そのため前例がなく、救済措置について地獄の裁判で大議論へと発展したのだという。

 ゼロという数字は、即ち、人の心を持ち合わせておらず、人として極悪極まるということで救済措置なし。最恐レベルの試練を無期限で受けるべきという意見が出ているらしい。

 しかし、僕の場合は前例がないとはいえ、それ以外は普通の死者と同レベルの五戒違反しか犯していないのだから、一も二もなく最恐レベルへ送るということに異論を唱える役人もいるようだ。

「そこで、そなたには研修を受けてもらうことにした」

 小鬼の説明を引き取った事務官が、役人らしい事務的な口調で後を続ける。

「け、研修って……さっき言っていた、ありがとう……プログラム?」
「そう。『ありがとう体感プログラム』だ」

 どんな研修か知らないけれど、そのネーミングセンスは如何なものか?

 そんなどうでもいい事を頭の片隅で考えながら、僕は別の疑問を口にした。

「それを受けると、どうなりますか?」
「現時点では、そなたの人となりを見ることが目的だ。結果次第では、他の者同様に救済措置が与えられることになるやもしれん」
「結果がものすごく良ければ、地獄行きが取り消されたりなんてことは……?」
「五戒を犯している以上、今のところそのような措置は考えられていない」
「じゃあ、研修を受けなければ?」
「即、最恐レベル行きが決定する」

 どっちにしても、地獄行きは変わらないらしい。

「研修、受けるべきですよね?」
「まぁ、そうすべきだろうな」
「それ以外に、現状を良くする術はないんですよね」
「私の知る限りでは、ないな」
「やらなければ、最悪なことになるんですよね?」
「最悪かどうかは本人次第だが、少なくとも私が当事者であるならば、全力で回避するであろうな」

 つまり、選べる選択肢は一択のみ。ここは諦めるしかなさそうだ。僕は、大きく息を吸い、少し溜めてから一気に息を吐き出す。それで、気持ちは固まった。

「わかりました。それで、その研修というのは、何をすれば良いのですか?」

 事務官が話している間は、彼の足元で大人しく控えていた小鬼が、僕のいるベッドへ駆け寄ってきた。僕には腰を下ろすのにちょうど良い高さのベッドだが、背の低い彼には、結構な高さなのだろう。「ヨっ」と声を出しながら、ジャンプをしてベッドへ飛び乗ってきた。

「古森さん〜、ご決断が早くて良かったです〜。こんな機会滅多にありませんから〜。本当に特別措置なんですよ〜」