プリルさんはどう思ってるんだろう?
『アイ○ツって見ました?』
その日の夜。家に着いて、神宮司くんのラブレターをざっと読んだ私は、プリルさんに聞いてみようと思い立った。
彼の熱い思いは確かに伝わった。心から大好きだと、ネタバレしないように作品の魅力を語っていた。
だからこそ、アニメファンのプリルさんはこの作品を見たことがあったのか気になった。
もしかすると、私こそが"ニワカ"ではないのか、そう考えたからである。
「さて、返事はいつ来るか分からないし、海と一緒にアイ○ツの続きでも見ようかな」
そして、弟がいるであろうリビングに顔を出すと、そこには弟の他にめぐの姿もあった。
「あれ? めぐ?」
「……うん」
「遊びに来たのか?」
「……そう」
めぐが笑顔で頷く。
自分主導による切り替えで、"どちら"も表に出すことが可能になっためぐは、もうリバース・マジックは読まなくなった。
でも、元々の大人しいめぐが現れる機会が多くなってきた。これは元の性格に引っ張られるからとか、やはり仮初めの演技だからとか、そんな理由ではない。
単に"楽"だからだ。
私たちはいくつもの自分を持っているけど、その中で最も簡単な自分がいる。それが本当の自分だと錯覚するレベルで。だけど、別にそこに意味など無く、それを多く出しているに過ぎない。
でも、弟曰く、私にはそんなものないみたいだけども。
っと、んなことよりも要件だね。めぐが来てるならアイ○ツはまた今度かな。
「アイ○ツの続きでも見ようと思ったけど……また今度かな?」
「あ、うん。今度。でも珍しいね。姉さんから誘ってくるなんて」
「あぁ、実は、クラスの男子から手紙を貰って」
そう言って、私は手紙を差し出す。
「え? クラスの男子からの手紙?」
弟は驚愕して私を二度見する。むむ? 嫉妬? まじで? お姉ちゃん取られちゃうって思った?
「あ……そういえば、今日貰ってたね……神宮寺くんから」
それにめぐも乗っかる。お、陽キャのめぐが少し入ってきたかな。
「うん、それで、この内容――」
……を説明する前に、弟に手紙をひったくられた。
「……えっ、ずっと好きだったこの想い? 大好き? 何これ……ラブレターじゃん」
弟は勝手に読み始めると、勝手に憤慨する。これは本気の嫉妬ってやつでいい? まじで? お姉ちゃん浮かれちゃっていい?
「……本当だ……私に興味ないって言ってたくせに、これを見せるってことは、興味あるってことなの?」
おっと、めぐは完全に陽キャ恵になっちゃった。それに機嫌が悪くなってるし……
「いやいや、良く読んで。ラブレターな訳がないじゃん」
「「……」」
ジト目を向けるシスターズ。だから、私がそんなもの貰うわけないじゃんよ?
「全校の憧れの神宮寺くんから手紙貰っといて?」
「……全校の憧れ? 誰が?」
めぐは何言ってるんだろう? 誰が全校の憧れだって? 高度な嫌味なのだろうか?
