つまり、今現在の僕は肉体は活動を停止したけれど、魂はまだ肉体に繋がっている状態。この状態でいられるのは現世でいうところの「荼毘(だび)に付される」まで。死んでから大体二、三日の間だけらしい。その間に死者は、あの長い白い一本道を歩き、黄泉の国の入り口である六つの門へ辿り着かなければいけない。

 あんず色の世界を見渡した限りでは、門らしき物は視認できなかった。白い道は果てしなく続いているように感じたのだが、どうやらそれは、まだ魂が現世での空間認識であったり、時間感覚に縛られているかららしい。しばらくすれば、魂が自然とこの世界に馴染むようだ。

 死者は皆、魂をゆっくりと、若しくは素早く、黄泉の国の感覚へと慣らしながら門へと向かう。そして門に辿り着いた魂は、あんず色の世界を管理する冥界区役所という管理機関の職員が指示する門を潜ることになる。

 魂の行き先が六つの門のいずれになるかは、現世での行いで既に決まっており、それらに関する個人情報は全て冥界区役所にてデータ管理されているらしい。冥界区役所の職員たちは、そのデータを各々が所持する端末から確認することが許されている。小鬼の持っていたタブレットらしき端末がそれだという。

 余談を繰り返しながら、やっとのことでここまでの話を聞いた僕は、至極当然の疑問を口にした。もちろん良い結果を期待して。

「それで、僕は何処行きの門を潜るのかな?」
「あ、はい〜。古森さんは、地獄行きです〜」

 端末の情報を確認するまでもないという感じで、容赦ない回答を小鬼は突きつけてくる。そんな彼を怨みがましく見つめながら、僕は落胆の色を滲ませた声で小鬼を問い詰めた。

「僕の何がいけなかったのかな? 僕、地獄に落とされなきゃいけないような悪いこと、何かした? 極力、人との付き合いを避けていたこの僕が何か悪さをしたって言うなら、教えてくれよ!!」

 僕の恨み節をキョトンとした顔で聞いていた小鬼は、僕が口を(つぐ)むと勢いよく笑い出した。そして、なんとも恐ろしいことを満面の笑みで言い放つ。

「ああ、違います。違います。人間はほとんどの人が地獄行きなんですよ〜」
「は??」

 またしても、僕の頭はフリーズしかけることになった。

「古森さんは、五戒(ごかい)という言葉をご存知ですか?」
「ご、誤解? 間違って理解している的な?」
「!! おお! それが既に誤解ですね〜」

 小鬼はなんとも楽しそうに、地獄行きの基準である五戒についての説明を始めた。