「そうなの?」
「はい〜。では、研修の説明をさせて頂きますね〜。こちらをご覧ください〜」

 小鬼は本当に良かったと言わんばかりに満面の笑みで肯きながら、例の端末の画面を僕に指し示した。

 そこには『ありがとう体感プログラム 概要説明』という文字が並んでいる。端末画面をスライドさせながら、小鬼は研修の概要説明を始めた。

 研修の内容はものすごく大まかに言えば、「五日間、日常生活において感謝の気持ちが生まれる場面を体感する」ということのようだが、説明を聞いただけではどういう形で研修なるものが行われるのかさっぱり分からない。

「以上が概要説明になります〜」
「あ、あの〜、ちょっとイマイチ……」
「あら〜、分からなかったですか〜?」

 僕の情けない声に、小鬼は困り顔でベッドの向かいに座る事務官へと視線を投げる。僕と小鬼のやり取りを見ていた事務官は、ハァとあからさまな溜息をついた。

「説明はした。内容は始めれば次第に理解するであろう」

 なんとも無慈悲な物言いで事務官は話を終わらせると、膝をパンと打ちながら椅子から立ち上がった。

「私は一度役所へ戻る。時間がない。小鬼、急ぎ始めよ」
「はい〜。承りました〜」

 小鬼に向けて指示を出すと、事務官はパチンと指を鳴らしながらその場でクルッとターンを一回し、姿を消した。

 小鬼は、事務官の消えた空間に向かってベッドの上で深々と一礼をしてから、僕に向き直った。

「では〜、始めましょうか〜」
「う、うん。でも、何をどうすれば……」
「大丈夫です〜。何も心配は要りません〜。先ずは、リラックスですよ〜。ベッドに寝てください〜」

 枕をポフポフと叩きながら間の抜けた指示をする小鬼に従い、ベッドに仰向けに寝る。しかし、不安で落ち着かない。僕は、仰向けになったまま忙しなく視線を彷徨わせる。

「こ、この後はどうすれば?」
「体感ルームへは、自動的に移動できます〜。でも、まずはリラックスですよ〜」
「そ、そうは言っても、これから何が起こるのか分からないのに、リラックスなんてできないよ!」

 大人しくベッドに横になりながらも不安いっぱいの僕は、小鬼に必死で訴える。そんな僕を困り顔で見ていた小鬼は、暫くするとパッと顔を綻ばせた。

「では〜、こうしましょう〜」

 小鬼は、僕の額に彼の小さな手をピトッと当てる。

「これで少しは安心できますよ〜。コレ、僕が眠れない時に母上がしてくれるのです〜。こうされると、安心して眠れるのですよ〜」