「神宮寺くんでしょ? え? 本気で言ってるの? あれだけのイケメンで、誰も寄せ付けない孤高なアンニュイクール男子」
「めぐこそ何を言ってるん? 彼はただのコミュ障で陰キャのアニヲタだよ?」
「「ひっど……」」
ちょいちょい、そこでハモらないでよ。本気で私が酷いヤツみたいじゃん。
すると、めぐの言葉に疑問を感じたのか、弟がめぐに尋ねる。
「めぐちゃん、その人ってそんなにイケメンなの?」
「うん。いつも静かに一人で佇んで、誰が話しかけても返事しない、相手にしない。でもすっごいイケメンで、いつも昼休みになるとギャラリーが出て、廊下から見られてるくらい」
「え? それめぐじゃん。え? 違うの?」
「私? 私よりもほとんど神宮寺くんじゃないかな」
そ、そうだったの? え? マジで? それはかなりショックなんだけど……
でも、話しかけても返事しないってのは嘘だろう。
「神宮司くんは、話しかければ返事するよ? 声が小さすぎて聞こえないだけで……目も合わせないし」
「……え?」
「だから、めぐと一緒だよ」
「……そう……なの?」
「うん。だから、神宮司くんは陰キャでコミュ障でアニヲタで無駄なイケメンだって」
「無駄なイケメンは関係ないと思うけど……」
うん、そうですね。それは言いすぎた。ごめん。
「そうそう、その神宮司くんから借りてるアイ○ツ。その熱い想いがその手紙の内容なんだよ」
「え? アイ○ツ? 借りた相手ってその人だったんだ? え? 最近よく連絡してる相手だよね?」
「うん――いや、まずはその手紙をちゃんと読んで」
また脱線しそうになるので、弟に対してさっさと舵を取る。
「「……」」
二人は私が渡した――じゃない、私からぶんどった手紙を読み始める。最初からそうやって読んでよね。その手紙は私じゃなくてアイ○ツへの愛なんだよ。
「……本当に、アイ○ツへの推しが溢れる手紙だった……アニメ好きだったんだね」
「でも、この想いは分かる……!」
驚くめぐと、納得の弟。うん、見事な対比だね。
「でしょ? だから、アイ○ツをさっさと見ようかなと思って」
「ふーん……でも、仲がいいんだね」
「そうだね……言われてみると、教室でもずっと話ししてるよね」
またジト目を向けるシスターズ。ふむふむ。君たち私に嫉妬してるんだな! 特に弟よ! いやいや、シスコンの弟を持つと辛いな!
「そっか、大丈夫だぞ、海。お姉ちゃんは弟をちゃんと好きだからね」
「……は?」
弟は心底嫌そうな表情で応える。止めて……その発言と表情はメンタルにきます。
「はぁ……いつも危ういから心配してるのに……」
「危うい? 何が?」
「何でもない……アイカツは今度ね」
そう言うと、弟はソファーへと戻って行った。今日は母さんも遅いため、ソファーを占領しても怒られないからね。
「……りんりん、何かあったら言ってね。私も助けになればいいんだけど」
「ん? 私には何もないし、大丈夫だよ」
「……そう、だね」
なになに? 私に何か取り付いてるとでも言うの……? 縁起でもないよ……
二人はこれから幼馴染トークをするとのことで、私はリビングを退散する。私も幼馴染なんだけど、あの二人は私よりも仲が良かったりする。男女の枠を超えちゃってるのも凄いなと思う。
私は部屋に戻り、ベッドにダイブ! さて、何をしようか……ゴロゴロしながら考える。
「よし……ゲームでもしようか」
谷川くんにオススメされた姉もののエロゲー……じゃなくてギャルゲーの続きでもやろうか、と思ったところで、スマホの通知ランプが光ってるのに気付いた。
「あ、プリルさんだ」
先程の質問の返事だ。その内容を読むと――
『もちろん見たよ。特に無印一期は神作』
「なんだと……マジか……私はニワカだったってことか……神宮寺くん、やるな……」
神宮寺くん相手に敗北感を味わうことになるとは……せっかくだ、彼に称賛を贈ろう。
そして、オタクのタイムラインを眺めると、饒舌にアニメの感想をアップしている。これが孤高なクール男子の姿か……
『すごいね』
リプしてみる。
『何?』
返事早い。TLに張り付いてるのかな……
私は無視し、エロゲーをやろうとゲーム機をオンにしたところで、またスマホの通知音が鳴る。
今度はプリルさんだった。
『見たほうがいいよ。なんなら円盤貸してあげる?』
『プリルさん持ってるんすね。でも一期借りたので大丈夫ですよ』
なんてことないやり取りだったものの、私はちょっと驚いていた。
貸してあげる……だと!? やばい……仲良くなったとは思ってたけど、プリルさんがこんなに親身になってくれたことに私は感動していた。何せ、心を分かち合うアニメ仲だ。例えSNSだけの知り合いだとしても、これを喜ばずにはいられようか、いや、いられまい!!
『あ、じゃあ甘ブ○を貸してあげるよ。見たことないって言ってたよね?』
――んだと!? 感動には更に続きがあったというのか!?
