「はじめまして、飛香舎様!私、襲芳舎様に住んでいる芳子と申します~。こちらは私が育てている鬼灯です」
「とてもきれいですね。卯紗、こちらを飾っといてくれる?」
「かしこまりました」
数日経った飛香舎にて、襲芳舎の主、芳子との面会が始まった。
初対面の人に交換した状態では何かとぼろが出てしまうので、元に戻っていた。
「飛香舎様。お隣にいらっしゃる方は?」
「淑景舎の主ですよ」
「よ、よろしくお願います......」
「淑景舎様って女御の弘徽殿様をねじ伏せた方ですよね。とても美しく優雅だったと聞きました~!今、噂の的である、淑景舎様とお話できるなんて嬉しいです。私も更衣なので、身分の差を乗り越えた淑景舎様は尊敬してます」
「そのような噂が流れているのですか......」
あれはただのおしゃべりで、ねじ伏せてはいないのだが......。
誰も思ってはくれなかった。
こちらを見る視線が痛い。
「聞いたことございません?女房伝えできっと殿方も知っていると思いますよ。私もその現場を見てい見たかったです~。お姉さま方の素晴らしい活躍をこの目で見たかったです。ああ、すみません。お姉さまなどと呼んでしまって......」
「わたくしは構いませんよ。淑景舎様はどうかしら?」
良く知らない人物に自分ではなく、友人である雪子の真名を教える必要はない。
外用のおしとやかな姫君になっていた。
「わたくしも構いませんよ」
「わぁ~、ありがとうございます!お姉さま方は琴の名手なのですよね。あの、もし、良かったら、演奏していただきませんか?」
口元に手を添えて、目をうるうるさせている芳子に杏子と雪子は断ることができなかった。
「そういえば、一緒に弾いたことはありませんね」
「この機会に弾いてみましょう」
「やったー!ありがとうございます」
(小動物みたい)
手を上にあげる動作も感情がすぐに出ることも幼い。
だが、母性くすぐられる小さい体に庇護欲を注ぐ可愛らしい顔にはとても似合っていた。
「弾きたい曲とかありますか?」
「そうですね......。まだ先ですが五節の舞の曲はどうでしょうか?」
五節の舞とは一年の収穫を祝う宮中行事、新嘗祭に合わせて行われる舞踊。
神楽笛、和琴の他に海を渡って来た管楽器、弦楽器、打楽器が使われている。
今回は琴だけで行う。
楽器が少ない分、音の重なりは減ってしまうが琴の音だけを聞くことが出来る。
伸ばし音が多く、ゆったりとしている。
そこには厳かで雅な雰囲気が詰まっていた。
同じ曲を弾いているはずだが、音色は全く異なる。
しかし、杏子の華やかさと雪子の繊細さが混ざり合って筆舌し難い環境を生み出していた。
(もっと弾いていたい!雪子様ならこの音にどのような音を合わせるのだろう)
原曲にはない音を出すと、すぐに反応してきた。
すると、雪子の方からも音が飛んできた。
(そのような音をだすのね。なら、こんなのはどう?)
隣合わせに弾いているので、顔を合わせることもなく、声を交わすこともない。
だが、音で会話をしていた。
原曲に独創性を付け加えた結果、二人が弾き終わったのはそれなりに時が進んでいた。
「杏子様、楽しゅうございました」
「こちらもですよ。まさか、あそこであのような音を出すとは、驚きです」
演奏に大満足した二人は隠していた本名でお互いを言っていたことに気づいていなかった。
「お姉さま方のあまりにもの素晴らしさにこの世のものなのか疑ってしまいました。まさに、別に天地の人間に非ざる有り、です」
「それって......漢文ですよね?」
「芳子様は漢文の知識があるのですか!」
芳子が言った言葉の原文は、別 有 天 地 非 人 間。
ここは俗世間と隔絶した至福の場所である。
それほど、杏子と雪子の演奏が良かったのだろう。
杏子は興奮のあまり外用の演技を取っていつも通りになっていた。
「たしなむ程度ですけど、お姉さま方も漢文の知識があるのですね!後宮では漢文の知識を持っている方が少なかったので、嬉しいです」
「ひらがなだけではなく、漢字も学んでほしいですよね。学ぶことまで、男女を分けるのは良くないと思います」
「漢詩には美しい表現もありますからね。和歌の参考にもなります......」
「雪子お姉さまの通りです。私、漢文の美しさに惹かれて始めたのです」
「漢字でしか自然の雄大さは表せませんよね」
「ひらがなは感情表現に向いてますからね。自然の美は表現しにくいですよね」
(共感しかない)
漢文・漢字の良さについて話している三人は、初対面特有の緊張と不安は溶けて、熱く語り合う同志となっていた。
