駅地下にある喫茶店。
そこに三人座って、コーヒを飲み笑い合って談笑――する訳もなく、ずっと同じことで言い合っていた。
「ってーか、ほんと、ありえなくない?」
「それはこっちのセリフだって。何でギャルがアニヲタなのよ」
「ギャルじゃないっつーの。オシャレしてるだけでギャル扱い止めてくんない?」
「私は男の大学生って思ってんだけど」
「こっちは中学生くらいだって思ってたわ」
中学生って……え? 私が子供っぽかったってこと?
さっきから同じような言葉を繰り返してるのは分かってるのけど、それでも言わずにはいられなかった。
佐々木さんは口に咥えたストローをストレートティー突っ込み、行儀悪くチューチュー飲む。そして、チラッと私の横を見て溜め息一つ。
「……ってか、デートの自慢にも見えて腹立つわぁ……やっぱり付き合ってんじゃん」
「でしょ? ラブラブなんだ」
「あー、もう。やっぱ付き合ってないじゃん、バカみたい」
吐き捨てるように言うと、またもやストレートティーをチューチュー吸い始めた。
私と神宮司くんはブラックコーヒーを嗜んでいる。のだが、さっきから言い合いがヒートアップしてるので喉が乾いてしまう。勢い良く熱いコーヒーを飲む訳にも行かず、私の水の消費が半端ない。
そして、傍らの神宮司くんはひたすらに俯いて身動きしない。大丈夫? 生きてる? コーヒー冷めるよ?
「あー、もう……ま、もういいわ……とりあえず、はい。甘ブ○」
そう言って、佐々木さんはテーブルの上に紙袋を置く。中には例の甘ブ○の円盤ボックスだ! おおお! そこに描かれている金髪美少女を見て、私は今までのやり取りは忘却の彼方へと吹き飛ばすことにした。
「お! さんきゅ! これ見たかったんだ! そんなに話題になってなかったし」
「は? めっちゃ話題になってたって。ちゃんとチェックしとけ」
「いす○さん! そしてラティ○ァちゃん! やべぇ。まじ萌える! ……早く見たい」
「萌えるってww いつの時代だよww でも、まぁ萌えるよな。水着シーンもあるし、キャストをいたぶるシーンは萌えるな」
「おおお、楽しみだわぁ……!」
アニヲタ同士盛り上がりを見せ始めたところで、隣の陰キャが体をテーブルに体を預けるようにして、佐々木さんに食って掛かる。
「……佐々木さん……アニメ……好き……なの?」
意表を突かれた佐々木さんは、そのまま変な声を出しながら頷く。
「じゃぁ……アイカ○とか……も?」
「え……? う、うん。一期は特に好きだった……けど?」
「――っ!? だ、だよ……ね……美○さんのオーラと、それに追いつこうと必死になる一年生の姿が本当に感動で、特に夜中にい○ごちゃんが噴水の所で美○さんと一緒に語り合うシーンなんて鳥肌モノで――」
饒舌になるオタク。そして面を喰らってる麻紀。
くくく……佐々木さん、目をキョロキョロさせて、私に助けを求めるように見てくるし。――って、恥ずかしいから私を見ないで……佐々木さんってギャルギャルなんだけど、素材が良くて可愛いんだよ……。目はクリっとしてるし肌もプルプルしてて、ちょっと幼く見える所が背伸び感があるというギャップ。
なので、そんな目で見られると人見知りじゃなくても照れるから。私はさっさと目を逸らす。
「――わ、分かった。うん。そうだな、私も好きだぞ」
私の助けを諦めたのか、詰め寄る神宮司くんに引きつった笑みで応えた。
それを聞いた彼は凍りいたように動きを止めた。
ん? 何故、今の言葉で何故凍りつくん? 別に変なことを言った訳でもないし……
「うれ……しい……」
どうやら、感動してたようだ……アイ○ツを心底分かってくれる相手が見つかったんだね。うんうん。ようやく私が開放される瞬間が来たようだ。
「神宮司くん、良かったね。心の友ができたようだ。佐々木さんならきっとプリ○ュアも分かってくるはず」
「うん……うん」
「――ちょ……おま……」
神宮司くんは感動に震えてるが、佐々木さんは怖さで震えてるようだ……
「はぁ……まぁ、いいけど。私もどっちも嫌いじゃないし、話せる相手もいないことだし」
「それもそうなんだよね。私もいないし……だからプリルさんに会えて嬉しかったって言うか……」
「……まぁ、私も、弟みたいに感じてて、その、楽しかったし?」
佐々木さんはそんなことを照れながら言う。いや、止めて。この甘酸っぱい雰囲気。私には高次元すぎるし、どう対応したらいいか分からないし、でも、弟って……
「それにしても、佐々木さんって学校じゃアニメの話しないよね。どうして?」
「……私みたいなギャルが、アニヲタってバレるのもね……辛いわ」
口にストローを咥えて、自嘲する。先っぽからお茶が垂れるから止めてほしいんだけど……
それにしても、彼女は陽キャパリピ軍団と思ってたけど、実際は違うのかな?
