あんず色の淡い光を放つフットライトに照らされて白く真っ直ぐに延びる道を、ゾロゾロと列を作って歩く人たち。その顔は、誰も彼もが無表情だ。その人波の中に僕もいる。周りの人たちと同じように歩いていると、前方から大きな声がした。それはまるで病院の待合室で流れる患者の呼出アナウンスのようだった。

「古森さーん。古森衛(こもりまもる)さ〜ん」

 古森衛とは、僕のことだ。どこから呼ばれているのだろうと目を凝らして声のする方を見ていると、僕の名前が書かれたプラカードのようなものが、人波の中をピョコピョコと上下に揺れている。見える範囲にあるプラカードは、僕の名前以外にはない。とてつもなく怪しい。そう思ってしばらく様子を伺っていると、先程僕の名前を大声で呼んでいた声が、再び聞こえて来た。

「古森さーん。いらっしゃいませんか〜」 

 僕が無言で様子を伺っている間にも、プラカードは人波を逆流しながら次第に近づいてくる。それとともに僕を呼ぶ大きな声もさらに大きくなる。

「おーい。古森さ〜ん」
「……」
「おっかしいなぁ? そろそろ来る頃なんだけどなぁ?」

 プラカードと僕の距離はさらに近づき、マイクを通しているのかと思うほど独り言もはっきりと聞こえる。しかし、声の主は一向に見当たらない。ますます怪しく思い、このまま無視を決め込んで通り過ぎてしまおうかと思った直後、プラカードが一気に距離を詰めて来て、僕は行く手を塞がれた。

「いたいた! 古森さん。もぉ〜、探しましたよ〜」
「……ええっと……?」
「古森さん。下です。下」

 声に促されて下を向くと、僕の膝辺りまでしか背丈のない男の子が、彼の背丈の2倍はありそうなプラカードを片手だけで軽々と掲げていた。しかも、首から下げたタブレットらしき端末を空いている方の手で器用に操作している。

「うん。よし。古森さんに間違いなし!!」

 小さな男の子は、端末と僕の顔を何度も見比べ、何を納得したのかは分からないけれど、やがて端末から目と手を離すと、今度は僕の手を取り引っ張った。

「ここで立ち止まっていると、皆さんのお邪魔になりますから、とりあえずこちらへ」

 人波から抜け出した僕は、改めて辺りを見廻した。しかし何も無かった。大袈裟に言っているのではなく、本当に何もない。あんず色をしたこの場所は、ただ白い一本道が遠くまで続いていて、そこを人が列を成して歩いているだけだった。その光景を無心で見ていると、ペチペチと右膝を叩かれた。