六月に入り衣替えも済んだ。ちょっと気分もリフレッシュ。
あれからめぐはいつもめぐだ。要は、伊織ってことね。
いつもの陽キャで、楽しく、明るく、絶妙な距離感を保ってくれる我が校のアイドル。
だけど、たまに素のめぐになる時がある。どうしようも無く不安定で、人と話せなくて、心を閉ざすめぐ。
でも結局は"どちらの存在にもなれる"ので、違和感は少なく、そんなものだろうと皆も受け入れている。
そう。所詮はそんなものなんだ。
そんなものに、私たちはどうしようもなく恐れ、不安で、死にたくなる。
「はい……円盤」
受け取った全シーズンボックスに、私どうしようもなく不安で、死にたくなる。
「ありがとう……これって全部一期なの?」
「……うん」
とりあえず、例の三十七話までは見ないと何をされるか分からない。それ程までにオタクという人種は、推しを布教する時はおかしくなる。
「分かった……とりあえず三十七話までは見ようと思う」
「……ん」
紙袋に入ってる円盤のボックスを机の下に置いた。
「……」
ふと思いつき、私は神宮寺くんを見つめる。いや、ごめん見つめてはない。少し逸らしてる。
「アイドルになりたいとかってある?」
神宮寺くんは私の言葉にきょとんとした後、静かに首を縦に振った。
「そっか……いや、アイ○ツとか、ラブ○イブも好きだし、自分も願望あるのかなと思って」
「ううん……アイドルは、好きだよ……だけど、あの熱い展開とか……頑張る姿とか、キラキラしてて……そういうのが好き……だけ」
「そうなんだ? でも、神宮寺くんって格好いいし、ありかもよ?」
「……」
おお、照れてる。こんなオタク男子を辱めることができて、私は最高に嬉しいぜ。
「――はーい、ホームルーム始めるぞ」
おっと……担任が来たか、惜しかった。
夕方のホームルーム。
これで今日も終わり。今日は塾もあるし、始まるまで適当に時間を潰そう。宿題の見直しでもやろうかな……
私は一旦家に帰るのも面倒なので、そのまま行くことにしている。部活でもやってれば時間がピッタリなんだけど。
塾といえば、最近の川崎くん、饒舌になってやたら構ってくるようになった。陰キャを落とし込もうしているのかしらないけど、ちょっと面倒なのよね。
まぁ、彼の毒親もキツイから、ある程度の本音は入ってるのかも知れない。
「――あ、そうそう。去年の文化祭実行委委員は、放課後に生徒会室に集まってくれよ」
最後の挨拶を終え、さあ帰宅だってところで担任がそんなことを言った。
「――え!? 急すぎない?」
窓際から二列目、後ろからも二番目の谷川くんが驚いたように叫んだ。ちなみにその後ろが川崎くんだったりする。
「急? 先週伝えたぞ?」
担任は呆れたように言う。どうやら完全に忘れてたようで、「まじかよ」を連発してる。
「一緒に行きましょう」
生徒会書紀のめぐがそう言って、谷川くんを連れ出していく。
「おぉ? やったじゃーん、優斗?」
小馬鹿にしたようにギャルっ子麻紀が煽ると、「うっせ」と悪態をついている。
いちいち賑やかなことだ。
「……?」
動かない私の様子を見て、神宮寺くんが首をかしげる。そういった仕草がめっちゃ格好いいと思う。でも目は合わせないし、前髪が少し目を隠してるから不気味にも感じる。いやめっちゃイケメンなんだけども。
「あ、うん……行ってくる」
「……ん」
私が応えると神宮寺くんが微笑む。うん。この表情は文句なしにキラキラして格好いい。陰キャのイケメンが不意打ちで見せる笑顔って最高だよね。
さて、そうだよね、やっぱり行かないとだよね。私もすっかり忘れていたんだよ……
面倒だなと思いながら、私も生徒会室へと向かう。
私も谷川くんも去年は別クラスで、それぞれ実行委員だったというわけだ。私と同じクラスだった神宮寺くんは、私の事情も知っていると。
今日呼び出されたのは、秋に開催する文化祭実行委員の引継ぎだろう。約四ヶ月後なので慌ただしくなる。
クラスから実行委員を決めるのは体育祭後の夏休み前だ。その前に、去年のメンバーが現生徒会に開催に向けて手順等を引き継ぐ必要がある。
私はドアを開け、生徒会室へ入る。生徒会室は広く、テーブルが四脚、正方形に設置しており、一面で三名は座れるだろう。足りない分はパイプ椅子が後方に置いてある。
既に何名か揃ってるけど、生徒会メンバーは準備のためか外しているようだ。
私は"適当に谷川くんの隣"に座った。
横目で軽く彼を見た後――
