「え〜っと、じゃあ、今までの転送準備って……」

 僕の不用意な発言に、小鬼は途端にしょぼくれる。

「僕は、まだまだ経験不足なのです〜。でも、今までのやり方が正規ルートなんですよ〜」

 唇を尖らせながらボソボソと言い訳がましく言葉を並べる小鬼は、やはりかわいい。こんな弟がいたら、溺愛していたかもしれない。

 少しいじけていそうな小鬼を微笑ましい気持ちで見ながら、僕は笑って話を流す。

「と言うことは、事務官さんが凄すぎるってことだね」
「そうなのです! 小野さまはすごいのです!」

 僕の言葉に、小鬼は一瞬で目をキラキラとさせる。

 表情がコロコロと変わって、本当に小鬼を見ていると飽きない。

 一頻り小鬼との会話を楽しんだ後、僕は少し離れた場所へと視線を移す。

 いつもは小鬼と二人だけの転送だが、今回は僕をここへ送り届けた張本人も一緒のようだ。

「今回は、事務官さんも一緒にいるんですか?」
「ああ。最後だからな」

 事務官小野は、ひどくつまらなさそうに肯定した。

「えっと、それで、僕はどうすれば?」

 いつもはいない事務官に見られていると、それだけで妙な緊張感がある。そんな僕の気持ちなど知る由もなく、事務官はいつも通り事務的だった。

「いつも通りで良い。私は少し離れた所から観察させてもらおう。それでは始めてくれ」

 僕は足元の小鬼に助けを求める。困った時の小鬼様様。

「自由にって言われてもなぁ。どうしようか、小鬼?」

 そんな僕の問いかけに、小鬼は僕を見上げながらウキウキを隠しきれない様子。胸の前で手を組んでモジモジとしながら、目をキョロキョロとさせている。

「あ、あのですね〜」
「うん。何?」
「もしよろしければ、あちらへ行ってみませんか?」

 小鬼の小さな手は、土手の下を指し示している。

「川? 別にいいけど……」

 僕の答えを聞くや否や、小鬼は川辺目掛けて飛び跳ねるように土手を降り始めた。

 チラリと事務官を見るが、腕を組み、まるで待機モードを体現しているかのように微動だにしない。

 多分、ここから動かないのだろうと判断して、僕はのんびりと小鬼の後に続いて土手を降りた。

 川岸は、丸みのある小石がたくさんあり少し歩きにくい。ジャリジャリザリザリと小石同士が擦れる音を聞きながら、水面に手が届く場所まで来ると、小鬼はしゃがみ込んで嬉しそうに水面をパシャパシャと叩き出した。

「楽しそだな。川、好きなの?」

 あまりにも小鬼が楽しそうにしているので、思わず聞いてしまう。