妃海がいなくなる。


 「っ、申し訳ございません、妃彩様」

 「大丈夫よ」


 慣れているから、これくらい大丈夫なのにね。


 「本当に……行くのですか……?」

 「……ええ。朝食を食べたら、すぐにでも。父が帰ってくる前には……部屋に戻るから待っててね」

 「……はい」


 きっと……私は罵声を浴びるだろう。
 ……でも、仕方ないの。晃が気にすることじゃないわ。だから、安心して?


 「お嬢様は……っ、魔力がお強い。何かあれば、妃彩様が……!」

 「大丈夫」


 妃海は、魔法違反はしないって断言できるから。椎名家は軽めの罰ならば許されているが、殺すのは流石に許されていない。
 妃海が一番大切にしている事は、王妃になる事。そして、父上もそれを願っている。ならば、違反をするはずない。今までだって、そうだったんだから。


 ……でも……いつもとは違うような、そんな感じがする。
 なぜだか、寒気が止まらない。
 ……それでも、私は行くしかないの。


 「……」

 「……食べ終わった。……妃海の所へ行ってくるわ」

 「……お気をつけて」


 ……本当に心配性だなぁ、晃は。


 ───コンコン。


 「あら、来たのね」

 「……はい」

 「ねえ……あんたさあ……生きてて恥ずかしいって思わないわけ? 馬鹿じゃないの?」

 「……思いません」


 晃が肯定してくれたから。


 「あんたがここから去れば……! あたしの立場は確定する! (かえで)様との婚約だって……!」


 ……楓、様。妃海って、次期国王との婚約前までいってるんだ……。


 「だからさあ……妃彩、ほら、消えなさいよ。あんたがいると、誰も幸せにならないのよ……っ」