六月も中旬になり、例年より若干遅く梅雨入りが報道された。
湿気が多くなり、肌寒くなるこの季節。だが先月までの気温差が激しい時期も非常に辛い。朝と昼で気温差が十度以上あることもしばしばなので、梅雨のほうが過ごしやすいという意見もある。
そんな金曜日の夜。
中間テストも難なく終え、開放的でリフレッシュな気分に酔ったのか、近頃の私は少しずつ行動的になっていた。
「やった、プリルさんがリプしてくれた」
ふふふ。すっかりツイッターマスターとなった私は、アニオタのプリルさんと仲良くなったぜ。
私と同じ嗜好なんだよね。いや、つれー。分かりみが深すぎてつれー。
『京○ニはどんなの好きなんですか?』
『けい○んとか○菓とかエヴァー○ーデンとか言うと思った? 甘ブ○だぜ』
そんなやり取りをして、私は感激する。
甘ブ○だけは見てなくて悔しい思いをしたんだけども、ここでそのタイトルを聞くことになるとは!
『さすがっす! でも私、甘○リ見たことないんですよ』
『まじ、天使だらけ。見た方がいいぞ』
いやぁ、プリルさんすげーな。こうやって他愛もない話ししてるけど、めっちゃ楽しい……
――ピコーン
再度、スマホの通知が鳴る。
お、プリルさんがリプくれたのかな? wktkだ!
『アイ○ツは何話まで見た?』
……神宮寺くんだった件……
アイ○ツ……まだまだ見れてないんだよね……今期のアニメも追わなきゃいけないのに。
『んと、三人でオーディションに出るために、崖登りした回まで』
……文字に打つと奇想天外だよね。アイドルアニメだよね?
『神回の一つだね。九話。この次の回はおと○ちゃんが出て、また――』
あ、通知が止まらなくなった……もう放置でいいや……
饒舌になったオタクを放置し、私はベッドの上にスマホを放り投げると、そのまま横になる。
姉もののギャルゲーもクリアしないと。せっかく谷川くんに教えてもらったんだし。
「姉さん?」
と思ったところで、弟が部屋にやってくる。だからノックしろと言ってるのに。こうなったら、見計らった時間に全裸になってやろうか。
「そろそろ、アニメの感想言いたくなったんじゃない?」
あぁ、その件ね。でも、残念ながら――
「ツイッターで盛り上がってるから、もう大丈夫だよ」
「は?」
え? やだ、反抗期怖い……
「あ、いや、アニメじゃなくて、一緒にゲームやりたいって思って」
私は微妙に路線変更する。そう、私は知っている。ここでやっぱり海とアニメ! とか言うと、さっきと言ってることが違う! となり、二次被害を受けるのだ。ここで上手くいくコツは、微妙にずらしながらも、弟の望むベクトルを追うということなのだ! どうだ! これが弟マイスターなのだ!
「ゲーム?」
ほらほら、乗ってきたぞ、このチョロい弟くん。
「そうそう、一緒にやろうよ、この前のゲーム」
「この前って……姉とエッチするゲームのこと?」
「しないから! いい? しないよ? これは全年齢版なんだよ?」
「……でも全年齢じゃないのもやってたんでしょ?」
「……やってない」
「……」
ジト目を向ける、マイ愛しの弟くん。いいね。その目だ。
「ま、いいからやろうよ。なかなか面白いんだよ、これ」
「んー、いや、いいよ。だって字を読んでるだけじゃつまらないから」
「……まぁ、確かに二人で字を読むってのもシュールかな」
「そうそう……あ、じゃあ、俺にも面白そうなアニメ教えて」
「ん? そうなの?」
「姉さん詳しいでしょ? 俺はそこまで詳しい訳じゃないしさ」
まぁ、そうだよね。私のアニメの感想を伝えても、相槌しか言わないし。
「んー、教えるって言っても……じゃあ、せっかくだし一緒に見てみる?」
私はそう言って、棚の中から円盤を出し始める。基本的には買わないんだけど、やっぱり気に入ったアニメは円盤買っちゃうよね。学生なので中古がほとんどだけど、店舗特典が気になったのは、そっち欲しさに買うことも――
「あ、これ見てみたいかも」
お、私のお気に入りのアニメ。さて、Fa○eか、冴え○ノかな、あるいはオ○ロ? 買ったばかりの無○転生……
「アイ○ツ、面白そうだね。アイドルのアニメなんだ」
……よりにもよって、借りたそれを……
「う、うん……借り物だけど……見てみる?」
「え? 姉さん借りたの? 凄いね、友達いるじゃん」
「友達じゃない、隣の席のやつ」
「……? 前もそんなこと言ってなかったっけ?」
「そう? まぁ、じゃあ見よう」
「姉さんはこれもう全部見たの?」
「いや、崖登りまで」
「……アイドルが崖に登るの?」
「うん……まぁ、見れば分かる」
私は見ても分からなかったけど!
