そこで、ふとあることが気になった。
 
「あのさ、ほとんどの人があの白い道を通って地獄へ行くんだろう?」
「そうですね〜。人は五戒を犯しますから〜」
「じゃあさ、元天使でも人間だったら地獄行きなの?」

 あんなに心優しい咲が地獄行きになるなんてありえない。僕はそう思った。

「天使さんの生まれ変わりであれば、五戒を犯さないことは可能だと思います〜」
「元天使は五戒を犯さないの?」
「そうですね〜。絶対とは言い切れませんが、元天使さんの場合は五戒違反はほとんどいないですね〜」

 僕は、ほっと胸を撫で下ろす。小鬼の話が本当ならば、咲は地獄行きにならないということだ。

 でも、仮に咲が元天使という話が本当ならば、なぜ人間などに生まれ変わったのだろうか?

「じゃあさ、天使はどうして人間になんて生まれ変わるの? 人間に生まれ変わるより、天使のままでいた方がいいような気がするけれど?」

 とても素朴な疑問を口にしてみた。しかし、それには小鬼も明確な答えを持ち合わせていないようだった。

「さぁ〜。僕も、天界のことについてはあまり詳しくは知らないのですよ〜。でも、天界における進級試験の一貫らしいということを以前聞いたことがあります〜」

 天界? 天使たちがいるところだろうか? そこで天使たちが試験を受けている。よく分からないけれど、進級試験と聞いて、僕は自分がイメージする背中に翼の生えた天使たちが各自机に向かって試験問題を解いているところや、実技試験を受けているところを思い浮かべた。

 全く知らないくせに勝手にイメージした天界という場所に、僕は顔を(しか)める。 ……天使も大変そうだ。

「人間になった天使は死んだ後どうなるの? 地獄行きの門は(くぐ)らないんだろ?」
「そうですね〜。ほとんどの元天使さんは、天国の門を潜られます〜」
「その先は?」
「さぁ〜。天国の門が天界へ繋がっていることは存じていますが、その先のことはちょっと分からないですね〜」

 小鬼は眉尻を下げて俯いた。

 死後の世界は僕には分からないことだらけだ。それでも、僕の想い人がとても素敵な人であったということだけは分かった。

 僕と咲はただの幼馴染という関係で、それ以上でもそれ以下でもない。そしてこれからもその距離が縮まることはない。けれどそれでも、咲のこれからに地獄が待ち受けていないということに僕は安堵した。

 その時、パタパタと軽やかな足音が近づいてきた。

「お兄さん、ちゃんと待っててくれたんですねぇ」