小鬼は首から下げている例のタブレットらしき端末を持ち上げると、何かを確認するかのように画面に見入る。そして、端末の画面を操作し始めた。

 しかし、小鬼の話がよくわからない僕は、そんな小鬼に質問を投げる。

「どういうこと?」

 操作が終わったのか、小鬼は画面から離した目を僕に向け説明を続けた。

「ここは、古森さんの記憶をもとに生活圏がコピーされています~。ですから、スタート地点も古森さんの記憶、そして、意識をもとに作られたにすぎません~」
「つまり?」
「転送時、古森さんはベッドに横になっていましたから、そのために、もしかしたらご自分のお部屋のベッドを連想したのではないでしょうか~?」

 どういうことだ? この世界と僕の意識は繋がっているということだろうか。やはり、この世界のことについてはよくわからない。

「ベッドに横になったのは、小鬼がそう言ったからじゃないか」
「転送されるときは、リラックス状態でないといけませんからね~」

 小鬼は、当たり前のことを言わせないでくれとばかりに簡単に答える。しかし、僕には当たり前ではないのだ。小鬼の存在やこの不思議な世界に比較的馴染んではいるけれど、やはり僕の理解を越える場所に、僕はいるのだと思わずにいられない。

「リラックスしなくちゃいけないなら、今度はどうやって転送されるの? 地面に横になればいい?」
「そうですね~。別にそれでも構いませんが、衛生面を考えると僕はあまりお奨めしませんね~。それに、リラックスしていれば横になる必要はありませんし~」

 明らかに呆れ顔の小鬼は僕を見上げてしばらく黙っていたが、やがてポンと手を打った。

「いい案が浮かびましたよ~」
「なに?」
「その手の中の物を使いましょ~」

 手の中には先ほど弟からもらったりんごのキャンディがある。僕は握っていた手を開いた。

「え? コレ?」
「はい〜! それを食べてください〜」
「今? いいけど、なんで?」
「糖分補給は即効性のリラックス効果がありますから〜」

 小鬼に促されるまま、僕はキャンディをカランと口の中へ放り込む。りんごの爽やかな香りが口の中にじんわりと広がった。懐かしい味だ。

「どうですか〜?」
「リラックス……しているかはわからないけれど、気持ち的にホッコリする」
「あの坊っちゃんは、ナイスなアイテムをくれましたね〜」

 足元で小鬼が満足げに頷いている。僕は口の中でキャンディを転がしながら、もう一度コンビニの中へ視線を向けた。