私は太陽になれない。すべての人を照らせるほど、私のひかりは強くないから。
私は月にもなれない。太陽から照らしてもらえるほど、私はできた存在じゃないから。
そんな私になれるのは――。
★
「初めましてー! 夜野心星といいます! 心に星と書いて"このね"と読みます!」
日曜日の昼下がり。
人がたくさん往来する交差点に向かって声を張り上げる。声量に負けたのか、マイクが少し揺れた。手に持っているのは、バイトして貯めたお金で買った空色のギター。まだまだ不慣れで笑ってしまうほどだけれど、お守りとして持ってきた。
ステラが消えてから2年が経ち、私は大学1年生になった。
親の望む大学に合格した特典として一人暮らしが始まり、勉強の傍らバイトをし、残りの時間はすべて音に捧げる日々を送っている。
本気でシンガーソングライターになりたいのなら親の反対を押し切って音楽大学に進学するべきだという意見もわかる。けれど、もしそうしていれば一人暮らしはできるだろうが学費は全額負担することになり、とてもじゃないがまともに音を紡ぐ時間をとれなかっただろう。そんなの本末転倒もいいところだ。
私は流れ星のように短命な存在ではなく、永遠を思わせるほど絶対的な星のような存在になりたい。
だから利用できるものならなんでも利用する。少しでも長く音といるために。
こうして万全の準備を整えて迎えた今日。
新たな一歩として、路上ライブを決行した。
わかりやすく立ち止まる人はいない。興味本位でちらほらと視線を送ってくるくらいだ。それでいい。興味を引けているだけでも上々。
こんなふうに人前に出ることは初めてで、今にも心臓が飛び出しそうだった。足りない酸素を補うように大きく息を吸い、再びマイクに向かって声を張り上げる。
「もしかしたら知っている人もいるかもしれませんが、以前ステラという名前で活動していました!」
このことを公表するか、すごく悩んだ。
過去のことを蒸し返され、批判されるかもしれないから。
でも私とずっと音を紡いでくれたのは他ならぬステラだから。一緒に連れて行きたいと思った。
あのあとスピカがどうなったのかは知らない。興味ない。もしかしたら梨々花と美波は知っているのかもしれないが、口にすることはなかった。それでいい。
今の私には、愚図に構ってる暇なんてない。
勝手に生きて勝手に死ね。
私はもう、SNSにはいないから。
「これからは夜野心星として活動していくので、よろしくお願いします!」
頭を下げても以前のように髪が首を撫でることはなかった。耳元と同じくらいの長さに切ったからだ。これも心機一転するために行ったこと。代わりに首元で小さな星型のネックレスが太陽に反射する。
まばらな拍手を聞き顔を上げたとき、道路の向こう側に、月城がいるのが見えた。
こちらを見ているはずなのに近づいてくる気配はなく、ただじっとそこに立っている。
今の私たちの距離はそれくらいがちょうどいい。
まだお互い傷は癒えていないだろうから。
ステラはもういない。
あるのはただ、私の身ひとつ。
私はほかの人に嫉妬するし泣くし落ち込むし恋だってする。未だに月城のことも好き。
こんな私では、ステラとは比べものにもならないだろう。
でも、もしさ。
「ステラ」じゃなくて「夜野心星」もいいって思えたら、また、声かけてきてよ。
私はずっと、音を紡いでるから。
「それでは聴いてください」
私は太陽になれない。すべての人を照らせるほど、私のひかりは強くないから。
私は月にもなれない。太陽から照らしてもらえるほど、私はできた存在じゃないから。
それでも、ぶつかって散ったきらめきを集めることはできる。
マイクに、掬いあげた音たちを乗せる。
「――『星屑の唄』」
〈了〉
私は月にもなれない。太陽から照らしてもらえるほど、私はできた存在じゃないから。
そんな私になれるのは――。
★
「初めましてー! 夜野心星といいます! 心に星と書いて"このね"と読みます!」
日曜日の昼下がり。
人がたくさん往来する交差点に向かって声を張り上げる。声量に負けたのか、マイクが少し揺れた。手に持っているのは、バイトして貯めたお金で買った空色のギター。まだまだ不慣れで笑ってしまうほどだけれど、お守りとして持ってきた。
ステラが消えてから2年が経ち、私は大学1年生になった。
親の望む大学に合格した特典として一人暮らしが始まり、勉強の傍らバイトをし、残りの時間はすべて音に捧げる日々を送っている。
本気でシンガーソングライターになりたいのなら親の反対を押し切って音楽大学に進学するべきだという意見もわかる。けれど、もしそうしていれば一人暮らしはできるだろうが学費は全額負担することになり、とてもじゃないがまともに音を紡ぐ時間をとれなかっただろう。そんなの本末転倒もいいところだ。
私は流れ星のように短命な存在ではなく、永遠を思わせるほど絶対的な星のような存在になりたい。
だから利用できるものならなんでも利用する。少しでも長く音といるために。
こうして万全の準備を整えて迎えた今日。
新たな一歩として、路上ライブを決行した。
わかりやすく立ち止まる人はいない。興味本位でちらほらと視線を送ってくるくらいだ。それでいい。興味を引けているだけでも上々。
こんなふうに人前に出ることは初めてで、今にも心臓が飛び出しそうだった。足りない酸素を補うように大きく息を吸い、再びマイクに向かって声を張り上げる。
「もしかしたら知っている人もいるかもしれませんが、以前ステラという名前で活動していました!」
このことを公表するか、すごく悩んだ。
過去のことを蒸し返され、批判されるかもしれないから。
でも私とずっと音を紡いでくれたのは他ならぬステラだから。一緒に連れて行きたいと思った。
あのあとスピカがどうなったのかは知らない。興味ない。もしかしたら梨々花と美波は知っているのかもしれないが、口にすることはなかった。それでいい。
今の私には、愚図に構ってる暇なんてない。
勝手に生きて勝手に死ね。
私はもう、SNSにはいないから。
「これからは夜野心星として活動していくので、よろしくお願いします!」
頭を下げても以前のように髪が首を撫でることはなかった。耳元と同じくらいの長さに切ったからだ。これも心機一転するために行ったこと。代わりに首元で小さな星型のネックレスが太陽に反射する。
まばらな拍手を聞き顔を上げたとき、道路の向こう側に、月城がいるのが見えた。
こちらを見ているはずなのに近づいてくる気配はなく、ただじっとそこに立っている。
今の私たちの距離はそれくらいがちょうどいい。
まだお互い傷は癒えていないだろうから。
ステラはもういない。
あるのはただ、私の身ひとつ。
私はほかの人に嫉妬するし泣くし落ち込むし恋だってする。未だに月城のことも好き。
こんな私では、ステラとは比べものにもならないだろう。
でも、もしさ。
「ステラ」じゃなくて「夜野心星」もいいって思えたら、また、声かけてきてよ。
私はずっと、音を紡いでるから。
「それでは聴いてください」
私は太陽になれない。すべての人を照らせるほど、私のひかりは強くないから。
私は月にもなれない。太陽から照らしてもらえるほど、私はできた存在じゃないから。
それでも、ぶつかって散ったきらめきを集めることはできる。
マイクに、掬いあげた音たちを乗せる。
「――『星屑の唄』」
〈了〉



