「⋯⋯かなには、一生わからない」

 「⋯⋯ゆな、でもね───」

 「───今は放っといて」


 そんな言葉が聞こえて、ゆなが出てくる。


 「っ、ぁ⋯⋯すみません、こんなとこ」

 「ううん、私は大丈夫だけど⋯⋯」


 ゆなは、大丈夫なの? ⋯⋯そう言いたかった。
 でも、ゆなの瞳から涙が流れてきていて。私は驚いて、言おうとした言葉は、喉につっかかって⋯⋯出なかった。


 「⋯⋯では」

 「ぁ⋯⋯」


 遠ざかっていく背中に、声をかけることすらできない自分が不甲斐ない。


 「⋯⋯あ、妃彩様」

 「⋯⋯かな」


 そのうち、かなも扉から出てきた。


 「どうされました?」

 「⋯⋯ううん、なんでもない。私は部屋へ行くわね」


 ⋯⋯かなにも、言えなくて、そんな自分が悔しくて。でも、元々私には何も出来ない、って考えに、すぐたどり着いた。
 だけど⋯⋯仕方ない。そんな言葉で終わらせたくない。


 「あーあ⋯⋯私、馬鹿ね⋯⋯」


 零れ落ちた声は、静かな世界に溶けていった⋯⋯。