「ギャルねぇ……あれ? さっきは自分はギャルじゃないって言ってたじゃん」
「そそ。違う。でも星村さんが言ったようにさ、そう思われてるのも知ってるからね。結局はギャルって言われ続けるし、軽そうって思われて男好きっても言われるし、そして、訂正するのも面倒臭いし、それでいいかなとか思ったり?」
ギャルじゃないけどギャルって思われて。でもそれを受け入れてるんだ……そっちも面倒だと思うんだけどな。私はそういうの嫌だから素のままでいってるけども。
「そもそも私の親が、ギャルっぽいファッションが好きでさ。私もその影響受けちゃったのかなーって、それだけ」
「へー。じゃあ実際は別に男好きじゃないし、陽キャもダミーみたいな?」
「ん。男には別に興味無いね。二次元でいいよ、私は」
言い切るアニヲタさん素敵。アニヲタの鏡だわ……!
「……ってか、陽キャって何?」
お? 彼らと同じ聞き方するのね? 陽キャなんて君たちのことだろうに。
「明るくてパリピーな奴。まんま佐々木さんみたいな? そして私は対象的に陰キャってね」
「パリピーって……はぁ……まぁ、いいけど。それで陰キャって何?」
「暗くてジメってしたやつ」
「あぁ、それは星村さんだね」
「否定しろや」
「陽キャとか陰キャとか良く知らないけど……私個人は星村さんと一緒だと思うけどね……方向性が違うだけでさ」
んん? どういうこと? あぁ、つまり私と一緒で、基本的に何も興味無いってこと?
「その割に、この前、手紙のことを聞いてきたじゃん」
「ん? ……あぁ、違う違う。私は何にでも興味があんのよ。その方向性の違い」
「うぉ。めんどくさ」
私は思わず言ってしまったが、佐々木さんは別に何とも思ってないのか、軽い笑顔で応える。
「だから面白そうなのを探してるのよ。それを聞いて消化して、終わり……ってあれ? これって興味が無いのと同じ気がしてきたわ」
言い得て妙……そうだね。
興味があると思いきや、聞いて終わり。深入りしない。基本的に情報だけ集めて終わり。私は最初から興味が無いから関わらない、話さない、どうでもいい。
「まぁ、そうだね……似てるかも」
「んー……でも、ネットの時代ってこうだよね。中途半端に絡んで、でも他人だしどうでもいい。ただその場限りの情報だけ貰って後は知らんぷり」
「私は最初から絡まなかったけど。面倒だったし。……でも」
「心境の変化?」
そう。私はアニメの話を誰かと共有したかった。なのでツイッターデビューを果たしてプリルさんと仲良くなって、満足した。
「まぁ、そうなんだけど……」
ふと、この前の心境が思い浮かぶ。
顔の見えない相手だと楽しい? 顔が見えると怖い? そして私と佐々木さんの距離感は違うのに同じ?
「そっか……空虚な距離のほうが楽なんだ……親密になるのが……怖いんだ……」
人と関わりたくない。でも関わりたい。でも近いほど怖い。遠いほど楽。だから私は遠ざける。心を遠ざける。決して踏み込まない踏み込ませない。そんな距離感。
「あぁ……そだね……うん、それ」
私の独り言のような呟きは佐々木さんにも聞こえたらしい。どうやら思い当たるようで、ため息まじりに頷いてる。
「でもさ、私はその遠い距離で満足」
「だから……本当の自分も出さない?」
「……そだね……面倒だし」
「あぁ、似てるかもね、私たち」
非対称と思っていたけど、根本的なところでは同じ方向を向いてるんだ。
「???」
そして、ずっと黙ってた神宮司くんは、ずっと何を言ってるかわからない表情のまま首を傾げていた。
そこに三人座って、コーヒを飲み笑い合って談笑――する訳もなく、ずっと同じことで言い合っていた。
「ってーか、ほんと、ありえなくない?」
「それはこっちのセリフだって。何でギャルがアニヲタなのよ」
「ギャルじゃないっつーの。オシャレしてるだけでギャル扱い止めてくんない?」
「私は男の大学生って思ってんだけど」
「こっちは中学生くらいだって思ってたわ」
中学生って……え? 私が子供っぽかったってこと?
