「え? 明日の土曜日?」
「ん……駄目?」
金曜日の教室。
いつものようにやる気なく机に突っ伏して寝てると、隣の地味イケメンに声をかけられた。
神妙な表情で話しかけてくるから何事かと思ったら、アニメ○トに付き合ってほしいとのこと。
話を聞くと、神宮寺くんは人見知り過ぎてレジに並ぶのが怖いらしい。なので、買い物はいつもはネットで買うんだけど、店舗特典を受け取るためには実店舗に行かなければならないという……めぐより酷いんだけど……
非常に申し訳無さそうに、俯いて目は合わせずボソボソとお願いされるので、庇護欲が疼いてしまった。
「うん、まぁ大丈夫かな」
「……ん」
喜ぶ神宮寺くん。
「でも、私でいいの?」
「……俺……星村さんしか……しゃべれる人いない……友達……いない……」
「う、うん……私もその気持ちは十分に分かるから、それ以上言わなくていいよ……悲しくなるし」
そして、神宮寺くんは鞄から、アニメ○トのチラシ出してを私に渡す。
「へー、プリキュ○のフェアなんだね」
「ん……」
嬉しそうだね……これが孤高のイケメンか……やっぱりただの陰キャアニオタだね。もちろんイケメンなんだけども。
「んと、それで特典のプロマイドはCD買うと貰えるの? え? CD全部買うの? 連動特典? お、おぉ……すごいね……分かった。じゃ、私がレジで買ってくればいいのかな?」
「ん……ん……」
神宮寺くんは嬉しそうに頷く。ほんと好きなんだね、プリキュ○。アイ○ツのように地雷踏まないように気をつけないと……
「でも、今まではどうしてたの?」
「諦めるか……特典だけ、ネットで……買ったり……とか」
「家族とかに付き合って貰えばいいのに」
「恥ずか……しいから」
あ、そうなんだ……私は弟に全てを委ねてるから、むしろ気持ちいいよ! の旨を神宮司くんに伝えると――
「え……ちょっと……キモいんじゃ」
意外に辛辣なのよね、神宮司くん……
「じゃあ、私もちょっと土曜日に用事あるから、付き合ってもらってもいい?」
「ん……」
任せろと言わんばかりに頷く。
プリルさんと駅前で待ち合わせてるから、そこで円盤を借りないと……そうだね、先にアニメ○ト行ってからの方がいいかな。円盤持ち歩くのも重いし。
「んじゃ、午前中に駅で待ち合わせしよう」
神宮司くんは恥ずかしくも、でも楽しそうな表情で頷いた。
――ということで、土曜日。
弟にどこへ行くのか散々訊かれ、アニヲタに付き合うことを話した。
「へぇ……めぐちゃんみたいな人だね」
「まぁ……どっちも極端だけど、めぐの場合はトラウマからきてるのもあるから、純粋な意味では神宮司くんの方が人見知りかも」
「そうなんだ……姉さんも人と目を合わせないよね」
「うん……怖いから」
「……分かった。じゃあ行ってらっしゃい」
「あれ? それってデートじゃん! 許せないから俺も行く! って流れじゃないの?」
「……え?」
「……すみません、妄想が口に出ました」
そんな漫才を終わらせ、私は家を出てバスに乗る。
土曜日の午前中ということもあり、問題なく座席に座れた。ここから二十分程度揺られ、駅へと着く。
バスターミナルから階段を上がり、空を眺めると今日は梅雨を忘れるくらいの快晴だった。七月に入り気温も暑くなってきたものの、梅雨はまだ明けてないので、肌寒く感じる日もある。今日も午後からは天気は崩れるらしく、半袖一枚では寒く感じるだろう。
待ち合わせ場所は駅構内のステンドグラス前。よく待ち合わせスポットに使われる場所だった。
