最近、姉の様子が変わってきて、俺は少し安心した。
 なので、今日は見送るだけに留めることができた。本当なら俺が付いていって、フォローするんだけども。
 今日はめぐちゃんに似た人と用事があると言っていたから大丈夫だろう。あの手のタイプの人ならば、姉はそちらへと注力するから。
 俺がシスコンで甘えっ子だから、一緒に付いて行ってると思ってる。俺が反抗期だから辛辣だと思ってる。
 別に間違いではない。でも、それ以上に心配だからだ。
 全てに諦め、自分を貶めて。自分にも他人にも興味を持てず。
 何故か、全てを嫌っていて。自分も大嫌いで。
 そのくせ、寂しいくせに。関わるくせに。最後の最後で捨ててしまおうとする。
 でも、その姿勢が、その腐った考え方が、興味の無さが――
「……誰かを救ってるんだよね」
 俺はめぐちゃんを思い出す。そして自分自身のことも。
 なんだかんだ、その諦観さが琴線に触れて、俺たちに闇があるのが普通なんだと前向きになれる。
「……不思議」
 俺は冷蔵庫から麦茶を出して、一気に飲み干す。
 そしてソファーでテレビを見ている母親に声をかけた。
「母さん、父さんは大丈夫なの? なんか死んでるんだけど?」
「――ん? でも今日は休みだから、そのうち復活するんじゃない?」
 ソファーの片方を見ると、動かなくなったアザラシが爆睡していた。
「……社畜」
 俺は思わず姉さんと同じことを呟いてしまう。
「そうそう、それそれ! まぁ、私もだけど」
 俺の声を聞いた母親はアザラシを指差すと、自虐的に微笑んだ。
 その一連の行動を振り返り、姉さんが持ってるものが、その意味が、何となく分かるような気がした。なので、ついつい口から変な言葉が出てしまう。
「俺たちは、一体何を欲しがってるんだろうね……」
 危うく、儚げで、気付いたらいなくなりそうな。そんな姉さんを放っておけないだけ……だったんだけどね。