さっきから同じような言葉を繰り返してるのは分かってるのけど、それでも言わずにはいられなかった。
佐々木さんは口に咥えたストローをストレートティー突っ込み、行儀悪くチューチュー飲む。そして、チラッと私の横を見て溜め息一つ。
「……ってか、デートの自慢にも見えて腹立つわぁ……やっぱり付き合ってんじゃん」
「でしょ? ラブラブなんだ」
「あー、もう。やっぱ付き合ってないじゃん、バカみたい」
吐き捨てるように言うと、またもやストレートティーをチューチュー吸い始めた。
私と神宮司くんはブラックコーヒーを嗜んでいる。のだが、さっきから言い合いがヒートアップしてるので喉が乾いてしまう。勢い良く熱いコーヒーを飲む訳にも行かず、私の水の消費が半端ない。
そして、傍らの神宮司くんはひたすらに俯いて身動きしない。大丈夫? 生きてる? コーヒー冷めるよ?
「あー、もう……ま、もういいわ……とりあえず、はい。甘ブ○」
そう言って、佐々木さんはテーブルの上に紙袋を置く。中には例の甘ブ○の円盤ボックスだ! おおお! そこに描かれている金髪美少女を見て、私は今までのやり取りは忘却の彼方へと吹き飛ばすことにした。
「お! さんきゅ! これ見たかったんだ! そんなに話題になってなかったし」
「は? めっちゃ話題になってたって。ちゃんとチェックしとけ」
「いす○さん! そしてラティ○ァちゃん! やべぇ。まじ萌える! ……早く見たい」
「萌えるってww いつの時代だよww でも、まぁ萌えるよな。水着シーンもあるし、キャストをいたぶるシーンは萌えるな」
「おおお、楽しみだわぁ……!」
アニヲタ同士盛り上がりを見せ始めたところで、隣の陰キャが体をテーブルに体を預けるようにして、佐々木さんに食って掛かる。
「……佐々木さん……アニメ……好き……なの?」
意表を突かれた佐々木さんは、そのまま変な声を出しながら頷く。
「じゃぁ……アイカ○とか……も?」
「え……? う、うん。一期は特に好きだった……けど?」
「――っ!? だ、だよ……ね……美○さんのオーラと、それに追いつこうと必死になる一年生の姿が本当に感動で、特に夜中にい○ごちゃんが噴水の所で美○さんと一緒に語り合うシーンなんて鳥肌モノで――」
饒舌になるオタク。そして面を喰らってる麻紀。
くくく……佐々木さん、目をキョロキョロさせて、私に助けを求めるように見てくるし。――って、恥ずかしいから私を見ないで……佐々木さんってギャルギャルなんだけど、素材が良くて可愛いんだよ……。目はクリっとしてるし肌もプルプルしてて、ちょっと幼く見える所が背伸び感があるというギャップ。
なので、そんな目で見られると人見知りじゃなくても照れるから。私はさっさと目を逸らす。
「――わ、分かった。うん。そうだな、私も好きだぞ」
私の助けを諦めたのか、詰め寄る神宮司くんに引きつった笑みで応えた。
それを聞いた彼は凍りいたように動きを止めた。
ん? 何故、今の言葉で何故凍りつくん? 別に変なことを言った訳でもないし……
「うれ……しい……」
どうやら、感動してたようだ……アイ○ツを心底分かってくれる相手が見つかったんだね。うんうん。ようやく私が開放される瞬間が来たようだ。
「神宮司くん、良かったね。心の友ができたようだ。佐々木さんならきっとプリ○ュアも分かってくるはず」
「うん……うん」
「――ちょ……おま……」
神宮司くんは感動に震えてるが、佐々木さんは怖さで震えてるようだ……
「はぁ……まぁ、いいけど。私もどっちも嫌いじゃないし、話せる相手もいないことだし」
「それもそうなんだよね。私もいないし……だからプリルさんに会えて嬉しかったって言うか……」
「……まぁ、私も、弟みたいに感じてて、その、楽しかったし?」
佐々木さんはそんなことを照れながら言う。いや、止めて。この甘酸っぱい雰囲気。私には高次元すぎるし、どう対応したらいいか分からないし、でも、弟って……
「それにしても、佐々木さんって学校じゃアニメの話しないよね。どうして?」
「……私みたいなギャルが、アニヲタってバレるのもね……辛いわ」
口にストローを咥えて、自嘲する。先っぽからお茶が垂れるから止めてほしいんだけど……
それにしても、彼女は陽キャパリピ軍団と思ってたけど、実際は違うのかな?