「お、早いね」
待ち合わせ時間より十五分は早いと言うのに、既に神宮司くんはステンドグラス前にいた。余程プリキュ○が楽しみで仕方ないんだね。そう考えると微笑ましくなってくる。
それに、なかなかオシャレだ。
Tシャツの上に半袖の黒いシャツを羽織り、清潔感が良い。ストレートのジーンズと白いスニーカーもシンプルだけど、変に流行を入れてないのが好感が持てる。
私は半袖の濃いブラウンワンピースに白く薄い五分丈のカーディガンを羽織ってる。足元は年齢相応のスニーカーだけど、色合いの薄いグレーのため全体としてマッチしている。バッグは小さめのバンブーハンドルなので、なかなかにおしゃれな感じ。
なんか、お互いにとてもこれからアニメ○トでプリキュ○を崇めにをいくスタイルじゃないんだけどね……
それに、神宮司くんは背も高く筋肉質だし、その格好で黒髪は映えるんだよなぁ……彼、やっぱりイケメンさんなんだよね。孤高なアンニュイクール男子では決してないけど。
「あ、待った?」
「……ううん」
恥ずかしそうに首を横に振る。
「それにしても、すごいね。神宮司くんってオシャレなんだ。うちの弟も結構オシャレには気を使ってるから、何となく分かるんだけど。大人っぽい格好だし、似合ってるね」
「……」
神宮司くんは恥ずかしそうに俯く。ほほー。照れてるね。結構、可愛いじゃん。
「……星村……さんも、可愛いよ」
お、おおお、ちょっとドキっとしてしまった。こんなイケメンに言われると、ドキドキ死ちゃうわ……
そして少し赤くなった顔を上げ、私を見上げる――と思ったけど速攻で目を逸らす。うん、いいぞ。目を合わせるな。絶対にだ。私も照れるから。
「なん……か」
「ん?」
「……みたい……だね」
さっぱり聞こえないが、まぁこれが彼のスタイル。私は聞こえたふりをして頷く。
「うん、そうだね。んじゃ、プリキュ○行こう」
「ん」
神宮司くんは嬉しそうに微笑み、私の後ろをピョコピョコ付いてきた。
「神宮司くんの家って近いの?」
早めに待っていたのを考えると、家が近かったりするのかな、と軽い気持ちで聞いてみた。
「ん……駅の裏だから……近いよ」
「すごいね、徒歩圏じゃん」
駅の裏って高級マンションばっかりなんだけど、え? 意外にお金持ちなのかな……?
私たちは駅を出て、ペデストリアンデッキを歩く。お目当てのアニメ○トはこの前弟と一緒に行ったので、その時以来となる。
そして少し歩くと、後ろからの圧というか、気配と言うか、それが気になり始める。
「ね、後を付けられてるようで怖いから、隣に来てよ……」
「……ん」
恥ずかしそうに、私の隣に並ぶ。
おー、こうやって歩いてるとデートみたいだね……
……
……デート……?
……ここで私が意識し始めると思う? そんなのは断じてない! いい? 相手はアンニュイクール男子だ。断じて意識などしないぞ。
確かにイケメンだ。でも、通常モードは髪で表情が見ないからホラーなのだ! うん。
私はそう心に誓いを立て、それが真実であることを確認するために隣を盗み見る。
「……」
「……っ?」
こっち見てんじゃん! ……危うく目を合わせる所だったじゃんよ……
「あれ?」
「ん?」
突然の逆サイドからの声に振り向くと、そこには驚いた表情の川崎くんがいた。
「あれ? 偶然」
私は神宮司くんの圧にちょっとやられ気味だったので、ホッとして声を掛けた。
それにしても、一人で買い物なのかな? そういえば部活辞めたんだったけ……だから休みの日も遊べるようになったとか?
