「失礼します」


 やはり、まだいらしていないわね。帰ってすぐはいつも忙しそうだし。
 書斎……か。ここは、私と妃海が、初めて遭った場所。
 ……懐かしい。


 あれは、私と妃海が五歳のとき。


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 『お母様〜、ここどこ〜?』


 幼い子供の声がして、


 『ここはね、和人(かずと)さんの書斎よ。本が置いてあるの。あの人は本当に本が好きだからね、小説も書いてるのよ』

 『そうなんだっ。ねえ、お母様は、何かしてるの?』

 『私? 私もねえ、本がだーい好きで、小説を書いているの。和人さんとおんなじ』

 『妃海は〜? 大好き?』

 『もちろんよ、妃海のことも大好き』


 他愛ない、親子の会話だ。

 そして、そこに現れた、私。


 『……あ、の……お父様に、言わ、れて……』

 『妃彩、どうしたの?』

 『ひいろ?』


 妃海は、最初こそ困惑していたものの、すぐに私と仲良くなった。

 この時、私は初めて妃海に遭った。

 お母様ときちんと話したのも、初めてだ。


 確か、お父様に『今からここに来る親子と話せ』そう言われたはず。