飛香舎の外へ出てすぐ、


 「杏子様、お散歩の行き先は弘徽殿ですか?」


 呪いをしていた杏子と同じく笑っていない目を宿した卯紗子が聞いてきた。

 (顔はにっこり笑っているのに、目だけ笑っていないなんて器用だよね)


 「杏子様、現実逃避していないで言ってくださいな」


 現実逃避していたことはばれたみたいだ。


 「なんで分かるの?外用の微笑みの下でやっていたんだよ⁈」

 「杏子様は私の前では外用にしないですから。杏子様が私の前で深窓な姫君になっているのは感情的になっている時か別のところへ意識している時なので。それで、行先は?」


 呆れたような顔になって卯紗子は答えてくれた。

 幼い時からずっといる従者。

 良い意味でも悪い意味でも卯紗子には隠し事が通じない。


 「弘徽殿」

 「弘徽殿にいるのですか?」


 屋敷の外は誰が聞いているのか分からない。

 聞かれても良いように、誰なのか言わない卯紗子はやはり有能な女房だ。


 「絶対ではないし、憶測だけどね」

 「憶測だけでも十分ですよ。今まで杏子様の憶測は外したことないので!百発百中です!」

 「買い被りすぎだよ、卯紗」


 そう言っているが、杏子の頬は朱が入り嬉しく思っていた。


 「あ、ほら、弘徽殿が見えてきたよ」


 照れ隠しで話題を変えたのと同時に、杏子に緊張が走る。

 隣を歩いていた卯紗子も顔を引き締めて、いざ、弘徽殿の中へ足を踏み込んだ。