「――え? 神宮寺?」
私の隣にいた神宮司くんに驚き声を上げる。おぉ、この前の谷川くんみたいだ。あの時は弟だったけど。なので、せっかくだから――
「あぁ、私の彼氏なの」
「――んなっ!?」
驚愕する川崎くんと――
「――んんんんっ!」
私の言葉に、神宮司くんは真っ赤になりながら首を横に振りながら詰め寄ってくる。ちょっと、ほんとそれホラーだから止めて! 声も唸り声だし……
「あ、その、ごめん、嘘……」
「お、おう……そうか……」
驚愕に次ぐ驚愕で、川崎くんはげっそりする。でも、すぐ気をとり直したかと思うと――
「え? じゃあ何で一緒に? デート?」
「ん? そうだね、何というか……ね?」
「……」
ここでプリキュ○を語ると神宮司くんが傷つくかもしれないので、思わず戸惑ってしまう。そして、私の戸惑いに、神宮司くんも戸惑う。ちょっと。この空気止めて。見るからに怪しい空気になるでしょ……!
「――ってか、こんな時間に街にいるって、本当に部活は辞めたんだね!」
「……お、おう……まぁ。面倒だったし。すっきりした」
私の絶妙なアシストをトラップしてくれる川崎くんはさすがサッカー部だ。元だけど。
「ってか……あぁ、ビビるわ……お前ら……デートとか……まじか……まじで……」
あれ? 上手く切り抜けたと思ったのに、話が戻ってしまった。
「……? ん……ん?」
どうやら川崎くんの口調に、神宮寺くんも戸惑ってるようだ。
「あぁ、川崎くんはうちら陰キャにはこんな感じなんだ。気を使わなくていいよ」
私は少し自虐的に説明すると、川崎くんは首を傾げる。
「ん? 何を言ってるんだ? ってか陰キャって誰が?」
谷川くんと同じこと言うね。
「私だよ。ほら、暗くてジメッとした奴」
「あぁ。星村さんだな。でも、神宮寺は違うだろ」
「いやいや、私も違うって断ってよ……」
「よく分かんねーけど、陰キャとは関係ないし、そもそも元はこうだし。俺はこれで行こうと思ってるから……まだ少しかかるけど」
「……?」
何のこっちゃ? ってか早く私のことも否定してくれよ……。
「……」
あれ? 神宮寺くんが真剣な顔で黙ってる。
何を言ってるか分かったのかな? 所々、頷いてるし。
……いや、彼だし、そんな訳ないか。
「ま、デートの邪魔して悪かったな……いや、でも、まぁ……お前ら付き合ってないみたいだな、うん。何か事情あるんだろ、な」
一人で納得して、川崎くんは駅方面へと歩いていった。
「ね、デートだって?」
「……」
恥ずかしげに俯く神宮寺くん。うん、照れた姿が可愛いね……これ以上は墓穴を掘るので止めよう……
「プリキュ○の特典貰うんでしょ? 行こう」
「……ん!」
ふぅ、やっと空気が元に戻った……
そして私たちはようやくアニメ○トに到着。お目当てのCDを見つけ、レジへ並ぶ。神宮寺くんは私の隣で、欲しい店舗特典を選び、支払いを行った。
「ね、別にこれ、私いらなくない? 別に店員にあれこれ言われないと思うけど?」
「んん……そんなことない……聞かれたり、話しかけられたりする……」
「もしかして……どっちにしますかとか? ポイントをどうするとか?」
「ん」
「あ、そう……」
私も服を買う時に話しかけれらるのは苦手だけど、このくらいは全然平気。神宮寺くんはヤバいレベルで人見知りなんだな……
そんな彼は嬉しそうには戦利品を大事に抱え込んでいる。
「よし、じゃあ行こうか。言ってたけど、私にもちょっと付き合ってくれる?」
「ん」
そして、エスカレータに乗り階下へ降りていく。
「あ……この前の、何?」
「ん? この前の?」
エスカレータで後ろに立っている神宮寺くんが訪ねてくる。
いきなり何の話かさっぱり分からず、私は後ろを振り返った。
