「これはこれは。雅哉様。
 この度はご婚約おめでとうございます。うちの出来損ないと……ありがとうございます。
 ところで、この椎名家の妃海とお兄様の楓様もご婚約、なんてどうでしょうか?」


 口早に紡がれる父の言葉。
 ああ……結局、私はどこまでいっても道具。それだけなのね。


 「……ふざけるな。
 出来損ないだと? 妃彩は出来損ないなんかじゃないだろ。
 俺が妃彩と婚約したのは、約束があったからだ。それに俺が……妃彩を救いたいと思ったからだ。
 お前はただの大罪人だ。
 そいつら一族と大切な兄を……婚約させるわけがないだろう」


 ……え。なん、て……おっしゃったの?
 出来損ないじゃ、ない? 約束? 救いたい? ……本当、に?
 なんで、言って欲しかった言葉を、言ってくれるの?
 なんでこんな私を……救ってくれるの?


 「行くよ、妃彩。
 茉奈さんのところへ」


 え? 茉奈様?


 「約束の相手は茉奈さんだからね」

 「そうなの……」


 でも、確かにそうかもね。茉奈様からは動きたくても動けないから……。


 父は、まだ、放心状態だ。そりゃあそうか。一番目指している婚約ができないと突きつけられたのだから。それに……王家に大罪人とか言われてしまったら……ね。