「そんなこともあろうかと〜」
数分経ち翔が言った。それと同時に自分の持ってきた荷物を漁っている。出すまでにそんなに時間はかからなかった。
「冴ちゃん専用の弁当箱〜!」
私専用?と思ったが中身を見て理解した。中を見ると私がよく食べるものばかりが入っている。
「ハンバーグ、ミートボール、うずらの卵、ブロッコリーとあとトマト!」
「野菜は少なめだからね〜」
顔がにやついている。私のことは全てわかっていると言っているようだ。前は自分でテイクアウトをしたり自分で作ったり食べにいったりしていたから野菜はどっちかというと嫌いだ。あんなの人が食べるものじゃない。いい匂いもしないし、食感も草なので大嫌いだ。
「それ私がお昼ご飯を持ってきてたらどうするつもりだったの?」
私がいつも忘れているとは限らない。今日はたまたま忘れただけなのだ。
「僕が冴ちゃんの分まで食べればいいだけでしょ?」
得意げに言っているが私の分と翔の分の弁当を合わせると相当な量になる。それともそれが男が食べる平均の量なのだろうか。
「そんなことよりトイレ行ってくる」
尿意がさっきからあった。一刻も早くトイレに行きたい。
「わかった 行ってらっしゃーい戻ってきたらこれちゃんと食べてね!前の健康診断で体重少なすぎて引っかかったんだから!」
うるさい声に背中を向けて一番近い女子トイレに向かった。

女子トイレから出て給湯室が目に入った。そうだ飲み物を取ってこようと尿意の不快さが消えた体で給湯室へ向かった。
給湯室にある冷蔵庫を見ると飲み物が入っていた。お茶、天然水、コーヒー この中だったらと、お茶を手に取り冷蔵庫の扉を閉めた。
ふと台所を見てみると誰が使ったのかわからない包丁が置いてあった。
包丁、包丁、ほうちょう、ほうちょう。目の前が真っ暗になる。足に力が入らない。
『あんたがうまれたからあの人が死んだ!!』
ごめんないさいごめんなさいごめんなさい。顔、腕、足。至る所から汗が出てくる。目から涙が出てくる。あの時の母親の表情、天気、家のたばこが充満している臭い匂いが鼻や頭に蘇ってくる。いやだ。怖いこわいこわい。私が生まれたから。誰か助けてほしい。助けて助けて。誰か。
「冴ちゃん!!大丈夫だよここにはあの人はいないあの人は今病院にいるんだよだから大丈夫」
誰かに抱きしめられた。だれ?この声は翔か。なぜか落ち着く。汗が引いていく。だんだんと足に力が入っていく。
「ここ‥は?」
「ここは会社だよ大丈夫」
優しかった。そうか。今のはフラッシュバックか。久しぶりのフラッシュバックだ。薬は飲んでいるのに。
「トイレ行ってから帰って来ないから心配してたんだよ?」
私の涙を拭いながら言う。
「私は‥」
「うん?」
「私なんて生まれてこなければよかった」
フラッシュバックを感じてわかった。私が生まれなければお父さんは死なずに済んだのかもしれないし、あんな家族にならなかったのかもしれない。普通の家庭というものになれたのかもしれない。
「冴ちゃんそれは違うって前も言ったでしょ 冴ちゃんが生まれたこととお父さんが死んだっていうことは何も関係ないんだよ それに僕は冴ちゃんに出会えてこうやって一緒にお昼ご飯を食べたりすることが世界一の幸せなんだよ?」
私の背中をさすりながら言った。決して責めたり、貶したりすることは一度も翔の口から言の葉として出ることは今までで聞いたことはない。
「うん‥」
「戻ろ?」
笑顔で行ってきた。なぜだろう。今はその行動がうざくない。