こちらが一段低いため、見上げる格好となる。こうやって眺めるとスタイルいいんだよね、足も長いし。オタクで陰キャなのに……前髪も切って、表情を出せばもっとイケメンになると思うんだけど、人見知りだから相手の視線が怖かったりするんだろうか。
恥ずかしくて顔はあまり見れないので、体の方を見過ぎてしまった。が、これ以上は変態扱いされるとヤバい……
「……何? この前のって?」
私は誤魔化すように問いかけた。
「ツイッターで、すげーって……なって、言って、それで、終わって……」
あぁ、なるほど。この前放置プレイしちゃったあれね……
「それは――」
言い始めたところで二階に着いたので、私たちはエスカレータを降りて出口へと向かう。そのまま横に並び、先程の話を続けながら駅構内へと戻った。
「――ってそのアニメ詳しい人も見てたくらいだから、アイ○ツ推してた神宮司くんは凄いなって思って」
「その人から……借りるんだ……?」
「うん……と言っても、初めて会うんだけど……」
ステンドグラスに戻ると、丁度待ち合わせ時間くらいだった。早速、私はツイッターのDMで話しかける。
『ステンドグラス前に着きましたー』
『お、こっちは着いてるよ。紙袋持ってるんだけど、分かる? デパートの紙袋に入れてきた』
『探してみますー』
……んと、紙袋ってそうそう持ってる人は少ないはず……あ、いた!
私は神宮司くんを連れて、目的の人へ近付いていく。
プリルさん……! やった! 会えた!
あれ……え? 男の人だと思ったけど、女の……人だったのか……
……あれ? 女の人というか……どこかで見た……
「……佐々木さん?」
「んあ? あれ? 星村さんじゃん?」
「……」
「……」
「え? もしかして、プリルさん?」
「え? んじゃ、りんりん?」
「……」
「……」
「「おい! マジか!?」」
私たち二人は汚い言葉でハモることになった。
「ん……駄目?」
金曜日の教室。
いつものようにやる気なく机に突っ伏して寝てると、隣の地味イケメンに声をかけられた。
神妙な表情で話しかけてくるから何事かと思ったら、アニメ○トに付き合ってほしいとのこと。
話を聞くと、神宮寺くんは人見知り過ぎてレジに並ぶのが怖いらしい。なので、買い物はいつもはネットで買うんだけど、店舗特典を受け取るためには実店舗に行かなければならないという……めぐより酷いんだけど……
非常に申し訳無さそうに、俯いて目は合わせずボソボソとお願いされるので、庇護欲が疼いてしまった。
「うん、まぁ大丈夫かな」
「……ん」
喜ぶ神宮寺くん。
「でも、私でいいの?」
「……俺……星村さんしか……しゃべれる人いない……友達……いない……」
「う、うん……私もその気持ちは十分に分かるから、それ以上言わなくていいよ……悲しくなるし」
そして、神宮寺くんは鞄から、アニメ○トのチラシ出してを私に渡す。
「へー、プリキュ○のフェアなんだね」
「ん……」
嬉しそうだね……これが孤高のイケメンか……やっぱりただの陰キャアニオタだね。もちろんイケメンなんだけども。
「んと、それで特典のプロマイドはCD買うと貰えるの? え? CD全部買うの? 連動特典? お、おぉ……すごいね……分かった。じゃ、私がレジで買ってくればいいのかな?」
「ん……ん……」
神宮寺くんは嬉しそうに頷く。ほんと好きなんだね、プリキュ○。アイ○ツのように地雷踏まないように気をつけないと……
「でも、今まではどうしてたの?」
「諦めるか……特典だけ、ネットで……買ったり……とか」
「家族とかに付き合って貰えばいいのに」
「恥ずか……しいから」
あ、そうなんだ……私は弟に全てを委ねてるから、むしろ気持ちいいよ! の旨を神宮司くんに伝えると――
「え……ちょっと……キモいんじゃ」
意外に辛辣なのよね、神宮司くん……
「じゃあ、私もちょっと土曜日に用事あるから、付き合ってもらってもいい?」