『え? いいんですか?』
『いいよー。続きはDMする』
おぉぉぉ! え? すげぇ……! アニメ"友達"じゃん! すげぇ……!
SNSだとしても、ここまで盛り上がって、親しくなるなんて初めてで、私は舞い上がってしまう。
っと……思ったところで、この前の出来事を不意に思い出してしまった。
谷川くんの友達発言……
あれって、本気なのか、それとも違うのか。そして、何故、谷川くんは簡単に言えるのかが分からなかった。
何故、私は距離を詰めるのが怖いのだろう。
何故、私は距離を詰められるのが怖いのだろう。
そして何故……プリルさんの好意は嬉しいのだろう……?
何故、私は"アニメ友達"なんて簡単に思考ができたんだろう? 今までの言動から見て矛盾している。
分からない。
顔の見えない相手だと嬉しい?
顔が見えると怖い?
なんだそれは? 普通逆だろう。
……私は一体、何を怖がっているんだ?
私は他人に興味が無い。自分にさえ興味が無い。
知ってる。それは自分を守るためであることを。
全てに興味を失えば、この空虚な世界で空虚な自分を演じてれば、誰も私を傷つける者はいなくなる。
それのどこが悪いんだ? 守り逃げるための戦いでもあるんだよ? 私は逃げる。逃げるために戦う。
……なのに、何故、私は嬉しいのだろう。
プリルさんの距離感、谷川くんの発言。それらを好ましく感じてしまう。
私が……乱される。
……私が怖いのは……一体、何だ……?
――ピコーン
スマホの通知が鳴る。
『どもども。それじゃりんりん宛に送ろうか? 手渡しって行っても近くに住んでるとも思えないし』
プリルさんからのDMだった。そして、りんりんは私のHNだ。めぐにも言われている私の愛称で、単純すぎるけど気に入ってる。
『すんません、本当ありがとうございます。あ、ちなみに、私は仙台なんです』
『え? 私もなんだけど?』
なん……だと! 奇跡……!
『じゃあ、直接渡すよー』
『え? いいんですか? 嬉しいけど』
『平気平気ー』
ということで、今週土曜日の昼に駅で落ち合うことになった。
『アイ○ツって見ました?』
その日の夜。家に着いて、神宮司くんのラブレターをざっと読んだ私は、プリルさんに聞いてみようと思い立った。
彼の熱い思いは確かに伝わった。心から大好きだと、ネタバレしないように作品の魅力を語っていた。
だからこそ、アニメファンのプリルさんはこの作品を見たことがあったのか気になった。
もしかすると、私こそが"ニワカ"ではないのか、そう考えたからである。
「さて、返事はいつ来るか分からないし、海と一緒にアイ○ツの続きでも見ようかな」
そして、弟がいるであろうリビングに顔を出すと、そこには弟の他にめぐの姿もあった。
「あれ? めぐ?」
「……うん」
「遊びに来たのか?」
「……そう」
めぐが笑顔で頷く。
自分主導による切り替えで、"どちら"も表に出すことが可能になっためぐは、もうリバース・マジックは読まなくなった。
でも、元々の大人しいめぐが現れる機会が多くなってきた。これは元の性格に引っ張られるからとか、やはり仮初めの演技だからとか、そんな理由ではない。
単に"楽"だからだ。
私たちはいくつもの自分を持っているけど、その中で最も簡単な自分がいる。それが本当の自分だと錯覚するレベルで。だけど、別にそこに意味など無く、それを多く出しているに過ぎない。
でも、弟曰く、私にはそんなものないみたいだけども。
っと、んなことよりも要件だね。めぐが来てるならアイ○ツはまた今度かな。
「アイ○ツの続きでも見ようと思ったけど……また今度かな?」
「あ、うん。今度。でも珍しいね。姉さんから誘ってくるなんて」
「あぁ、実は、クラスの男子から手紙を貰って」
そう言って、私は手紙を差し出す。
「え? クラスの男子からの手紙?」
弟は驚愕して私を二度見する。むむ? 嫉妬? まじで? お姉ちゃん取られちゃうって思った?
