そう言って、キッチンからティーカップとシュークリームが載ったお盆を持ってくると、母もいつもの席へと収まった。

 母の無言の圧力に肩を押されるようにして、僕も仕方なく腰を落ち着ける。

 僕の前には、シュー生地でたっぷりのクリームをサンドしたシュークリームと、母の好きなカモミールティーが置かれた。

「息子たちのために買ってきたものだけど、せっかくだから食べちゃいましょう」

 母は顔の前で手を合わせて、小さく「いただきます」と言うと、シュークリームを手に持ち大きな口を開けて豪快にかぶりついた。

 目の前にいるのは、確かに僕のよく知った母のはずだった。しかし、こんな風に豪快に物を食べる母を僕は知らない。

 よくよく考えてみると、母とシュークリームという構図を初めて目にしている気がする。

 僕の中では、シュークリームと結びつくのはやはり弟の保なのだ。

 ぼんやりと母の食べっぷりを見ていると、あっという間にシュークリームを平らげて、カモミールティーのカップへと手を伸ばす母と目が合った。

「あら? シュークリームはお嫌いだったかしら?」
「あ……、いえ……」
「だったら、遠慮せずに食べちゃって。一つだけ残っても困っちゃうの」
「えっ?」
「うちね、息子が二人いるのよ。だから、一つだと……ね?」
「……なるほど……あの、頂きます」

 母に軽く頭を下げてから、シュークリームへと手を伸ばした。そんな僕を母は満足そうに見ながらカモミールティーを啜る。

 久しぶりに口にしたシュークリームは、バニラビンズの風味がしっかりとしていた。濃厚な甘さが口いっぱいに広がり、ひととき、僕は幸福感に包まれているような気がした。

 四口ほどで幸福感を平らげてしまうと、カモミールティーを一口啜る。爽やかな香りが口の中をサッパリと洗い流していく。

 カモミールティーを飲み下し、ホゥと一息つく。それを見ていた母がクスリと笑った。

「とても美味しそうに食べるのね」
「……あの……ごちそうさまでした」
「お粗末さま。って、買ってきた物だけどね。うふふ」

 母は楽しそうに笑い、そして、カップを口へと近づける。

 母が僕と居て、楽しそうにしているところを初めて見た。いや、そもそも母と二人きりの時間なんてこれまでにあっただろうか。

 僕はもう少し母と話がしてみたくなった。

「あの……食べてしまってから言うのは、あれなんですが……」
「何かしら?」

 母はカップをソーサーに置くと、まじまじと僕の顔を見つめる。