「ん……」
任せろと言わんばかりに頷く。
プリルさんと駅前で待ち合わせてるから、そこで円盤を借りないと……そうだね、先にアニメ○ト行ってからの方がいいかな。円盤持ち歩くのも重いし。
「んじゃ、午前中に駅で待ち合わせしよう」
神宮司くんは恥ずかしくも、でも楽しそうな表情で頷いた。
――ということで、土曜日。
弟にどこへ行くのか散々訊かれ、アニヲタに付き合うことを話した。
「へぇ……めぐちゃんみたいな人だね」
「まぁ……どっちも極端だけど、めぐの場合はトラウマからきてるのもあるから、純粋な意味では神宮司くんの方が人見知りかも」
「そうなんだ……姉さんも人と目を合わせないよね」
「うん……怖いから」
「……分かった。じゃあ行ってらっしゃい」
「あれ? それってデートじゃん! 許せないから俺も行く! って流れじゃないの?」
「……え?」
「……すみません、妄想が口に出ました」
そんな漫才を終わらせ、私は家を出てバスに乗る。
土曜日の午前中ということもあり、問題なく座席に座れた。ここから二十分程度揺られ、駅へと着く。
バスターミナルから階段を上がり、空を眺めると今日は梅雨を忘れるくらいの快晴だった。七月に入り気温も暑くなってきたものの、梅雨はまだ明けてないので、肌寒く感じる日もある。今日も午後からは天気は崩れるらしく、半袖一枚では寒く感じるだろう。
待ち合わせ場所は駅構内のステンドグラス前。よく待ち合わせスポットに使われる場所だった。
「お、早いね」
待ち合わせ時間より十五分は早いと言うのに、既に神宮司くんはステンドグラス前にいた。余程プリキュ○が楽しみで仕方ないんだね。そう考えると微笑ましくなってくる。
それに、なかなかオシャレだ。
Tシャツの上に半袖の黒いシャツを羽織り、清潔感が良い。ストレートのジーンズと白いスニーカーもシンプルだけど、変に流行を入れてないのが好感が持てる。
私は半袖の濃いブラウンワンピースに白く薄い五分丈のカーディガンを羽織ってる。足元は年齢相応のスニーカーだけど、色合いの薄いグレーのため全体としてマッチしている。バッグは小さめのバンブーハンドルなので、なかなかにおしゃれな感じ。
なんか、お互いにとてもこれからアニメ○トでプリキュ○を崇めにをいくスタイルじゃないんだけどね……
それに、神宮司くんは背も高く筋肉質だし、その格好で黒髪は映えるんだよなぁ……彼、やっぱりイケメンさんなんだよね。孤高なアンニュイクール男子では決してないけど。
「あ、待った?」
「……ううん」
恥ずかしそうに首を横に振る。
「それにしても、すごいね。神宮司くんってオシャレなんだ。うちの弟も結構オシャレには気を使ってるから、何となく分かるんだけど。大人っぽい格好だし、似合ってるね」
「……」
神宮司くんは恥ずかしそうに俯く。ほほー。照れてるね。結構、可愛いじゃん。
「……星村……さんも、可愛いよ」
お、おおお、ちょっとドキっとしてしまった。こんなイケメンに言われると、ドキドキ死ちゃうわ……
そして少し赤くなった顔を上げ、私を見上げる――と思ったけど速攻で目を逸らす。うん、いいぞ。目を合わせるな。絶対にだ。私も照れるから。
「なん……か」
「ん?」
「……みたい……だね」
さっぱり聞こえないが、まぁこれが彼のスタイル。私は聞こえたふりをして頷く。
「うん、そうだね。んじゃ、プリキュ○行こう」
「ん」
神宮司くんは嬉しそうに微笑み、私の後ろをピョコピョコ付いてきた。
「神宮司くんの家って近いの?」
早めに待っていたのを考えると、家が近かったりするのかな、と軽い気持ちで聞いてみた。
「ん……駅の裏だから……近いよ」
「すごいね、徒歩圏じゃん」
駅の裏って高級マンションばっかりなんだけど、え? 意外にお金持ちなのかな……?