「あ……そういえば、今日貰ってたね……神宮寺くんから」
それにめぐも乗っかる。お、陽キャのめぐが少し入ってきたかな。
「うん、それで、この内容――」
……を説明する前に、弟に手紙をひったくられた。
「……えっ、ずっと好きだったこの想い? 大好き? 何これ……ラブレターじゃん」
弟は勝手に読み始めると、勝手に憤慨する。これは本気の嫉妬ってやつでいい? まじで? お姉ちゃん浮かれちゃっていい?
「……本当だ……私に興味ないって言ってたくせに、これを見せるってことは、興味あるってことなの?」
おっと、めぐは完全に陽キャ恵になっちゃった。それに機嫌が悪くなってるし……
「いやいや、良く読んで。ラブレターな訳がないじゃん」
「「……」」
ジト目を向けるシスターズ。だから、私がそんなもの貰うわけないじゃんよ?
「全校の憧れの神宮寺くんから手紙貰っといて?」
「……全校の憧れ? 誰が?」
めぐは何言ってるんだろう? 誰が全校の憧れだって? 高度な嫌味なのだろうか?
「神宮寺くんでしょ? え? 本気で言ってるの? あれだけのイケメンで、誰も寄せ付けない孤高なアンニュイクール男子」
「めぐこそ何を言ってるん? 彼はただのコミュ障で陰キャのアニヲタだよ?」
「「ひっど……」」
ちょいちょい、そこでハモらないでよ。本気で私が酷いヤツみたいじゃん。
すると、めぐの言葉に疑問を感じたのか、弟がめぐに尋ねる。
「めぐちゃん、その人ってそんなにイケメンなの?」
「うん。いつも静かに一人で佇んで、誰が話しかけても返事しない、相手にしない。でもすっごいイケメンで、いつも昼休みになるとギャラリーが出て、廊下から見られてるくらい」
「え? それめぐじゃん。え? 違うの?」
「私? 私よりもほとんど神宮寺くんじゃないかな」
そ、そうだったの? え? マジで? それはかなりショックなんだけど……
でも、話しかけても返事しないってのは嘘だろう。
「神宮司くんは、話しかければ返事するよ? 声が小さすぎて聞こえないだけで……目も合わせないし」
「……え?」
「だから、めぐと一緒だよ」
「……そう……なの?」
「うん。だから、神宮司くんは陰キャでコミュ障でアニヲタで無駄なイケメンだって」
「無駄なイケメンは関係ないと思うけど……」
うん、そうですね。それは言いすぎた。ごめん。
「そうそう、その神宮司くんから借りてるアイ○ツ。その熱い想いがその手紙の内容なんだよ」
「え? アイ○ツ? 借りた相手ってその人だったんだ? え? 最近よく連絡してる相手だよね?」
「うん――いや、まずはその手紙をちゃんと読んで」
また脱線しそうになるので、弟に対してさっさと舵を取る。
「「……」」
二人は私が渡した――じゃない、私からぶんどった手紙を読み始める。最初からそうやって読んでよね。その手紙は私じゃなくてアイ○ツへの愛なんだよ。
「……本当に、アイ○ツへの推しが溢れる手紙だった……アニメ好きだったんだね」
「でも、この想いは分かる……!」
驚くめぐと、納得の弟。うん、見事な対比だね。
「でしょ? だから、アイ○ツをさっさと見ようかなと思って」
「ふーん……でも、仲がいいんだね」
「そうだね……言われてみると、教室でもずっと話ししてるよね」
またジト目を向けるシスターズ。ふむふむ。君たち私に嫉妬してるんだな! 特に弟よ! いやいや、シスコンの弟を持つと辛いな!