「う、うん……じゃあ、見ようか」
そして私たちによるアイドルアニメの鑑賞会が始まった……
……
「吸血鬼の末裔……かっこいいね。それに可愛い」
弟は、とある吸血鬼アイドルに夢中になっていた。
あぁ……同じ感性なんだな、弟と神宮寺くんは。
でも、私も十九話まで見て面白さが分かってきた。人気がある理由が分かる。確かに同時期のラブラ○ブと一緒に話題になってたもんね。
「そろそろ、寝よう……さすがに三時間ぶっ続け……」
「明日休みだから大丈夫だよ」
「それはそうだけど……ん?」
そこで私は自分のスマホ通知が光っていることに気付く。
あ、神宮寺くんを放置してた……そろそろ相手しようかな。もう真夜中で寝てるだろうけど。
「あれ?」
谷川くんからも連絡があった。
『時間あったらクエ行こうぜ』
もう二時間以上前のメッセージだ。こんな時間だけど返しとこう。
『ごめん、弟とアニメ鑑賞して気付かなかった』
よし、返事は明日か返ってこないかどっちかだな。
そして、神宮寺くん……うわぁ……すげぇ長文が連続だ。熱い思いが溢れ出てる……ん? 最後のメッセージでは……
『……聞いてないようだから、ちゃんと書いてくる』
書いてくる……? え? 何を……?
意味不明なことを書いてるオタクに恐怖を感じながら、今日はもうお開きにしようと弟へ告げた。
湿気が多くなり、肌寒くなるこの季節。だが先月までの気温差が激しい時期も非常に辛い。朝と昼で気温差が十度以上あることもしばしばなので、梅雨のほうが過ごしやすいという意見もある。
そんな金曜日の夜。
中間テストも難なく終え、開放的でリフレッシュな気分に酔ったのか、近頃の私は少しずつ行動的になっていた。
「やった、プリルさんがリプしてくれた」
ふふふ。すっかりツイッターマスターとなった私は、アニオタのプリルさんと仲良くなったぜ。
私と同じ嗜好なんだよね。いや、つれー。分かりみが深すぎてつれー。
『京○ニはどんなの好きなんですか?』
『けい○んとか○菓とかエヴァー○ーデンとか言うと思った? 甘ブ○だぜ』
そんなやり取りをして、私は感激する。
甘ブ○だけは見てなくて悔しい思いをしたんだけども、ここでそのタイトルを聞くことになるとは!
『さすがっす! でも私、甘○リ見たことないんですよ』
『まじ、天使だらけ。見た方がいいぞ』
いやぁ、プリルさんすげーな。こうやって他愛もない話ししてるけど、めっちゃ楽しい……
――ピコーン
再度、スマホの通知が鳴る。
お、プリルさんがリプくれたのかな? wktkだ!
『アイ○ツは何話まで見た?』
……神宮寺くんだった件……
アイ○ツ……まだまだ見れてないんだよね……今期のアニメも追わなきゃいけないのに。
『んと、三人でオーディションに出るために、崖登りした回まで』
……文字に打つと奇想天外だよね。アイドルアニメだよね?
