何も変わってないように見える。
 彼らは窓際でくっちゃべり、私は廊下側の自席で神宮司くんとヲタ話をしている。
 そう、結局は何も変わらない。
 神宮司くんは照れたように顔を逸らすし、私も意識して唇を見てしまう。
 それに勘付いた佐々木さんは、何故か私たちに強く当たってくる。
 谷川くんは冷めた口調で私たちを止め、川崎くんは逆に煽ってくる。
 めぐは、恵の時と伊織の時がある、そのことを知ることになった。伊織の時間は徐々に減ってるので、丁度良かったかも知れない。
 最初皆は驚いてたけど、その事実を聞いた時に思い当たることがあったのか、神妙な顔で聞いてたのを覚えてる。
 そんなめぐは、私を心配そうに見ていることが多くなったくらいで、特にそこまで変わった様子はない。まぁ、弟と最近仲良くしてるのが多いくらいかな。
 何も変わってない――と言いたいけど、まぁ、皆が皆を理解した分だけ変化は訪れた。
 緩やかな変化の日常は進み、もう夏休み間近。
「もう夏休みだなぁ」
 谷川くんはアイスを食べながら、そんなことを言う。
 終業式を控えた休日。私と弟は慣れたように谷川くんの家に遊びに来ていた。
 すっかり瑠斗くんととも仲良くなり、私たちはゲームで遊んでいた。
「どっか行く? 楽しむ?」
 佐々木さんはギャル雑誌を見るのを止めて顔を上げる。
「……!」
 その声に頷くだけで応えたのがめぐだ。今日の様子は伊織ではなく、元の恵。これは想像だけど、恵の本質を受け入れてくれる人が周囲にいると、元の恵比率が多くなるのではないかと思っている。
 以前の漫画を読まなければ伊織になれない、でもならなければならないと強迫観念に壊され、自分自身を嫌っていた恵の姿はもうない。
 興奮気味に頷いためぐは、隣で下を向いて一言も喋ってないアニヲタの裾を掴んで仲間に引き込もうとしていた。その表情は「どうして俺はここにいるんだろう」とずっと疑問の表情だ。見てて面白いから放っておこう。
「夏期講習あるからなぁ……お盆前の数日間くらいなら空いてるけど」
 谷川工務店のデスクチェアを二つ繋げて足を伸ばしている川崎くんが応えた。
「勉強はするんだ……部活は止めたのに」
 私は横目でマ○カーの対戦をしている弟と瑠斗くんを見ながら、川崎くんへの疑問を口にした。
「ま、勉強はな。サッカーは大嫌いだったから」
 その言葉に私たちは爆笑した。
「ほんと、いつ聞いてもマジウケんだけど!? 」
 中でもツボに嵌ってるのが佐々木さんだった。サッカー部でモテモテのイメージが総崩れだから。モテモテは合ってるけども。
「じゃあ、バーベキューでもしようよ……せっかくこうやって集まるようになったんだし」
 マリカーでやっと勝った海は立ち上がって、そう宣言する。すっかり私たちの中に溶け込んでいる我が弟。イケメンで私に似ているとボソっと佐々木さんが言って見つめていた。
「ま、海水浴とかプールとか陽キャイベントは大嫌いだし、それがいいねー」
 谷川くんはアイスの棒を咥えながら賛成を示した。
「ほんと全然、全く、違うのな……」
 川崎くんは彼の姿に未だ慣れてないようだ。まぁ、でもそれはお互い様だろう。
「でも、優斗ん家でいいの? なんか悪くない?」
「いーよいーよ、あっちの駐車場とかいっぱい空いてるし」
「そう? んじゃ肉いっぱい持ってくるわ」
 佐々木さんは肉食女子っと……
「……それにしても」
 私は面子を眺め、溜め息混じりにこぼす。
「……陽キャなんていなかった」
 その言葉に、皆は苦笑いしながら頷く。
「だがお前は陽キャ」
「そうそう、弟とデートしてるし、神宮司ともデートしてるし」
「え? なにそれ? デート? どういうこと!?」
 川崎くんが突っ込んだ後、優斗が暴露し、佐々木さんはキレ始めた。何だこのカオスな状況……
「姉さん、良かったじゃん。やっと自分にも興味持てたんだね」
「ん……!」
「う……う……」
 海は変なことを言い始めるし、めぐはそれに必死に頷いてるし、神宮司くんはデート発言で真っ赤になって固まってるし、谷川工務店の内部は混沌と化す。
 まともなのは一人でマ○カーの練習をし始めた瑠斗くんくらいか……
「夏休み……変われるかね」
 誰かが口にすると、新しいレールの上を辿ってる実感が湧く。物事は単純だった。私はその声に応える。
「何にでもなれるよ。だって、まだ何も始めてなかっただけだからね」