極度の人見知りで、人とまともに会話も出来ない僕は、極力、人との接触を避けてきた。もちろん、友人と呼べる人は一人もいない。両親はそんな僕よりも弟を可愛がっていて、僕は家の中でも外でも空気のような存在だった。僕は常に一人だった。

 誰もが僕を見ない。通りすがりの人の目に僕は映っていなかっただろう。

 そう考えると、人と接触をしていないのだから、小鬼の言う通り「ありがとう」と言ったことも無ければ、言われたことも無かったのかもしれない。

 だが、そんな生活で僕は良かった。誰かと関わる事の方が僕には苦しくて大変だったから。

 そう思うと、不慮の事故とはいえ苦痛を感じずにコチラの世界へ来れたのは、ラッキーだったのではないだろうか。

 僕はこちらの世界へ来てから、それまでよりもかなり饒舌になっている。

 目の前にいる冥界区役所事務官とやらは、威圧を多少感じるので距離感を保ってはいるが、それなりに会話は出来ていると思う。それに彼の足下にいる小鬼との会話は、不思議と苦痛ではない。僕にはこの世界が合っているのではないだろうか。

 そんな事を考えながら、小鬼をぼんやりと見やると目が合った。

「古森さ〜ん。小野さまのお話をきちんと聞いてください〜」
「あぁ、はい。すみません」
「良い。そなたもこちらの世へ突然来てしまい、思うところもあるだろう」
「はぁ。まぁ」

 僕は曖昧な返事をしつつも、話を聞く姿勢がある事を示すべく、ベッドの上で居住まいを正す。

「では、続ける。人というものは、関わり合いながら生きているのが常であり、その中で感謝が生まれることは自然なことだ」
「はぁ」
「しかしそなたは、その経験を経ずにこちらの世へ来てしまった。この件は、大変由々しき事態であると冥界区役所では憂慮しているところだ」
「ま、マズいってことですか?」
「ふむ。まぁ、そうだな」
「ぐ、具体的には、何が……?」
「小鬼、説明を」
「はい〜」

 事務官に指名された小鬼は、一歩前に出ると例の端末を目の高さに上げ、スラスラと説明を始めた。

 小鬼の説明を要約すると、どうやら僕は人がそれなりに歩む人生を逸脱したまま死んだらしい。そのために、地獄の裁判に混乱を来しているのだとか。

 人は善人にしろ悪人にしろ、何かしら他人に感謝をされ、また感謝をしながら生きている。その頻度によって、どうやら、地獄へ行った後の救済措置が変わるようだ。

 しかし僕の場合は、極めて稀なゼロ回という数字を叩き出した。