それが僕の真意なのだろう。

 そんなことを他人事のように考えていると、小鬼に右膝をペチペチと叩かれた。

「古森さ〜ん。シャッキリしてください〜。研修はもう始まっているんですよ〜」
「研修? ああ、ありがとうプログラムね」
「そうです〜」
「ここは僕の部屋だけど、ここでやるの?」

 見慣れた部屋をもう一度見廻す。やはり僕の部屋だ。特別変わったところはない。ここでどんなことをするのだろうか。僕は軽く首を捻る。

 小鬼は腰掛けていたベッドからピョンと飛び降りると、ドアへ向かって歩き出した。

「ここはスタート地点に過ぎません〜。これから外へ行きましょう〜」
「外? 出かけるの?」
「そうです〜。さぁ、行きましょう〜」

 小鬼に促され自宅を出た。出掛けに家の中をそれとなく見たが、やはり、部屋も廊下も玄関も僕の家そのものだった。一体どういうことなのだろうか。

 玄関を出ると、早速小鬼に疑問を投げかける。

「ねぇ。この状況はどういうことなの? ここは僕の家だと思うのだけど……」
「ここは、冥界区役所が管理する体感ルーム内です〜」
「僕の家じゃないの?」
「違います〜。この体感ルームは、使用者に合わせて室内の作りが変化します」
「室内が変化?」

 小鬼の説明によると、どうやら僕は今、バーチャル空間のような場所にいるらしい。家も街も全てが仮想世界に作り出されたものなのだという。

 そう言われても、僕の周りの全てが死ぬ直前までと変わらない様に思えるので、どうにも現実世界にいるようにしか感じられない。

 非現実的なことといえば、小鬼が僕の目の前にいるということくらいだろう。しかし、そのことは僕が現実世界に戻っていない証でもあった。

「つまり、ここは僕が生活していた世界に似せて作られた場所ってことでいいのかな?」
「そうですね〜。そんな感じでいいと思います〜。それよりも早く行きましょう〜」

 小鬼は僕の前に立って歩き始めた。

 僕は小鬼を追いかけ彼の隣に並んだ。小鬼に遅れることなく僕は歩く。そして、小さな違和感を覚えた。

「小鬼、歩くの遅くない?」
「そうですか〜?」
「う〜ん、遅いというか……僕の歩く速度に合わせてくれているのかな? ほら、僕を迎えにきた時は、ものすごく歩くの早かったから」
「あぁ〜。あの時は失礼しました〜。体感時間が違うのに僕が配慮できなかったばかりに、古森さんにはご迷惑をおかけしました〜」
「いや、迷惑とかではないけれど……。まぁ、びっくりはしたかな」