「古森さん〜。ベッドに腰掛けてもらってもよろしいですか〜?」
「う、うん」

 僕は指示された通りベッドの縁に腰をかける。

「では〜、ズボンの裾をまくって貰えますか〜?」
「え?」
「右膝を出してください〜」

 僕は言われるがまま裾をまくる。右膝が露わになった。

 すると、小鬼は掛け声と共に手にした細い棒を僕の膝目掛けて繰り出した。

「では〜、いきますよ〜」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!!」

 (すんで)のところで僕は下ろしていた足をベッドの上へヒョイとあげる。

「もう〜。なんですか〜?」
「いやいや。そっちこそ何なの? その手に持ってる物は何?」

 作業を中断させられた小鬼は不満げに僕を睨む。しかし、僕はそれどころではない。突然のことに動揺しまくりながらも小鬼を問い詰める。そんな僕に、小鬼はさも当然だと言わんばかりの口調で手にした物の名前を口にした。

「これですか〜? これは焼鏝(やきごて)です〜」
「や、焼鏝!? そんな物で一体何をするつもりっ?」

 僕は瞬時にベッドの上を移動して小鬼から距離を取る。そして、悲鳴にも似た声で小鬼を責め立てた。それを小鬼は軽く受け流す。

「何って〜。それはもちろん、古森さんの本日分の研修終了の証を付けます〜」
「焼鏝で!?」
「はい〜」
「何でっ!!」
「ですから〜、本日分の……」

「そうじゃなくて、何で焼鏝なのっ? 終了の証なら、もっと他の方法があるでしょっ!!」

 もう僕は、殆ど叫びながら抗議していた。僕の必死の訴えを小鬼は困った顔で聞いている。

「ですが〜、地獄の認証印はこの焼印のみなのです〜。今回の研修は地獄主導で行われていますから、地獄の決まりに従うしかありません〜」

 そう言われて「はい、そうですか」と受け入れるには、焼印に対する恐怖が大きすぎる。

「無理無理無理ー」

 僕が目一杯首を左右に振り拒否の姿勢を示していると、全身を一瞬で凍らせるほど冷めた声が部屋に響いた。

「騒ぐな! それでも男か!」

 ビクッと体を固くして声がした方へ視線を向けると、事務官小野が眼鏡の奥の目をこれでもかというほどに細めてこちらを見ていた。

 そんな事務官を小鬼は全く恐れず軽く諫める。

「も〜。小野さま〜。だから、それはコンプライアンス的にアウトなんですってば〜」
「むっ? 気をつけよう」

 事務官は片眉を上げつつ小鬼の諫言を素直に聞き入れる。そして、軽く咳払いを一つすると話をもとに戻した。

「古森。そんなに焼印が嫌だと言うのならば、証をつけることは辞めとする」