エピソード27
side東雲唯
「ふぅ……予定より早く着いちゃったかな」
何回経験してもこの季節は冷えるな。
今日は理央さんとイルミネーションを観る約束をしていた。
"イルミネーション"という響きが懐かしく、勢いで承諾したものの、やはり緊張してしまう。
そんなことを考えていると、後ろから声が聞こえた。
「ごめん! 待たせたか?」
「ううん。私も今来たところ」
「そっか……。それなら良かった」
私が記憶を失ってから二度目のクリスマスがやってきた。
去年はまだ安静にするべきだという医者からの言葉があったため、観に来ることができなかったが、今年こそは二人で観ようと約束をしていた。
初めは不安なことが多かったが、記憶がないということも今となってはもう慣れてしまった。
でも、時々大切なことを……思い出さなければならないことを忘れてしまっている気がする。
「あ、そうだ。これクリスマスプレゼント。約束してただろ?」
「そうだったね! じゃあ私からもこれ! プレゼント」
「じゃあ一緒に開けるか」
……あ!
「同じものだな」
「同じものだね」
まただ……。
何か……。
何かを忘れている気がする。
「……唯? どうかしたか?」
「……あ。いや……なんか前にもこんなことがあった気がするなって。そんな訳ないのにね! 私、記憶がないのに」
そうやって作り笑いを見せると、理央さんは驚いたような顔をしていた。
そして、急に真顔になったかと思うと、
「……そろそろ、本当のことを話してもいいかもしれないな」
「……え?」
そう言って彼はゆっくりと話し始めた。
それは、信じられないような内容だった。
理央さんと私は、恋人同士だったこと。
私は一度死んでしまったこと。
そして……
「俺は、そんな未来を変えるために、回帰してきたんだ」
その時、私の中にある記憶が嵐のように蘇ってきた。
初めて理央くんと出会った時のこと。
あの時は理央くんいかにも不良少年って感じがして少し怖かったな。
違う高校に通いながらも時々、連絡を取り合ったこと。
彼の優しさを知って、少しずつ惹かれるようになったんだよな。
私たちは結婚したものの、喧嘩をするようになり、私は1度命を落としてしまったこと。
今世の理央くんは、私に冷たい態度をとっていたこと。
それでもやっぱり理央くんは優しくて、いつの間にかまた君に恋をしてしまったこと。
私が理央くんに手紙でお願いをしたこと。
そっか……。
全て思い出した。
彼も私と同じ……。
記憶を取り戻した私は、涙を流す彼に向かってこう言った。
「大丈夫、私はここに居るよ。ここに……居るから」
二回目の人生を経験したことで分かったことがある。
未来を変えたいって思っても、それは想像以上に難しいことで、上手くいかないということの方が圧倒的に多い。
その度に自信を失い、私たちは絶望感に包まれる。
それでも生きていくしかないのだ。
未来を変えたいと思うのならば、まずは自分自身が変わらなければならない。
人は簡単には変わることができないと感じる時もあるだろう。
でも私は、少しの勇気ときっかけさえあれば、誰でも変わることができるのではないかと思う。
実際私は、理央くんと出逢ったことで変わることができた。
幸せになりたいと強く望んだから、未来を変えることができたんだと思う。
「理央くん、私すっごく幸せ。私、理央くんのことが好き」
これで私の約束も果たした。
「俺も、唯のことが好きだ」
そう言って彼は、私を優しく抱きしめた。
イルミネーションに照らされる雪が、まるで、私たちを祝福しているかのようだった。
「あなたの願い事は何?」
「私は……幸せになりたい!」
私はもう、大切な人を失いたくない。
大好きな人が、苦しむ姿を見たくない。
「あなたの願いを叶えるために、代償としてあなたの記憶を貰うわね」
優しい声が耳に届いた瞬間、再び眠りに落ちていった。
「大丈夫。あなたの願いは必ず叶うから」
神様、私の願いは叶いましたよ。
私の願い事を叶えてくださり、ありがとうございます。
でも神様もイジワルですよね。
ずっと見守っていてくれたなんて。
ずっと傍に居てくれたなんて。
もう少し早く気が付いていれば、あなたともっと一緒にいられたかもしれないのに。
だから、次会った時は覚悟していてくださいね?
