俺、湊は最近勤務中に抜け出す父上が怪しいと思っている。


 「父上、何しているのですか?昨日も勤務から抜けたでしょう?」

 「ちょっと用事があったからな。それよりも、後宮には行かなくていいのか?」

 「仕事があるんですよ。抜けた分の仕事がこちらへ回ってくるのですよ」


 一体誰のせいでこうなっているんだ。

 勤務中に抜けて滞った仕事は全て俺のところに来る。

 東宮として持っている仕事もあるのに、そこに追加されたせいで後宮に行く暇などないだが。

 ご存じだろうか?


 「それは、すまんな。今日は私が全て行おう。そなたは花々を愛でに行きなさい。これも大事なことだから」


 花は妃の隠喩。

 大事なこととは、子を成すことだろう。

 東宮としていずれ帝に立つ者として、後継ぎは絶対に必要。

 俺の代で潰すわけにはいかない。

 そして、子どもはいつ天に召されるのかは分からない。

 だから、何人でも欲しいところ。

 でも、これは公的な感情。

 東宮としての感情。

 本当は、俺にとっての花は一つしかない。

 そして、この美しい花しか俺は愛でることができない。


 「そうですね。では行って参ります」

 「行ってらっしゃい。......見抜けなければ、逃げてしまうぞ」


 帝の言葉は部屋から出て行った俺には聞こえていなかった。