私たちは駅を出て、ペデストリアンデッキを歩く。お目当てのアニメ○トはこの前弟と一緒に行ったので、その時以来となる。
そして少し歩くと、後ろからの圧というか、気配と言うか、それが気になり始める。
「ね、後を付けられてるようで怖いから、隣に来てよ……」
「……ん」
恥ずかしそうに、私の隣に並ぶ。
おー、こうやって歩いてるとデートみたいだね……
……
……デート……?
……ここで私が意識し始めると思う? そんなのは断じてない! いい? 相手はアンニュイクール男子だ。断じて意識などしないぞ。
確かにイケメンだ。でも、通常モードは髪で表情が見ないからホラーなのだ! うん。
私はそう心に誓いを立て、それが真実であることを確認するために隣を盗み見る。
「……」
「……っ?」
こっち見てんじゃん! ……危うく目を合わせる所だったじゃんよ……
「あれ?」
「ん?」
突然の逆サイドからの声に振り向くと、そこには驚いた表情の川崎くんがいた。
「あれ? 偶然」
私は神宮司くんの圧にちょっとやられ気味だったので、ホッとして声を掛けた。
それにしても、一人で買い物なのかな? そういえば部活辞めたんだったけ……だから休みの日も遊べるようになったとか?
「――え? 神宮寺?」
私の隣にいた神宮司くんに驚き声を上げる。おぉ、この前の谷川くんみたいだ。あの時は弟だったけど。なので、せっかくだから――
「あぁ、私の彼氏なの」
「――んなっ!?」
驚愕する川崎くんと――
「――んんんんっ!」
私の言葉に、神宮司くんは真っ赤になりながら首を横に振りながら詰め寄ってくる。ちょっと、ほんとそれホラーだから止めて! 声も唸り声だし……
「あ、その、ごめん、嘘……」
「お、おう……そうか……」
驚愕に次ぐ驚愕で、川崎くんはげっそりする。でも、すぐ気をとり直したかと思うと――
「え? じゃあ何で一緒に? デート?」
「ん? そうだね、何というか……ね?」
「……」
ここでプリキュ○を語ると神宮司くんが傷つくかもしれないので、思わず戸惑ってしまう。そして、私の戸惑いに、神宮司くんも戸惑う。ちょっと。この空気止めて。見るからに怪しい空気になるでしょ……!
