「……古森さん?」
話しかけづらそうに事務官の足元に少し隠れるように身を潜めオロオロとしている小鬼と視線を合わせるため、僕は床に膝をつく。
「小鬼、さっきはごめん。というか、毎回八つ当たりしてごめん」
僕は膝をついたまま、小鬼に向かって頭を下げた。
すると小鬼は、事務官の陰からパッと飛び出してきて、テテテと僕に駆け寄る。そして、僕の手を取るといつもよりも少し控えめな笑顔と声量で、僕に笑い掛けてくる。
「古森さん〜。いつもの古森さんに戻られて良かったです〜。今日で最後ですからね〜。がんばりましょうね〜」
小鬼を間近で見れば、少し涙ぐんでいる。
なんとも大袈裟なやつだ。
親身になってくれている小鬼の気持ちが嬉しくて、僕も思わず涙ぐむ。
「古森さん〜。何故、泣いているんですか〜? どこか痛いんですか〜?」
パチクリとした目を潤ませながら、見当違いな質問をしてくる小鬼に、僕は下手くそな笑顔で応える。
「そう言う小鬼だって、何で泣いてるんだよ?」
僕たちは互いに全力の笑みを交わした。
いつの間にか僕たちの間に生まれていた絆みたいなものを、無言で確認し合っていると、咳払いが一つ僕たちの間に放たれた。
「そろそろ良いか? 本日は最終日のため、一刻も早く研修を終わらせたい」
声のした方へ視線を向けると、事務官が眼鏡のフレームの真ん中を細長い指で押し上げて、眼鏡の位置を直していた。
「ああ。はい。大丈夫です」
僕は立ち上がると、事務官に向かってしっかりと答えた。
事務官小野は、僕の中の決意を確認するかのように鋭い視線で僕を見据える。しばらくして、一つ小さく頷いた。
「では、始める」
そう言うと、事務官は両手を軽く上げ、それぞれ左右の指を1度ずつパチンパチンと鳴らした。
彼の行動に、僕は目を瞬かせる。何度目かの瞬きの後、僕は、キョロキョロと周囲を見廻すことになった。
いつの間にか僕は、川幅が広く、ゆったりとした流れの川を見下ろすように土手の上に立っていたのだ。
「えっと……ここは?」
誰に聞くともなしに、疑問が口を突いて出る。
そんな僕の声を、僕の足元にいる小鬼がいつものように丁寧に拾い上げる。
「体感ルーム内です〜」
「えっ?」
思わず小鬼を見下ろす。
「何で? まだ転送準備してないのに?」
僕の驚き顔に、小鬼は、さも自分の手柄のように胸を張って答える。
「もちろん、小野さまのお力です〜。小野さまはすごいお方なので、瞬時に移動出来てしまうのですよ〜」
話しかけづらそうに事務官の足元に少し隠れるように身を潜めオロオロとしている小鬼と視線を合わせるため、僕は床に膝をつく。
「小鬼、さっきはごめん。というか、毎回八つ当たりしてごめん」
僕は膝をついたまま、小鬼に向かって頭を下げた。
すると小鬼は、事務官の陰からパッと飛び出してきて、テテテと僕に駆け寄る。そして、僕の手を取るといつもよりも少し控えめな笑顔と声量で、僕に笑い掛けてくる。
「古森さん〜。いつもの古森さんに戻られて良かったです〜。今日で最後ですからね〜。がんばりましょうね〜」
小鬼を間近で見れば、少し涙ぐんでいる。
なんとも大袈裟なやつだ。
親身になってくれている小鬼の気持ちが嬉しくて、僕も思わず涙ぐむ。
「古森さん〜。何故、泣いているんですか〜? どこか痛いんですか〜?」
パチクリとした目を潤ませながら、見当違いな質問をしてくる小鬼に、僕は下手くそな笑顔で応える。
「そう言う小鬼だって、何で泣いてるんだよ?」
僕たちは互いに全力の笑みを交わした。
いつの間にか僕たちの間に生まれていた絆みたいなものを、無言で確認し合っていると、咳払いが一つ僕たちの間に放たれた。
「そろそろ良いか? 本日は最終日のため、一刻も早く研修を終わらせたい」
声のした方へ視線を向けると、事務官が眼鏡のフレームの真ん中を細長い指で押し上げて、眼鏡の位置を直していた。
「ああ。はい。大丈夫です」
僕は立ち上がると、事務官に向かってしっかりと答えた。
事務官小野は、僕の中の決意を確認するかのように鋭い視線で僕を見据える。しばらくして、一つ小さく頷いた。
「では、始める」
そう言うと、事務官は両手を軽く上げ、それぞれ左右の指を1度ずつパチンパチンと鳴らした。
彼の行動に、僕は目を瞬かせる。何度目かの瞬きの後、僕は、キョロキョロと周囲を見廻すことになった。
いつの間にか僕は、川幅が広く、ゆったりとした流れの川を見下ろすように土手の上に立っていたのだ。
「えっと……ここは?」
誰に聞くともなしに、疑問が口を突いて出る。
そんな僕の声を、僕の足元にいる小鬼がいつものように丁寧に拾い上げる。
「体感ルーム内です〜」
「えっ?」
思わず小鬼を見下ろす。
「何で? まだ転送準備してないのに?」
僕の驚き顔に、小鬼は、さも自分の手柄のように胸を張って答える。
「もちろん、小野さまのお力です〜。小野さまはすごいお方なので、瞬時に移動出来てしまうのですよ〜」