小鬼は事務官に向けて深々と下げていた頭を上げると、僕へ向き直る。

「では〜改めまして。古森さん〜。おはよう〜ございます〜」
「う、うん」
「もう〜。何ですか〜。元気がないですねぇ〜?」
「いや、あのね。僕的にはまだ朝じゃないというか……日付が変わったという感覚がないというか……」
「なるほど、なるほど〜」

 小鬼は腕を組み、うんうんと頷きながら僕の話を聞く。

「まぁ、体感時間のズレはねぇ〜。自我が薄れて、こちらの世に馴染むまではどうしようも無いですからね〜」
「あ、あのさぁ……」
「はい〜?」
「ありがとうプログラムはさ、僕の誕生日までに終了しないといけないんだよね?」

 僕は気になっていたことを小鬼に確認する。

「まぁ、そうですね〜。今回の研修は、成年時に達するまでに完了させなければなりません〜」

 やはりそうなのか。僕の聞き違いや思い違いではなく、誕生日までという期限があるのだ。

「僕の誕生日って明日なんだよ。……ええっと……、僕の感覚では、ってことなんだけど……」
「ああ〜。そうですね〜」

 小鬼は首から下げたタブレットらしき端末をチラリとチェックした。

「古森さんが死んだのは、お誕生日の前日ということになっていますね〜」
「……そうだよね。……ということは、僕の感覚ではあと十数時間、もしかしたら最悪、数時間しかないってことだと思うんだけど……」
「そうですね〜。ここと現世感覚では時の流れが全く異なりますから、なかなか、あとどのくらいでリミットですと、説明するのは難しいことなのですが〜」

 小鬼はもう一度端末を確認する。画面を少し操作して何やら情報を探すような素振りをしてから顔を上げた。

「あまり参考にはならないかもしれませんが〜」

 そう前置きをした小鬼の口からもたらされた情報に、僕は呆然とした。

「古森さんはこちらへ来てから、既に三日の時を過ごされています〜。その間に、現世でもそれなりに時は動いておりました〜。なので〜、現世では日付けが変わるまで、あと五時間程というところです〜」
「……えっ? えっ? あと五時間?」

 具体的な数字を提示されて、僕の頭の中は「五」という数字で埋め尽くされる。

 あと五時間……五時間……五時間……

「あ、でも〜、こちらとあちらでは時の流れが全く違いますから、あまり参考にはならないですよ〜」

 僕には小鬼の再度の念押しなど全く耳に入らない。

 もし『ありがとうプログラム』が期限内に終わらなかったら、僕は……