今度は私が沢山の愛情を注ぎますから。
また、あなたに会えるのを楽しみにしています。
「……有栖」
side東雲唯
「ふぅ……予定より早く着いちゃったかな」
何回経験してもこの季節は冷えるな。
今日は理央さんとイルミネーションを観る約束をしていた。
"イルミネーション"という響きが懐かしく、勢いで承諾したものの、やはり緊張してしまう。
そんなことを考えていると、後ろから声が聞こえた。
「ごめん! 待たせたか?」
「ううん。私も今来たところ」
「そっか……。それなら良かった」
私が記憶を失ってから二度目のクリスマスがやってきた。
去年はまだ安静にするべきだという医者からの言葉があったため、観に来ることができなかったが、今年こそは二人で観ようと約束をしていた。
初めは不安なことが多かったが、記憶がないということも今となってはもう慣れてしまった。
でも、時々大切なことを……思い出さなければならないことを忘れてしまっている気がする。
「あ、そうだ。これクリスマスプレゼント。約束してただろ?」
「そうだったね! じゃあ私からもこれ! プレゼント」
「じゃあ一緒に開けるか」
……あ!
「同じものだな」
「同じものだね」
まただ……。
何か……。
何かを忘れている気がする。
「……唯? どうかしたか?」
「……あ。いや……なんか前にもこんなことがあった気がするなって。そんな訳ないのにね! 私、記憶がないのに」
そうやって作り笑いを見せると、理央さんは驚いたような顔をしていた。
そして、急に真顔になったかと思うと、
「……そろそろ、本当のことを話してもいいかもしれないな」
「……え?」
そう言って彼はゆっくりと話し始めた。
それは、信じられないような内容だった。
理央さんと私は、恋人同士だったこと。
私は一度死んでしまったこと。
そして……
「俺は、そんな未来を変えるために、回帰してきたんだ」
その時、私の中にある記憶が嵐のように蘇ってきた。
初めて理央くんと出会った時のこと。
あの時は理央くんいかにも不良少年って感じがして少し怖かったな。
違う高校に通いながらも時々、連絡を取り合ったこと。
彼の優しさを知って、少しずつ惹かれるようになったんだよな。
私たちは結婚したものの、喧嘩をするようになり、私は1度命を落としてしまったこと。
今世の理央くんは、私に冷たい態度をとっていたこと。
それでもやっぱり理央くんは優しくて、いつの間にかまた君に恋をしてしまったこと。
私が理央くんに手紙でお願いをしたこと。
そっか……。
全て思い出した。
彼も私と同じ……。
記憶を取り戻した私は、涙を流す彼に向かってこう言った。
「大丈夫、私はここに居るよ。ここに……居るから」
二回目の人生を経験したことで分かったことがある。
未来を変えたいって思っても、それは想像以上に難しいことで、上手くいかないということの方が圧倒的に多い。
その度に自信を失い、私たちは絶望感に包まれる。
それでも生きていくしかないのだ。
未来を変えたいと思うのならば、まずは自分自身が変わらなければならない。
人は簡単には変わることができないと感じる時もあるだろう。
でも私は、少しの勇気ときっかけさえあれば、誰でも変わることができるのではないかと思う。
実際私は、理央くんと出逢ったことで変わることができた。
幸せになりたいと強く望んだから、未来を変えることができたんだと思う。
「理央くん、私すっごく幸せ。私、理央くんのことが好き」
これで私の約束も果たした。
「俺も、唯のことが好きだ」
そう言って彼は、私を優しく抱きしめた。
イルミネーションに照らされる雪が、まるで、私たちを祝福しているかのようだった。
「あなたの願い事は何?」
「私は……幸せになりたい!」
私はもう、大切な人を失いたくない。
大好きな人が、苦しむ姿を見たくない。
「あなたの願いを叶えるために、代償としてあなたの記憶を貰うわね」
優しい声が耳に届いた瞬間、再び眠りに落ちていった。
「大丈夫。あなたの願いは必ず叶うから」
神様、私の願いは叶いましたよ。
私の願い事を叶えてくださり、ありがとうございます。
でも神様もイジワルですよね。
ずっと見守っていてくれたなんて。
ずっと傍に居てくれたなんて。
もう少し早く気が付いていれば、あなたともっと一緒にいられたかもしれないのに。
だから、次会った時は覚悟していてくださいね?
今度は私が沢山の愛情を注ぎますから。
また、あなたに会えるのを楽しみにしています。
「……有栖」