「――ってか、こんな時間に街にいるって、本当に部活は辞めたんだね!」
「……お、おう……まぁ。面倒だったし。すっきりした」
私の絶妙なアシストをトラップしてくれる川崎くんはさすがサッカー部だ。元だけど。
「ってか……あぁ、ビビるわ……お前ら……デートとか……まじか……まじで……」
あれ? 上手く切り抜けたと思ったのに、話が戻ってしまった。
「……? ん……ん?」
どうやら川崎くんの口調に、神宮寺くんも戸惑ってるようだ。
「あぁ、川崎くんはうちら陰キャにはこんな感じなんだ。気を使わなくていいよ」
私は少し自虐的に説明すると、川崎くんは首を傾げる。
「ん? 何を言ってるんだ? ってか陰キャって誰が?」
谷川くんと同じこと言うね。
「私だよ。ほら、暗くてジメッとした奴」
「あぁ。星村さんだな。でも、神宮寺は違うだろ」
「いやいや、私も違うって断ってよ……」
「よく分かんねーけど、陰キャとは関係ないし、そもそも元はこうだし。俺はこれで行こうと思ってるから……まだ少しかかるけど」
「……?」
何のこっちゃ? ってか早く私のことも否定してくれよ……。
「……」
あれ? 神宮寺くんが真剣な顔で黙ってる。
何を言ってるか分かったのかな? 所々、頷いてるし。
……いや、彼だし、そんな訳ないか。
「ま、デートの邪魔して悪かったな……いや、でも、まぁ……お前ら付き合ってないみたいだな、うん。何か事情あるんだろ、な」
一人で納得して、川崎くんは駅方面へと歩いていった。
「ね、デートだって?」
「……」
恥ずかしげに俯く神宮寺くん。うん、照れた姿が可愛いね……これ以上は墓穴を掘るので止めよう……
「プリキュ○の特典貰うんでしょ? 行こう」
「……ん!」
ふぅ、やっと空気が元に戻った……
そして私たちはようやくアニメ○トに到着。お目当てのCDを見つけ、レジへ並ぶ。神宮寺くんは私の隣で、欲しい店舗特典を選び、支払いを行った。
「ね、別にこれ、私いらなくない? 別に店員にあれこれ言われないと思うけど?」
「んん……そんなことない……聞かれたり、話しかけられたりする……」
「もしかして……どっちにしますかとか? ポイントをどうするとか?」
「ん」
「あ、そう……」
私も服を買う時に話しかけれらるのは苦手だけど、このくらいは全然平気。神宮寺くんはヤバいレベルで人見知りなんだな……
そんな彼は嬉しそうには戦利品を大事に抱え込んでいる。
「よし、じゃあ行こうか。言ってたけど、私にもちょっと付き合ってくれる?」
「ん」
そして、エスカレータに乗り階下へ降りていく。
「あ……この前の、何?」
「ん? この前の?」
エスカレータで後ろに立っている神宮寺くんが訪ねてくる。
いきなり何の話かさっぱり分からず、私は後ろを振り返った。
こちらが一段低いため、見上げる格好となる。こうやって眺めるとスタイルいいんだよね、足も長いし。オタクで陰キャなのに……前髪も切って、表情を出せばもっとイケメンになると思うんだけど、人見知りだから相手の視線が怖かったりするんだろうか。
恥ずかしくて顔はあまり見れないので、体の方を見過ぎてしまった。が、これ以上は変態扱いされるとヤバい……
「……何? この前のって?」
私は誤魔化すように問いかけた。
「ツイッターで、すげーって……なって、言って、それで、終わって……」
あぁ、なるほど。この前放置プレイしちゃったあれね……
「それは――」
言い始めたところで二階に着いたので、私たちはエスカレータを降りて出口へと向かう。そのまま横に並び、先程の話を続けながら駅構内へと戻った。
「――ってそのアニメ詳しい人も見てたくらいだから、アイ○ツ推してた神宮司くんは凄いなって思って」
「その人から……借りるんだ……?」
「うん……と言っても、初めて会うんだけど……」
ステンドグラスに戻ると、丁度待ち合わせ時間くらいだった。早速、私はツイッターのDMで話しかける。
『ステンドグラス前に着きましたー』
『お、こっちは着いてるよ。紙袋持ってるんだけど、分かる? デパートの紙袋に入れてきた』
『探してみますー』
……んと、紙袋ってそうそう持ってる人は少ないはず……あ、いた!
私は神宮司くんを連れて、目的の人へ近付いていく。
プリルさん……! やった! 会えた!
あれ……え? 男の人だと思ったけど、女の……人だったのか……
……あれ? 女の人というか……どこかで見た……
「……佐々木さん?」
「んあ? あれ? 星村さんじゃん?」
「……」
「……」
「え? もしかして、プリルさん?」
「え? んじゃ、りんりん?」
「……」
「……」
「「おい! マジか!?」」
私たち二人は汚い言葉でハモることになった。