「そうではない。小鬼は、ただそなたを信じておっただけだ。そうだな。小鬼?」

 事務官に声を掛けられた小鬼は、口元の手はそのままに、コクコクと頷く。

 そんな小鬼の姿と事務官の言葉に、胸に熱いものが込み上げる。

 僕はこれまでこれほどの信頼を寄せられたことがあっただろうか。

「こ、小鬼……」

 思わず言葉に詰まる。

 しかし事務官は、そんな心の余韻には浸らせないとでも言いたげに、淡々と言葉を繋ぐ。

「そうは言っても、小鬼の直感に安易に乗るわけにもいかぬ」
「まぁ、確かにそうですね。五芒星でしたっけ? それの可能性があるってことですもんね?」
「うむ。そこで、最終研修は私も直接立ち会う事にしたのだ。己の目でそなたの人となりを確認した後に、判断を下すために」
「なるほど。だから、最後だけ監視……じゃない、お付き合い頂いたんですね」

 言い直してみたけれど、しっかり聞かれてしまったようだ。

 僕の言葉に事務官は軽くため息を吐く。それから、面倒くさそうな声を小鬼に向ける。

「もう良いぞ、小鬼。ここからはそなたに任せる」

 事務官の言葉に、小鬼は口元から手をパッと離して大きな声で応えた。

「畏まりました〜」

 事務官に一礼してから僕の方へと向き直ると、はち切れんばかりの笑顔だった。

「古森さんが一生懸命研修に臨むお姿をご覧になって、小野さまは追加の焼印を認めてくださいました〜」

「えっ? まさか、そんな理由?」
「もちろんです〜! そうですよね〜。小野さま」

 小鬼の念押しと共に事務官小野へ視線を向けると、酷く鬱陶しそうな表情をしていた。

「そなたには、見込みがあると思っただけだ」

 そう言って、明後日の方向へ顔を向けた事務官の横顔は、毎度の事務的なそれではなく、なんとなく柔らかく見えた。

「見込みって?」

 事務官の言葉の意味が分からず問い直してみたけれど、事務官はそれ以上口を開く気はないようだった。

 代わりに小鬼が嬉しそうに答える。

「それはもちろん、事務官付補佐としてですよ〜」

 僕は、足元へと視線を向ける。

「さっきもそんなこと言ってたけど、事務官付補佐って何?」
「事務官付補佐は、事務官さまのお仕事をお手伝いするお仕事です〜」
「じゃあ、小鬼は事務官付補佐という立場なの?」

 これまで小鬼は事務官小野の指示のもと動いていたようなので、そうだろうと予想をしつつ聞いてみる。

「そうです〜。ですが、僕の場合は事務官補佐()()()と言うのが正しいです〜」
「事務官補佐見習い?」