「とてもきれいですね。卯紗、こちらを飾っといてくれる?」
「かしこまりました」
数日経った飛香舎にて、襲芳舎の主、芳子との面会が始まった。
初対面の人に交換した状態では何かとぼろが出てしまうので、元に戻っていた。
「飛香舎様。お隣にいらっしゃる方は?」
「淑景舎の主ですよ」
「よ、よろしくお願います......」
「淑景舎様って女御の弘徽殿様をねじ伏せた方ですよね。とても美しく優雅だったと聞きました~!今、噂の的である、淑景舎様とお話できるなんて嬉しいです。私も更衣なので、身分の差を乗り越えた淑景舎様は尊敬してます」
「そのような噂が流れているのですか......」
あれはただのおしゃべりで、ねじ伏せてはいないのだが......。
誰も思ってはくれなかった。
こちらを見る視線が痛い。
「聞いたことございません?女房伝えできっと殿方も知っていると思いますよ。私もその現場を見てい見たかったです~。お姉さま方の素晴らしい活躍をこの目で見たかったです。ああ、すみません。お姉さまなどと呼んでしまって......」
「わたくしは構いませんよ。淑景舎様はどうかしら?」
良く知らない人物に自分ではなく、友人である雪子の真名を教える必要はない。
外用のおしとやかな姫君になっていた。
「わたくしも構いませんよ」
「わぁ~、ありがとうございます!お姉さま方は琴の名手なのですよね。あの、もし、良かったら、演奏していただきませんか?」
口元に手を添えて、目をうるうるさせている芳子に杏子と雪子は断ることができなかった。
「そういえば、一緒に弾いたことはありませんね」
「この機会に弾いてみましょう」
「やったー!ありがとうございます」
(小動物みたい)
手を上にあげる動作も感情がすぐに出ることも幼い。
だが、母性くすぐられる小さい体に庇護欲を注ぐ可愛らしい顔にはとても似合っていた。
「弾きたい曲とかありますか?」
「そうですね......。まだ先ですが五節の舞の曲はどうでしょうか?」
五節の舞とは一年の収穫を祝う宮中行事、新嘗祭に合わせて行われる舞踊。
神楽笛、和琴の他に海を渡って来た管楽器、弦楽器、打楽器が使われている。
今回は琴だけで行う。
楽器が少ない分、音の重なりは減ってしまうが琴の音だけを聞くことが出来る。
伸ばし音が多く、ゆったりとしている。
そこには厳かで雅な雰囲気が詰まっていた。
同じ曲を弾いているはずだが、音色は全く異なる。
しかし、杏子の華やかさと雪子の繊細さが混ざり合って筆舌し難い環境を生み出していた。
(もっと弾いていたい!雪子様ならこの音にどのような音を合わせるのだろう)
原曲にはない音を出すと、すぐに反応してきた。
すると、雪子の方からも音が飛んできた。
(そのような音をだすのね。なら、こんなのはどう?)
隣合わせに弾いているので、顔を合わせることもなく、声を交わすこともない。
だが、音で会話をしていた。
原曲に独創性を付け加えた結果、二人が弾き終わったのはそれなりに時が進んでいた。
「杏子様、楽しゅうございました」
「こちらもですよ。まさか、あそこであのような音を出すとは、驚きです」
演奏に大満足した二人は隠していた本名でお互いを言っていたことに気づいていなかった。
「お姉さま方のあまりにもの素晴らしさにこの世のものなのか疑ってしまいました。まさに、別に天地の人間に非ざる有り、です」
「それって......漢文ですよね?」
「芳子様は漢文の知識があるのですか!」
芳子が言った言葉の原文は、別 有 天 地 非 人 間。
ここは俗世間と隔絶した至福の場所である。
それほど、杏子と雪子の演奏が良かったのだろう。
杏子は興奮のあまり外用の演技を取っていつも通りになっていた。
「たしなむ程度ですけど、お姉さま方も漢文の知識があるのですね!後宮では漢文の知識を持っている方が少なかったので、嬉しいです」
「ひらがなだけではなく、漢字も学んでほしいですよね。学ぶことまで、男女を分けるのは良くないと思います」
「漢詩には美しい表現もありますからね。和歌の参考にもなります......」
「雪子お姉さまの通りです。私、漢文の美しさに惹かれて始めたのです」
「漢字でしか自然の雄大さは表せませんよね」
「ひらがなは感情表現に向いてますからね。自然の美は表現しにくいですよね」
(共感しかない)
漢文・漢字の良さについて話している三人は、初対面特有の緊張と不安は溶けて、熱く語り合う同志となっていた。