「古森。よくぞ最後までやり終えた。本日分の研修終了をもって、そなたに課された研修は全て終了となる」
「はい」
「して、以前にも聞いたが、この度の研修で得た物、感じたことはあるか?」
「はい。先ほど母にも伝えましたが、自分の気持ちを相手に伝えることが如何に大切か、その瞬間を逃してしまうことが、どれほどの後悔を生むのかを、僕は知りました」

 僕は、事務官の細眼鏡の奥の瞳をしっかりと捉えて答えた。そんな僕を、事務官も瞬きもぜずに見返してくる。

「そなたは、悔いているのか?」
「……はい。できることなら、家族との関係を、周囲の人との関係を、修復したいと思っています。……ですが、死んでしまった僕には無理なことですから……」
「まあ、そうだな」

 事務官は、腕を組み何かを考えるように眉間に皺を寄せながら眼を瞑った。

 しばらくするとパチリと眼を開け、自分の足元に控える小鬼に、事務的に指示を出す。

「小鬼。本日分の認証印を古森に施しておくように。これから私は、急ぎ地獄へ行き、今回の研修結果を報告してくる」
「畏まりました〜。……あの、小野さま……」

 事務官に向かって頭を下げた後、珍しく小鬼は何か言い難そうに言葉尻を濁した。

 その様子から、何かを察したかのように事務官は小鬼に向かって軽く頷く。

「分かっている。例の件についても話してくる故、安心して待っておれ」

 事務官の言葉に、パッと笑顔を見せて小鬼は、もう一度頭を下げた。

「ありがとう〜ございます〜」
「良い。私もお前の案に納得しているのだから」

 そう言い、事務官は僕には内容の分からない話を終わらせると、僕へと向き直る。

「では、古森。しばし、此処で待っているように」

 事務官小野は、指をパチンと鳴らしターンをすると、パッと姿を消した。