『神回の一つだね。九話。この次の回はおと○ちゃんが出て、また――』
あ、通知が止まらなくなった……もう放置でいいや……
饒舌になったオタクを放置し、私はベッドの上にスマホを放り投げると、そのまま横になる。
姉もののギャルゲーもクリアしないと。せっかく谷川くんに教えてもらったんだし。
「姉さん?」
と思ったところで、弟が部屋にやってくる。だからノックしろと言ってるのに。こうなったら、見計らった時間に全裸になってやろうか。
「そろそろ、アニメの感想言いたくなったんじゃない?」
あぁ、その件ね。でも、残念ながら――
「ツイッターで盛り上がってるから、もう大丈夫だよ」
「は?」
え? やだ、反抗期怖い……
「あ、いや、アニメじゃなくて、一緒にゲームやりたいって思って」
私は微妙に路線変更する。そう、私は知っている。ここでやっぱり海とアニメ! とか言うと、さっきと言ってることが違う! となり、二次被害を受けるのだ。ここで上手くいくコツは、微妙にずらしながらも、弟の望むベクトルを追うということなのだ! どうだ! これが弟マイスターなのだ!
「ゲーム?」
ほらほら、乗ってきたぞ、このチョロい弟くん。
「そうそう、一緒にやろうよ、この前のゲーム」
「この前って……姉とエッチするゲームのこと?」
「しないから! いい? しないよ? これは全年齢版なんだよ?」
「……でも全年齢じゃないのもやってたんでしょ?」
「……やってない」
「……」
ジト目を向ける、マイ愛しの弟くん。いいね。その目だ。
「ま、いいからやろうよ。なかなか面白いんだよ、これ」
「んー、いや、いいよ。だって字を読んでるだけじゃつまらないから」
「……まぁ、確かに二人で字を読むってのもシュールかな」
「そうそう……あ、じゃあ、俺にも面白そうなアニメ教えて」
「ん? そうなの?」
「姉さん詳しいでしょ? 俺はそこまで詳しい訳じゃないしさ」
まぁ、そうだよね。私のアニメの感想を伝えても、相槌しか言わないし。
「んー、教えるって言っても……じゃあ、せっかくだし一緒に見てみる?」
私はそう言って、棚の中から円盤を出し始める。基本的には買わないんだけど、やっぱり気に入ったアニメは円盤買っちゃうよね。学生なので中古がほとんどだけど、店舗特典が気になったのは、そっち欲しさに買うことも――
「あ、これ見てみたいかも」
お、私のお気に入りのアニメ。さて、Fa○eか、冴え○ノかな、あるいはオ○ロ? 買ったばかりの無○転生……
「アイ○ツ、面白そうだね。アイドルのアニメなんだ」
……よりにもよって、借りたそれを……
「う、うん……借り物だけど……見てみる?」
「え? 姉さん借りたの? 凄いね、友達いるじゃん」
「友達じゃない、隣の席のやつ」
「……? 前もそんなこと言ってなかったっけ?」
「そう? まぁ、じゃあ見よう」
「姉さんはこれもう全部見たの?」
「いや、崖登りまで」
「……アイドルが崖に登るの?」
「うん……まぁ、見れば分かる」
私は見ても分からなかったけど!
「う、うん……じゃあ、見ようか」
そして私たちによるアイドルアニメの鑑賞会が始まった……
……
「吸血鬼の末裔……かっこいいね。それに可愛い」
弟は、とある吸血鬼アイドルに夢中になっていた。
あぁ……同じ感性なんだな、弟と神宮寺くんは。
でも、私も十九話まで見て面白さが分かってきた。人気がある理由が分かる。確かに同時期のラブラ○ブと一緒に話題になってたもんね。
「そろそろ、寝よう……さすがに三時間ぶっ続け……」
「明日休みだから大丈夫だよ」
「それはそうだけど……ん?」
そこで私は自分のスマホ通知が光っていることに気付く。
あ、神宮寺くんを放置してた……そろそろ相手しようかな。もう真夜中で寝てるだろうけど。
「あれ?」
谷川くんからも連絡があった。
『時間あったらクエ行こうぜ』
もう二時間以上前のメッセージだ。こんな時間だけど返しとこう。
『ごめん、弟とアニメ鑑賞して気付かなかった』
よし、返事は明日か返ってこないかどっちかだな。
そして、神宮寺くん……うわぁ……すげぇ長文が連続だ。熱い思いが溢れ出てる……ん? 最後のメッセージでは……
『……聞いてないようだから、ちゃんと書いてくる』
書いてくる……? え? 何を……?
意味不明なことを書いてるオタクに恐怖を感じながら、今日はもうお開きにしようと弟へ告げた。