「そう……なの?」
「はい〜。古森さんも、目を閉じてみてください〜」

 もうどうにでもなれという気持ちで目を閉じてみる。すると、視界が遮断されたことで額に置かれている小さな手に意識が集中した。おかげで少し気持ちが鎮まった。

「落ち着いた……と思う」
「良かったです〜。では、そのままの状態でお願いしますね〜」

 目を閉じていると、ふとあることが気になった。僕は目を閉じたまま小鬼に声をかける。

「ねぇ、小鬼」
「はい〜」
「事務官さんが言っていた、時間がないって言うのは、どう言うことなの?」
「ああ〜。あれはですね。成年時に達するまでに今回の研修は完了させなければならないのです〜」
「成年?」
「古森さんが、お誕生日を迎えるまでのことです〜」

 そうなのかと、どこか他人事のように聞き流しそうになった瞬間、僕は目を見開いた。

「誕生日って、明日じゃないかっ!」
「古森さん〜。落ち着いてください〜。あ、ほら〜。転送始まりましたからね〜」

 小鬼の間延びした声が僕の耳からだんだんと遠ざかり、視界がグニャリと歪む。

 歪んだ空間は、まるで何かで掻き混ぜられているかのように渦を巻き始め、それは瞬く間に部屋であったはずの空間の全てに広がった。

 僕は、一瞬にして横たわるベッドごとグニャグニャになった。