「姉もの、なかなかいいね」
私はボソッと呟く。
「だろ? 女装潜入ものもいいぞ」
谷川くんが静かに、得意げに応える。いつものチャラは鳴りを潜め、その声質は異様なほどに自信に満ちている。
彼はいい人だ。私がゲーム好きなのを見図って、去年の委員会では二人でゲーム談義で盛り上がった。
私みたいなボッチ陰キャに気を使ってくれたのだろう。こんなパリピの陽キャがゲームなんてするはずないし、私以外とそんな話題しているの聞いたことないし。
チャラチャラしてるけども、川崎くんとは違って見下さず、話を作ってくれるなんていい人。それに私みたいな陰キャと話すときは、チャラっぽい話し方はせず、普通に対応してくれるからね。
「でも、良かったの? この前のモン○ン、わざわざ買ったんじゃない?」
私がモン○ンを買ったと言ったら、興味を引かれてわざわざ買ったらしい。
「あぁ、いや、前から欲しかったからな。誰かとやってみたいってのもあったし、弟にも誘われたし」
この前、ジンオ○ガのクエを一緒にやったのは彼だ。モン○ンの初心者ってことで、いろいろ教えながらマルチをやった。
パリピが話題のモン○ンを少しやりたかったのかと思ったが、どうやら弟がいるらしく、一緒にプレイしようとせがまれたらしい。
でもギャルゲーの情報をわざわざ調べ、私に教えてくれるのはさすがだ。ギャルゲーなんてあっち側の人間は普通引くもんね。陽キャパリピはいい人だった。
「それにしても、ちょっと気になったんだけど?」
谷川くんは少しだけ声のボリュームを上げて疑問を投げる。
「ん? 何が?」
「お前、弟いるんだろ? いや、何かこう……弟がいる手前、姉ものやるってのがな」
「うん。この前は一緒にやったよ」
「……」
私が誇らしげに言うと、ドン引きしていた。うん、まぁそうだよね。
「――あ、全員揃ってるかな」
そこまで話したところで、生徒会の皆が入ってきた。書記のめぐもいる。
今声を上げたのは生徒会長だろう、良く分からないけど偉そうだったし。
「ったりーなぁ」
今までの口調とは異なり、いつものチャラい口調に谷川くんが戻る。
「まぁまぁ、それじゃさっさと始めようか」
生徒会長らしき人物はそう言って、今日の目的を淡々と説明し始めた――
あれからめぐはいつもめぐだ。要は、伊織ってことね。
いつもの陽キャで、楽しく、明るく、絶妙な距離感を保ってくれる我が校のアイドル。
だけど、たまに素のめぐになる時がある。どうしようも無く不安定で、人と話せなくて、心を閉ざすめぐ。
でも結局は"どちらの存在にもなれる"ので、違和感は少なく、そんなものだろうと皆も受け入れている。
そう。所詮はそんなものなんだ。
そんなものに、私たちはどうしようもなく恐れ、不安で、死にたくなる。
「はい……円盤」
受け取った全シーズンボックスに、私どうしようもなく不安で、死にたくなる。
「ありがとう……これって全部一期なの?」
「……うん」
とりあえず、例の三十七話までは見ないと何をされるか分からない。それ程までにオタクという人種は、推しを布教する時はおかしくなる。
「分かった……とりあえず三十七話までは見ようと思う」
「……ん」
紙袋に入ってる円盤のボックスを机の下に置いた。
「……」
ふと思いつき、私は神宮寺くんを見つめる。いや、ごめん見つめてはない。少し逸らしてる。
「アイドルになりたいとかってある?」
神宮寺くんは私の言葉にきょとんとした後、静かに首を縦に振った。
「そっか……いや、アイ○ツとか、ラブ○イブも好きだし、自分も願望あるのかなと思って」
「ううん……アイドルは、好きだよ……だけど、あの熱い展開とか……頑張る姿とか、キラキラしてて……そういうのが好き……だけ」
「そうなんだ? でも、神宮寺くんって格好いいし、ありかもよ?」
「……」
おお、照れてる。こんなオタク男子を辱めることができて、私は最高に嬉しいぜ。
「――はーい、ホームルーム始めるぞ」
おっと……担任が来たか、惜しかった。
夕方のホームルーム。
これで今日も終わり。今日は塾もあるし、始まるまで適当に時間を潰そう。宿題の見直しでもやろうかな……
私は一旦家に帰るのも面倒なので、そのまま行くことにしている。部活でもやってれば時間がピッタリなんだけど。
塾といえば、最近の川崎くん、饒舌になってやたら構ってくるようになった。陰キャを落とし込もうしているのかしらないけど、ちょっと面倒なのよね。
