「ほ、本当ですか?」

 僕は大きく胸を撫で下ろす。

「但し、その場合は、即刻この研修は中止。そなたの最恐レベル行きが確定するが、それで良いのだな?」
「そ、そんなぁぁ」

 僕はなんとも情けない声を出す。しかし、そんなことには興味はないと言わんばかりに、事務官小野の冷徹な言葉は続く。

「認証印を得なければ、研修を終えたことにはならぬ」
「その認証印、なんとかならないんですか? チェックシートにするとか、スタンプカードにするとか……」

 僕は往生際悪く代替案を必死で口にする。だが、事務官小野からはとてつもない冷気が放たれるばかりだった。

「そなた、地獄がそんなに生優しい所だとでも思っておるのか?」
「……お、思っていません」
「最恐レベル行きを回避したいのであれば、さっさと地獄の認証印を受けよ」
「…………はい」

 事務官小野は有無を言わさぬ威圧で僕を説き伏せた。

 僕と事務官のやりとりを見届けていた小鬼は、事務官に向かって深々と頭を下げると、ベッドへ上り僕のそばへやってきた。

「では〜。古森さん、いきますよ〜」
「あ……あ……や、やっぱり待ってぇぇ」
「大丈夫です〜。ちょ〜っと、ジュッとするだけですから〜」

 小鬼はまるで注射を打つ看護師のように軽く言い放つ。

「その言い方、絶対痛いやつじゃん!」

 僕は涙目になりながらも、迫りくる焼鏝を凝視する。

「本当に大丈夫ですよ〜。今回は特別に最新鋭の焼鏝にしましたから〜。従来の物に比べたら全然痛みを感じません〜。一瞬です〜」
「ほ、ホントに?」
「本当です〜。では、いきますよ〜。はい、三、二、一〜」

 小鬼の掛け声に合わせて僕は目を固く瞑る。次の瞬間、僕の足元からはジュッと高熱で肉を焼く音がした。その音で僕は悲鳴をあげそうになった。

 しかし、想像していた痛みはいつまで経ってもやってこない。恐る恐る目を開け右膝を見ると、赤く焼け焦げた小さな傷が一つ出来ていた。

「い、痛くない……」
「だから、大丈夫だって言ったじゃないですか〜」

 そう言いながら小鬼はベッドから飛び降り、事務官の元へ掛けて行く。

「小野さま〜。完了しました〜」
「御苦労。では、一度役所へ戻るぞ」
「え? ちょっ……」

 戸惑っている僕には構わず、事務官小野は指を鳴らしターンをすると、サッと姿を消した。

「では、古森さん〜。本日は、お疲れ様でした〜。また明日〜」

 そう言うと、事務官に続くように小鬼もパチンと指を鳴らし、ターンをして姿を消してしまった。