「ギャルねぇ……あれ? さっきは自分はギャルじゃないって言ってたじゃん」
「そそ。違う。でも星村さんが言ったようにさ、そう思われてるのも知ってるからね。結局はギャルって言われ続けるし、軽そうって思われて男好きっても言われるし、そして、訂正するのも面倒臭いし、それでいいかなとか思ったり?」
ギャルじゃないけどギャルって思われて。でもそれを受け入れてるんだ……そっちも面倒だと思うんだけどな。私はそういうの嫌だから素のままでいってるけども。
「そもそも私の親が、ギャルっぽいファッションが好きでさ。私もその影響受けちゃったのかなーって、それだけ」
「へー。じゃあ実際は別に男好きじゃないし、陽キャもダミーみたいな?」
「ん。男には別に興味無いね。二次元でいいよ、私は」
言い切るアニヲタさん素敵。アニヲタの鏡だわ……!
「……ってか、陽キャって何?」
お? 彼らと同じ聞き方するのね? 陽キャなんて君たちのことだろうに。
「明るくてパリピーな奴。まんま佐々木さんみたいな? そして私は対象的に陰キャってね」
「パリピーって……はぁ……まぁ、いいけど。それで陰キャって何?」
「暗くてジメってしたやつ」
「あぁ、それは星村さんだね」
「否定しろや」
「陽キャとか陰キャとか良く知らないけど……私個人は星村さんと一緒だと思うけどね……方向性が違うだけでさ」
んん? どういうこと? あぁ、つまり私と一緒で、基本的に何も興味無いってこと?
「その割に、この前、手紙のことを聞いてきたじゃん」
「ん? ……あぁ、違う違う。私は何にでも興味があんのよ。その方向性の違い」
「うぉ。めんどくさ」
私は思わず言ってしまったが、佐々木さんは別に何とも思ってないのか、軽い笑顔で応える。
「だから面白そうなのを探してるのよ。それを聞いて消化して、終わり……ってあれ? これって興味が無いのと同じ気がしてきたわ」
言い得て妙……そうだね。
興味があると思いきや、聞いて終わり。深入りしない。基本的に情報だけ集めて終わり。私は最初から興味が無いから関わらない、話さない、どうでもいい。
「まぁ、そうだね……似てるかも」
「んー……でも、ネットの時代ってこうだよね。中途半端に絡んで、でも他人だしどうでもいい。ただその場限りの情報だけ貰って後は知らんぷり」
「私は最初から絡まなかったけど。面倒だったし。……でも」
「心境の変化?」
そう。私はアニメの話を誰かと共有したかった。なのでツイッターデビューを果たしてプリルさんと仲良くなって、満足した。
「まぁ、そうなんだけど……」
ふと、この前の心境が思い浮かぶ。
顔の見えない相手だと楽しい? 顔が見えると怖い? そして私と佐々木さんの距離感は違うのに同じ?
「そっか……空虚な距離のほうが楽なんだ……親密になるのが……怖いんだ……」
人と関わりたくない。でも関わりたい。でも近いほど怖い。遠いほど楽。だから私は遠ざける。心を遠ざける。決して踏み込まない踏み込ませない。そんな距離感。
「あぁ……そだね……うん、それ」
私の独り言のような呟きは佐々木さんにも聞こえたらしい。どうやら思い当たるようで、ため息まじりに頷いてる。
「でもさ、私はその遠い距離で満足」
「だから……本当の自分も出さない?」
「……そだね……面倒だし」
「あぁ、似てるかもね、私たち」
非対称と思っていたけど、根本的なところでは同じ方向を向いてるんだ。
「???」
そして、ずっと黙ってた神宮司くんは、ずっと何を言ってるかわからない表情のまま首を傾げていた。