「そっか、大丈夫だぞ、海。お姉ちゃんは弟をちゃんと好きだからね」
「……は?」
弟は心底嫌そうな表情で応える。止めて……その発言と表情はメンタルにきます。
「はぁ……いつも危ういから心配してるのに……」
「危うい? 何が?」
「何でもない……アイカツは今度ね」
そう言うと、弟はソファーへと戻って行った。今日は母さんも遅いため、ソファーを占領しても怒られないからね。
「……りんりん、何かあったら言ってね。私も助けになればいいんだけど」
「ん? 私には何もないし、大丈夫だよ」
「……そう、だね」
なになに? 私に何か取り付いてるとでも言うの……? 縁起でもないよ……
二人はこれから幼馴染トークをするとのことで、私はリビングを退散する。私も幼馴染なんだけど、あの二人は私よりも仲が良かったりする。男女の枠を超えちゃってるのも凄いなと思う。
私は部屋に戻り、ベッドにダイブ! さて、何をしようか……ゴロゴロしながら考える。
「よし……ゲームでもしようか」
谷川くんにオススメされた姉もののエロゲー……じゃなくてギャルゲーの続きでもやろうか、と思ったところで、スマホの通知ランプが光ってるのに気付いた。
「あ、プリルさんだ」
先程の質問の返事だ。その内容を読むと――
『もちろん見たよ。特に無印一期は神作』
「なんだと……マジか……私はニワカだったってことか……神宮寺くん、やるな……」
神宮寺くん相手に敗北感を味わうことになるとは……せっかくだ、彼に称賛を贈ろう。
そして、オタクのタイムラインを眺めると、饒舌にアニメの感想をアップしている。これが孤高なクール男子の姿か……
『すごいね』
リプしてみる。
『何?』
返事早い。TLに張り付いてるのかな……
私は無視し、エロゲーをやろうとゲーム機をオンにしたところで、またスマホの通知音が鳴る。
今度はプリルさんだった。
『見たほうがいいよ。なんなら円盤貸してあげる?』
『プリルさん持ってるんすね。でも一期借りたので大丈夫ですよ』
なんてことないやり取りだったものの、私はちょっと驚いていた。
貸してあげる……だと!? やばい……仲良くなったとは思ってたけど、プリルさんがこんなに親身になってくれたことに私は感動していた。何せ、心を分かち合うアニメ仲だ。例えSNSだけの知り合いだとしても、これを喜ばずにはいられようか、いや、いられまい!!
『あ、じゃあ甘ブ○を貸してあげるよ。見たことないって言ってたよね?』
――んだと!? 感動には更に続きがあったというのか!?
『え? いいんですか?』
『いいよー。続きはDMする』
おぉぉぉ! え? すげぇ……! アニメ"友達"じゃん! すげぇ……!
SNSだとしても、ここまで盛り上がって、親しくなるなんて初めてで、私は舞い上がってしまう。
っと……思ったところで、この前の出来事を不意に思い出してしまった。
谷川くんの友達発言……
あれって、本気なのか、それとも違うのか。そして、何故、谷川くんは簡単に言えるのかが分からなかった。
何故、私は距離を詰めるのが怖いのだろう。
何故、私は距離を詰められるのが怖いのだろう。
そして何故……プリルさんの好意は嬉しいのだろう……?
何故、私は"アニメ友達"なんて簡単に思考ができたんだろう? 今までの言動から見て矛盾している。
分からない。
顔の見えない相手だと嬉しい?
顔が見えると怖い?
なんだそれは? 普通逆だろう。
……私は一体、何を怖がっているんだ?
私は他人に興味が無い。自分にさえ興味が無い。
知ってる。それは自分を守るためであることを。
全てに興味を失えば、この空虚な世界で空虚な自分を演じてれば、誰も私を傷つける者はいなくなる。
それのどこが悪いんだ? 守り逃げるための戦いでもあるんだよ? 私は逃げる。逃げるために戦う。
……なのに、何故、私は嬉しいのだろう。
プリルさんの距離感、谷川くんの発言。それらを好ましく感じてしまう。
私が……乱される。
……私が怖いのは……一体、何だ……?
――ピコーン
スマホの通知が鳴る。
『どもども。それじゃりんりん宛に送ろうか? 手渡しって行っても近くに住んでるとも思えないし』
プリルさんからのDMだった。そして、りんりんは私のHNだ。めぐにも言われている私の愛称で、単純すぎるけど気に入ってる。
『すんません、本当ありがとうございます。あ、ちなみに、私は仙台なんです』
『え? 私もなんだけど?』
なん……だと! 奇跡……!
『じゃあ、直接渡すよー』
『え? いいんですか? 嬉しいけど』
『平気平気ー』
ということで、今週土曜日の昼に駅で落ち合うことになった。