まぁ、彼の毒親もキツイから、ある程度の本音は入ってるのかも知れない。
「――あ、そうそう。去年の文化祭実行委委員は、放課後に生徒会室に集まってくれよ」
最後の挨拶を終え、さあ帰宅だってところで担任がそんなことを言った。
「――え!? 急すぎない?」
窓際から二列目、後ろからも二番目の谷川くんが驚いたように叫んだ。ちなみにその後ろが川崎くんだったりする。
「急? 先週伝えたぞ?」
担任は呆れたように言う。どうやら完全に忘れてたようで、「まじかよ」を連発してる。
「一緒に行きましょう」
生徒会書紀のめぐがそう言って、谷川くんを連れ出していく。
「おぉ? やったじゃーん、優斗?」
小馬鹿にしたようにギャルっ子麻紀が煽ると、「うっせ」と悪態をついている。
いちいち賑やかなことだ。
「……?」
動かない私の様子を見て、神宮寺くんが首をかしげる。そういった仕草がめっちゃ格好いいと思う。でも目は合わせないし、前髪が少し目を隠してるから不気味にも感じる。いやめっちゃイケメンなんだけども。
「あ、うん……行ってくる」
「……ん」
私が応えると神宮寺くんが微笑む。うん。この表情は文句なしにキラキラして格好いい。陰キャのイケメンが不意打ちで見せる笑顔って最高だよね。
さて、そうだよね、やっぱり行かないとだよね。私もすっかり忘れていたんだよ……
面倒だなと思いながら、私も生徒会室へと向かう。
私も谷川くんも去年は別クラスで、それぞれ実行委員だったというわけだ。私と同じクラスだった神宮寺くんは、私の事情も知っていると。
今日呼び出されたのは、秋に開催する文化祭実行委員の引継ぎだろう。約四ヶ月後なので慌ただしくなる。
クラスから実行委員を決めるのは体育祭後の夏休み前だ。その前に、去年のメンバーが現生徒会に開催に向けて手順等を引き継ぐ必要がある。
私はドアを開け、生徒会室へ入る。生徒会室は広く、テーブルが四脚、正方形に設置しており、一面で三名は座れるだろう。足りない分はパイプ椅子が後方に置いてある。
既に何名か揃ってるけど、生徒会メンバーは準備のためか外しているようだ。
私は"適当に谷川くんの隣"に座った。
横目で軽く彼を見た後――
「姉もの、なかなかいいね」
私はボソッと呟く。
「だろ? 女装潜入ものもいいぞ」
谷川くんが静かに、得意げに応える。いつものチャラは鳴りを潜め、その声質は異様なほどに自信に満ちている。
彼はいい人だ。私がゲーム好きなのを見図って、去年の委員会では二人でゲーム談義で盛り上がった。
私みたいなボッチ陰キャに気を使ってくれたのだろう。こんなパリピの陽キャがゲームなんてするはずないし、私以外とそんな話題しているの聞いたことないし。
チャラチャラしてるけども、川崎くんとは違って見下さず、話を作ってくれるなんていい人。それに私みたいな陰キャと話すときは、チャラっぽい話し方はせず、普通に対応してくれるからね。
「でも、良かったの? この前のモン○ン、わざわざ買ったんじゃない?」
私がモン○ンを買ったと言ったら、興味を引かれてわざわざ買ったらしい。
「あぁ、いや、前から欲しかったからな。誰かとやってみたいってのもあったし、弟にも誘われたし」
この前、ジンオ○ガのクエを一緒にやったのは彼だ。モン○ンの初心者ってことで、いろいろ教えながらマルチをやった。
パリピが話題のモン○ンを少しやりたかったのかと思ったが、どうやら弟がいるらしく、一緒にプレイしようとせがまれたらしい。
でもギャルゲーの情報をわざわざ調べ、私に教えてくれるのはさすがだ。ギャルゲーなんてあっち側の人間は普通引くもんね。陽キャパリピはいい人だった。
「それにしても、ちょっと気になったんだけど?」
谷川くんは少しだけ声のボリュームを上げて疑問を投げる。
「ん? 何が?」
「お前、弟いるんだろ? いや、何かこう……弟がいる手前、姉ものやるってのがな」
「うん。この前は一緒にやったよ」
「……」
私が誇らしげに言うと、ドン引きしていた。うん、まぁそうだよね。
「――あ、全員揃ってるかな」
そこまで話したところで、生徒会の皆が入ってきた。書記のめぐもいる。
今声を上げたのは生徒会長だろう、良く分からないけど偉そうだったし。
「ったりーなぁ」
今までの口調とは異なり、いつものチャラい口調に谷川くんが戻る。
「まぁまぁ、それじゃさっさと始めようか」
生徒会長らしき人物はそう言って、今日の目的を淡々と説明し始めた――