属、特級魔導技師のテトラ・ハーヴァン様です。テトラ様、お話を聞かせて頂けませんか』
『あ、えっと……』

 テトラは公な場が苦手で顔を隠せるような大きな帽子を持ってくることが多い。
 テトラは帽子を動かしてカメラから表情を隠そうとする。しかし、向こうもプロでテトラの顔がちゃんと見える位置に移動する。

『テトラ様、魔英雄様も魔法が堪能と聞きます。やはりテトラ様が指導されたのでしょうか。テトラ様から見て魔王様はどのようなお方ですか』

『んと、魔王様は……強い力を持ってて、優しくて……」

 戸惑いながらもテトラは一言ずつ区切って話をしていく。やはり恥ずかしいのか顔を紅くしているのが初々しい。
 アルヴァンやメリシュみたいに口達者な子供達、テトラのようも恥ずかしがる子供。
 このような所を見ていてすごく微笑ましい。

「あんまりじっと見ないで欲しい」

 こっちのテトラも小型端末のモニターで顔を隠そうとします。

『では最後に魔王様のこと好きですか?」

『え!? え……とその……大好きです」

 ”かわいい”
 ”かわいい”
 ”かわいい”
 ”かわいい”
 ”かわいい”

「かわいいなぁ! テトラちゃん、かわいい!」

 確かにかわいい。
 小柄なテトラをマリヴェラはぎゅっと抱きしめた。
 背丈が低いこともあり、テトラはなぜか子供扱いされがちだ。魔法や魔導機器の取り扱いとか教養レベルは決してアルヴァンやメリシュに負けないんだがな。

「は、恥ずかしいからやめてよ!」

「君の功績は誇ってもいいと思うよ。魔導工学の発展においては魔王国も帝国もテトラのおかげで急速に発展できている。この計画のキーマンなのは間違いない」
「そうね。テトラがいなかったら私達の計画はあと10年遅れていたでしょう。ある意味私達5人の中で一番重要なのは間違いないわ」
「ちょ、褒めすぎ!」

 アルヴァンやメリシュの褒め言葉にテトラの顔はさらに赤くなります。
 実際にこの中央官制室やママホ、魔功炉……マリヴェラの武器など多岐に渡る。

「じゃ、じゃあ……もっと頑張っちゃおうかな!」

 そして意外に調子に乗りやすい所と……。

「大量破壊魔導兵器でも作っちゃおうかな!」

 そのノリで狂気なものを作り出す技術があるのが問題だったりする。
 インタビューは終わり、魔王国の帝国内での人気は盤石のものとなった。

 覇王イガルシュヴァラを攻めるためのきっかけを作るための次の工作へ場は進む。