3話
 ラウ達は危険区を数日間かけて進み、メオの城まで辿り着いた。城内には武装した魔物がいた。ラウは撃退しつつ進む。ミウは言い付け通りグローの中にいた。
 
 通路には生物らしき骨の残骸がそこら中に転がっている。グローが影を伸ばし鑑定する。
 骨の持ち主はゴブリンやオークだった。

「ホトケさんはそのままにしておく。ゴブリンにはゴブリンの、オークにはオークの神様がいるさ。急ぐぞ。敵が多い」
 
 最上階までラウは走る。最奥の扉は鍵がかかっていた。グローが影の身体を使って、扉の隙間を抜けた。内側から鍵を開ける。敵の追撃が届く前に、入ることができた。
 最奥の間には黒い棺が置いてあった。グローが鑑定する。魔法で封印された棺の中に勇者の反応があった。
「あの中におるぞ。これで仕事は終わりだのう」
 
 グローが封印を解いて棺を開ける。入っていたのは、左腕の人骨に首を絞められたアンデットマスターだった。
「封印を解いてくれてありがとう」
 アンデットマスターは、自分の首を絞めていた人骨を外して投げ捨てる。勇者の反応は投げ捨てられた人骨から出ていた。
「忌々しい勇者め。自らの命と引き換えにワシを閉じ込めおって。この怒り、どう晴らしてくれようか」
 
 ラウがアンデットマスターに攻撃を仕掛ける。アンデットマスターはアンデッド軍団を召喚した。ゴブリンやオークのスケルトン兵がラウに襲い掛かるが、軽々と撃破する。
 アンデットマスターが次なるスケルトン兵を召喚した。グローの鑑定に反応があった。ラウの攻撃が止まる。
 
 勇者の剣を持つ片腕のスケルトン兵。それは探していたヨシュロウだった。死して骨だけになっても、勇者の名を持つ者の力は絶大だった。ラウは攻撃をためらい防戦一方になった。勇者の剣を折られ地面に倒される。トドメを刺される寸前だった。
 
 ミウはグローの影を漁り、ヨシュロウに向けて水筒や石ころ、宝石を投げた。グローが大切な物だと言って止めようとしたが、ミウは懸命に投げ続けた。
 お弁当箱がヨシュロウの頭部に当たり、液体がこぼれる。山菜のミソスープだった。スープがヨシュロウの頬を伝い、口に流れる。ヨシュロウの動きが止まった。

「懐かしい。美味しくて暖かかった故郷の味。ホタル……あぁホタル……」
 アンデットマスターが怒りをあらわにする。命令に従わなくなったヨシュロウごとラウを攻撃する。ヨシュロウはラウを庇ってバラバラになった。ヨシュロウの骨と剣が、グローの影に転がる。
 ラウは激高し、素手でアンデットマスターに立ち向かう。だが攻撃しても致命傷を負わせられず、アンデットマスターは何度も復活する。グローがミウに言う。

「勇者の剣をラウに渡すのだ。ワレは勇者の剣に触れられない」
「あたし勇者じゃないからムリよ、できない」
「できる。お主は勇者ヨシュロウの子孫だ」

 グローは言い切った。ミウの頬を舐めたときに採取したDNA情報と、ヨシュロウの骨のDNA情報が合致している部分がある。ミウは勇者の血筋を引いていた。
 ミウは勇気を振り絞った。グローの影から飛び出し、ヨシュロウの勇者の剣をラウに投げる。ラウはそれを受け取り、渾身の力でアンデットマスターを滅ぼした。メオの城から魔物の気配がなくなった。
 
 ミウとラウが、ヨシュロウの遺骨を丁寧に拾う。グローを通じてヨシュロウの記憶が断片的に流れてきた。
 
 ヨシュロウは料理人だった。親友のタロウとホタルと懸命に働き、いつかは自分達の店を持ちたいと思っていた。
 ある日突然、ベハマ村で勇者選抜が行われた。ヨシュロウは勇者の剣を引き抜けてしまった。ほかの村人は誰一人として勇者の剣を触ることができなかった。

 ヨシュロウは勇者をやらされた。魔王の脅威が迫ってくる中、断ることはできなかった。
 ヨシュロウは魔王討伐に旅立つ前、親友のタロウに頼んだ。ホタルを守ってほしい。ホタルのお腹にはオレの赤ちゃんがいる。
 ヨシュロウは旅立ち戦った。魔物の脅威がベハマ村に及ばないように、ホタルを危険に合わせないように。
 
 ヨシュロウは傷付き、それでも戦って、アンデットマスターを封印したところで力尽きた。ホタルの笑顔を思い浮かべ、ヨシュロウの記憶は閉じた。
 
 ラウとミウはヨシュロウの遺骨をすべて拾い、手を合わせた。ミウはヨシュロウおじいちゃん、ヨシュロウおじいちゃん、と何度も何度もひいおじいさんの名を口にした。
「帰ろう。故郷に」
 ミウは大事にヨシュロウの遺骨を抱え、メオの城を後にした。

いらっしゃいませー、とミウの元気な声がホヨタ食堂に響く。客席は満員。山菜のミソスープは飛ぶように注文されていた。お客さんは笑顔だった。ホタル、ヨシュロウ、タロウの夢が詰まったホヨタ食堂は、ミウが引き継いでいく。
 
 ラウとグローは、ミウの働いている姿を見た後、次の遺骨探索へと旅立っていった。

 終