あれ? 私言ったかしら? ……まあ、いいか。

 ぼーっと雅哉さんの方を見ている。……凄いわね。あの人集りの真ん中に入っていったわ……。私には、できない。あの人数、怖くないのかしら……?
 それにしても……雅哉さんに少し用事があるのだけど……行けないわねえ……。ちょっと、怖いから。婚約者なのに近くに居れないのは変だけどね。これが、私の普通だから。ごめんなさいね。

 「雅哉〜! 妃彩ちゃん待ってるよ〜!! それに、私も用事あるからね〜!?」


 え、私?


 「咲羅、ありがとう。……久しぶりだね、妃彩。どうかしたの?」


 ……。


 「……妃彩?」

 「っ、あ、ごめんなさい。えーと、お父様とま……お母様のところへご同行するように言われているの」

 「……へえ。りょーかい」


 ……? なんで、目を細めて、決意を固めたような、そんな顔をしているの?


 「……ここ?」

 「うん」

 「いやー、緊張するね……真人(まひと)さん、厳しいし……」


 え、雅哉さんも?


 「俺、結構緊張するタイプ」

 「意外……」

 「うん、よく言われるよ」


 ……じゃあ……。


 「入ろうか」

 「はい」


 そして、ドアを開けた。